ししさめがソファー買う話 ダイニングテーブルで賭博口座の通帳を見ていた村雨が「獅子神、ソファーを買うぞ」と宣言した。
「いいんじゃねーの。どの辺に置くんだ?手術台はどかせないんだろ。別の部屋か?」と獅子神は洗い物をしながら返事をする。ここは獅子神の家だ。
獅子神の問いに村雨は不思議そうに小首を傾げる。
「何を言っている?この家に置くソファーの話だ」と、村雨は人差し指を地面に向けた。
「『何を言っている?』じゃねーよ」
おめーこそ家主を差し置いて何言ってんだ。
「いや、また私の賭博口座の残高が溜まってきたからな。折角だしちょこちょこ何か買おうと思った。こう言うのは気がつくと増えてるからこまめに減らさないと」
「理由じゃなくて、なんで俺の家に勝手に置こうとしてんのかを訊いてんだよ」
獅子神が反論する。ただでさえ村雨と共通の友人である真経津や叶や天堂が遊びに使うものを勝手に持ってきては置いていくのだ。別に部屋が狭いわけではないので生活面で困るわけではないのだが掃除をするのは獅子神だし勝手に捨てるのも気が引けてしまうのでそのままになっている。
「……現在私はあなたの交際相手で、この家で過ごす時間も相対的に増えている。なら、私が過ごしやすい様に私物を置くことが何の問題がある?」と村雨は答える。
「私物にしちゃデカくねーか?」と獅子神は反論する。
女と付き合っていて風呂場にメイク落としやシャンプーが増えたり、洗面所に化粧品やスキンケアが置かれ始めるのとは訳が違う。
「CTやMRIに比べたら大したことはない」
「医療機器と一緒にすんなよ」
「本当は手術台やモニターを置きたいが、あなたの家である以上妥協してるんだ。ソファーくらい大したことはないだろう」
さらさらと立板に水が流れる様に村雨は話す。反論の余地を与える気はない様だ。こうなったらひよっこハーフライフの獅子神は口では勝てない。
ちょうど洗い物が終わったので獅子神は手を拭いて村雨の後ろまで移動した。
「……買うならせめて撥水加工してあるやつか、掃除しやすい素材の奴にしろ」
「何故?」
「どーせ真経津や叶がジュースこぼしたり菓子ボロボロこぼしたりすんだろ。汚れても掃除がしやすい」
「なるほど。一理あるな」と、村雨は頷く。
「その要望は叶えてやろう」
本当何様だこいつ。
「それでは出かけるぞ獅子神」
「は?」
「家具屋に実際に現物を見に行く。運転は任せる。」
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そして10日後。家具屋で村雨が発注したカウチソファーが届いた。白地の布を使われたそれなりに大きさのあるそれは寝転がるのも座るのも良しの品だった。
「ふむ。予想以上だ。気に入った」
村雨は早速座ってご機嫌な様だった。
「そりゃよかったな」
獅子神は村雨の隣に座る。
(それにしても……)
家の中にどんどんと村雨の私物やテリトリーが増えることが全く気にならないことに今更ながら獅子神は気がつく。それこそ手術台を置かれても(まぁーしゃーねーか)と思ってしまいそうな自分がいる。
とはいえ致し方がない。それが惚れた弱みというやつだ。
「村雨」
「どうした……んっ」
こちらを向いた村雨が何か言う前に口を唇で塞ぐ。
「んぐっ、……んっ、」
「おい、んむっ……っ、こらっ……獅子神っ、おい!」
「いや折角だしこう言う使い方もいいかなって思ってよ」
獅子神はそのまま村雨の足の間に入り込み組み敷いた。
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「……獅子神」
「どした」
「あなたソファーの条件に『撥水加工してあるか、掃除しやすい素材』を挙げていたな」
「おぉ」
「こう言うことを見越してだったか?」
「……どうだかな」