ルイス、と名前を呼ばれて振り返ると、そこには両手でマグカップを包んで立ち竦むイサミの姿があった。目が合うとじっと見つめられ、スミスは言葉もなくイサミの訴えを理解する。
「Okay,Honey。おかわりを淹れてあげような」
イサミの手からひょいっとマグカップを受け取るとイサミが満足げな表情を浮かべ、要望が間違っていなかったことを確信する。
一緒に暮らし始めてから、イサミは随分と甘えるのが上手くなった。甘やかされるのは好きなようなのに、本人のシャイな性質と甘やかす方が得意な性分が相まって、なかなかどうにも素直に甘えてくれなかったのを、丁寧に変えていったのはスミスだ。
イサミが甘えてくれることでスミスが甘やかされているのだと教え込んだ。イサミが甘えてくれるとどれだけスミスが幸福になれるかを擦り込んだ。イサミに甘えられるともっともっとお前を好きになる、小指の先ほども負担はなく、全幅の信頼を感じられて嬉しいのだと、スミスの全てで証明してみせた。
お陰で今はこの通りだ。それでも滅多に甘えた仕草は見せてくれないけれど、覚悟を決めるとやりぬく男だから甘える時はとことん甘えてくれる。
「イーサーミー? 動きにくいよ」
今も豆を挽くスミスの背中にぴったり寄り添って、硬い肩甲骨にぐりぐりと額を押し付けてくる。時折いたずらな唇がうなじに吸い付き、折角甘えられているというのに珈琲豆なんて放り出してしまいそうになる。
「My sweet,いたずらは程々にしてくれ」
「やだ」
やだ、だって。眩暈がするほど可愛くて天を仰ぎたくなる。
「このままだとコーヒーが淹れられないけどいいのか?」
「いやだ」
「……My princess is really selfish」
「That makes you happy, doesn't it」
お前がそうしたんだとイサミが笑う。お前の好みになってやったんだと。
「あー……イサミ?」
「なんだよ」
「I feel like spoiling you」
ご要望のコーヒーはきちんと淹れるから、このあとたっぷり、寝室で愛させて欲しい。