この間のスーツに合わせるシャツを作ってる。はずだった。
最初はデザインに納得がいってないんだ、と思って、されるがままのラスティカのシャツのボタンをあけたりしめたり、そでをめくったり下ろしたりしていたんだけど、どうやらそうじゃない。
なんかじゃれたい、もっとさわりたい、そんな、あれだ。
ラスティカはたまにサイドテーブルの紅茶を飲んだり、俺の髪をくるくるさわって遊んだりして完全にくつろいでいる。それなのに俺は、ラスティカのたまにこくんと動くのどや、ふふっと笑う声、シャツのすきまのしっとりした肌に意識をとらわれて、ひとりで焦ってなんかもう、暑い。
「クロエ、少し汗をかいているね?」
「あっ、うん、ごめっ」
「どうして謝るの? きみも脱ぐ?」
ラスティカは小さく首をかしげながら、つ、と俺の胸のリボンタイにふれてくる。驚いてうわっと仰け反った俺に、覗きこむような、やけにきらきらした視線が向けられた。
「おかしなクロエ」
「だ、だめだよね、俺っ、」
「ううん、とっても良い。そんなところも、僕の大好きなきみのひとつなんだ」
やさしい手が顔に添えられて、頬にやさしいキスをされる。なにもかもがやさしくて、甘すぎるほど甘やかされている。それなのに、それだけじゃどうもむず痒くて、足りなくて、もっとあんたにふれたくて。でも、どうしたらいいかわからなくて。
そんな俺を見透かすように、ラスティカがささやく。きみのしたいように続けて、と。
ラスティカの肩のまるみ、手首のかたさ……俺はラスティカのどこもなんでも大好きで……。ほとんどはだけたシャツは申し訳程度にラスティカに纏われてそれがなんだかやけに……色っぽい。
「……僕の身体が好きなんだ?」
「っ、う、すき……。あんたの、身体だから……」
「どこが好きか、教えて?」
椅子にかけたラスティカの前でひざまずき、その手をとって握る。裁縫道具でごちゃごちゃした俺の部屋のなか、いちばんの宝物はやわらかく微笑んでる。
「手も手首も、すき。ん、ん、肩も、首も、胸も、お腹も……」
ひとつ、ひとつ、ラスティカの身体にキスしながら追う。
そうしていると、今まで何度も愛されたことを本能的に思い出して、切なくて胸がしめつけられる。愛しい気持ちがうれしくて楽しいだけじゃないことは、ラスティカが教えてくれた。
愛しているからこんなに苦しくて、はやく許されたくてたまらない。その気持ちと向き合うのは、まだちょっとだけこわかった。
「ここはどう?」
そう言いながらとん、と指が置かれた先にあるのはいつもより少し赤く色づくラスティカの唇で、ああもうあんたには本当に敵わない、自分がまわる星になってしまったみたい、いとおしいほどの引力が、俺を惹きつけてはなさない。
「すき……すき、ラスティカ、大好き」
「クロエ、きて」
ぎゅっと繋ぎ直した手が、本当にくっついちゃったみたいにぴたっとくっついて、もう離れないかも、でもそれでもいいかも、なんて、思う。
これまで数えきれないくらいたくさんキスをしたのに、自分からするのははじめてだった。ぎこちない俺を、ラスティカは包むように受け入れてくれる。何度もそっとふれるうち、小さく笑う吐息が混じって、それを追いかけてまたキスをした。
「あ、」
「うん?」
「……ルージュベリーの味がする? あんた大事にとっといたマカロン食べたでしょ?」
「ふふ、どうだったかな?」
「もう……」
ふたりでもつれるようにベッドに倒れこむ、その瞬間ふわっといい香りがした。ラスティカの香りと自分の香りが合わさったような気がして、うれしいのと恥ずかしいのが一緒に来た。
「クロエの分はちゃんと取ってあるから心配しないで。食べてみるかい?」
「ううん……、あとにする。あのね、それより、その、…………お願い。だめ?」
「僕がクロエのお願いを叶えないことがあった?」
「ない…………」
「今までもそうだし、これからもその予定なんだ」
あ。腰を抱き寄せられて、いま、形勢逆転したんだとわかった。背中にぞくぞくしたやつが走って、じんと痺れるような感覚がある。これには、いつまで経っても本当に慣れない。
こわくて、甘くて、全部がひっくりかえっちゃうくらい気持ちいいやつだ。
「ラスティカ、すき、……」
ひとりごとみたいにこぼした言葉も、ラスティカは全部をすくいあげて大切にしてくれる。
泣いているのをなぐさめるようにラスティカがくれるキスが、俺は好きで、大好きで、
「……もっと、って顔してる」
「だって、もっとって、思ってるもん……」
ふう、と小さなため息のあと、きみが可愛すぎるから仕方がないね?、って耳元で大好きな声が響いて、くすぐったくて、俺は笑って目をとじた。