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    サバの水煮

    おいしい

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    サバの水煮

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    野心家水木と『死んだ』情報屋敷島の哭倉村リベンジャーズ前日
    カプ色ないので鍵なし

    「頼まれていた、龍賀一族の資料です」
     手渡されたスクラップブックに、俺は思わず口元がにやけてしまった。この人は目が良いから、暗い中でも多分俺のニヤけ面は見えてるだろう。
     黒いハットに長い黒い髪。前髪の隙間から覗く死んだ真っ黒な目。暗い赤のマントの下の書生のような奇抜な服装。
     この人との出会いは数年前。街の路地裏で、埃まみれで死んだように眠っていたのを拾った。名前を聞いたら「しき」と言いかけて黙ったから、それ以来シキさん呼んでる。
     この人は根を持たない草で、ふらふらどっか彷徨って生きてきたんだという。年齢からすると多分俺とそう変わりない。戦争経験のことを聞くと黙り込んでしまったから、それ以来聞いてない。
     俺はこの人の根無しっぷりと身元不明な様子を少し利用する手を思いついた。俺がこれから成功していくために、情報を集めて欲しいと言った。シキさんは最初嫌そうな顔をしたが、一宿一飯の恩もあるからと渋々了承してくれた。
     そうして、集めてくれたのは俺が今近づいている龍賀克典についての情報だった。
     俺自身の手でこの男に近づくのは少し難しいところがあったが、シキさんが集めてくれた龍賀克典の情報は大いに役立った。龍賀家に入り婿となった後はなかなか情報が掴めなかったそうだが、婿に入る前の克典の情報は少し掘ればすぐ出てきたと、シキさんは表情を変えず言ってみせた。
     この男は使える。俺は去ろうとするシキさんを引き留め、『契約』を持ちかけた。
     俺が出来る範囲でこれからもシキさんの飯と宿を用意する代わりに、これからも情報収集で力を貸して欲しいと言った。
     シキさんはすごく嫌そうな顔をしたが、俺があまりに粘ったからか、朝話し始めその日の夜には頷いてくれた。その代わり、とシキさんからひとつ条件が合った。シキさんのことを、この世から隠すこと。この人を隠すことは俺のとっても重要なことだから、すぐ条件を飲んだ。そうして、俺達は協力関係になった。
     龍賀製薬、血液製剤M、龍賀の一族。情報はなによりの力だ。俺は持ってる全てをシキさんに話し、その上で龍賀の一族について調べて欲しいと依頼しまとまった金を渡した。
     シキさんはその日の夜から、約一ヶ月消息を消した。まさか金を持って逃げたかとヒヤヒヤしたが、お袋が寝た後の俺の家にひょっこり戻ってきた。二階だぞ、と叫びそうになったが、あまりにもシキさんが普通の顔をして窓から入ってくるから、俺は完全に毒気を抜かれてた。
     龍賀時貞を筆頭とした、龍賀一族。名前だけでなく写真までついているこのスクラップブックは、かなり貴重な情報だ。
    「どうやって情報を集めてきたんだ」
     俺が聞くと、シキさんは相変わらずの無表情だった。
    「戦争の頃の伝、ですかね」
     無言で無視されるかと思ったら、返事をしてくれた。それだけで少し驚いたが、この人があんなに嫌そうだった戦争のことを口にするのもまた驚いた。
    「大したものではありませんが、秘密です」
     シキさんは俺がとっておいた高い日本酒を飲みながらそう答えた。報酬はこれと宿で良い、と。安上がりな男だと思った。
    「戦争の、形が変わったんです」
     夜が更けた頃、二合ほど飲んだシキさんは不意にそんなことを呟いて、そのまま俺の布団の上で丸まって寝た。
     いつも被ってる帽子が転がり、黒っぽい赤のマントは驚くほど綺麗に布団の上に広がっていた。足を曲げて丸まって眠るシキさんの顔を、初めてよく見た。目の下は隈ができていて、疲労が見えた。どんな死線をくぐってこの情報を集めたのか、俺はそこまで知り得ない。ただ、これはありがたく利用させてもらうことにする。
     それが、俺が上に行くためにも必要なことだから。
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