種族反転😈 いつもよりきれいな部屋、用意された2つの椅子。
あまり落ち着きませんねえ。すぐ済む予定とはいえ…
ピンポ〜ン
―――おや、もう来てしまいましたか。相変わらず予定の時間より早く動くんですね。
家族相手にも気が休まらない様子。それはオレちゃんにしっかり受け継がれてしまいましたが。
とにかく家に居れる他ありません。この日のために少し片付けしましたし、文句は言わないでしょう。
「いらっしゃい…お久しぶりです。お母様。」
「そうね…お変わりないようね。B。」
今のオレちゃんは改名してブラックなのですが、この人はずっと自分の付けた「B」という名前で呼んできます。過去を掘り返されている気分がして苦手なんですよねえ。
「おじゃまします。」
毅然として、上品な振る舞いで、家にあがる。
この人はどこにいても某大手企業のCEOの風格がある。オレちゃんの母親、という唯一無二のオーラはいまや感じられない。
それはオレちゃんの心が「家」から離れているからであって、この人は秘書も付けずオレちゃんの家に来ているんだから、母親として動いているのは間違いない。
「……飲み物どうします?」
「お茶をお願い。」
「はい。」
お茶を出して、ついでに水羊羹も付けました。さとしくんにあげようとして断られたものです。
そういえば、今日はさとしくん来ませんよね?
とくに連絡は入れてないですが―――
「ブラック〜!おはよ〜!」
禍々しいポータルからひょっこり出てきたオレちゃんの悪魔の友達。
「あぁ、さとしくん、来てしまいましたか…。」
「ガッカリされた!?」
ガッカリはしてませんが、今来て欲しくなかったことは確か。
お母様には一応ナイショにしてたんですから、オレちゃんがさとしくんとYouTuberやっていること。
「B。その子はたしか、さとしくん?」
「……バレてたんですね。そうです、オレちゃんの相方、悪魔系YouTuberです。」
「その白い羽は天使のものじゃないの?」
「堕天使だそうです。」
「へえ、さぞかし悪いことをしたのね。
普通の子供じゃないということは……Bになにを吹き込んだのかしら?」
さとしくんはキョトンとして、オレちゃんとお母様を交互に見ています。そりゃ意味分かりませんよね、無実なんですから。
「さとしくんと一緒にいるのはオレちゃんの意思です。さとしくんは鬼ヤバなんですよ。ねえ?」
「え?それ褒めてる…?」
「褒めてます、いつも褒めてるじゃないですか。」
「嘘つけ!」
「カカカw」
やっぱりこの子と話すのは楽しい。人間と話すより、親と話すより、赤の他人だったはずの悪魔と話すのが1番心休まるんだから……人生何があるかわからない、と実感できます。
「B、わたしがあなたに会いに来たのは会社に入る気はないか、もう一度確かめに来たのよ。」
「答えは変わりませんよ。
あの人に次期代表は譲ればいいでしょう?オレちゃんよりずっと人の上に立つのが向いてます。」
「……そう。」
「何が不満なのかわかりませんが、オレちゃんはさとしくんとYouTuberやるほうがずっと楽しいです。企画で一日社長くらいの話なら、やってもいいですが。」
「わかったわよ、もう聞かないわ。邪魔したわね……水羊羹は二人で食べなさい。」
席を立って、さとしくんを一瞥してから背を向けて出ていきました。
オレちゃんの勘ですが、日を改めて来るんでしょう。今度は外食に誘われて、さとしくん抜きで話したがる…。
ま、何度こられても、さっき言ったように答えは変わりません。
後ろめたいこともない、だから何度でも応じます。
「ブラック…。」
「あ、驚かせてしまいましたか?あの人のことは気にしないでください、いつもあんな感じですから。」
「………。」
「? 水羊羹たべます?」
「それは要らない。」
「そですか。」
水羊羹を食べながら、ようやく考えがまとまってきた様子のさとしくんの話を聞きます。
「おれさ、事情はよくわからないけど、あの人さびしそうに見えたよ。」
「はい?寂しそう…?」
「うん。あの人ってダレ?ブラックの彼女?」
「お母様です。」
「おかあさま!!??若すぎない!?」
「たしかに若く見えます、もう40代なんですけど…。」
「俺のお母さんより年上じゃん!?」
「年齢はどうでもいいじゃないですか、寂しそうってどういうことか、聞かせてください。」
「えーと…ただそう見えたってだけで、なんでとか、わかんない……。」
煮え切らないですね。でも、悪魔はマイナスの感情を人間より感じやすいらしいので、そういうことでしょう。
「ブラック、家族なんだからちゃんと話しなよ。
って邪魔したおれがいうのもなんだけどさ……」
「……さとしくんがそういうなら、間違いはないでしょう。
オレちゃん、家に戻りたくない一心で冷たい対応をしてたかもですね。
今度はもう少し話を聞いておきますよ。」
「うん!仲直りできるといいね!」
「…ケンカはしてないです。」
オレちゃんの家庭事情を話せば長くなるし、面白くもない話です。ま、でも、家族仲は良い方がいいですよね。
悪魔に諭された、なんて言ったらあの人は良く思わないかもしれませんが。
「……さとしくん、君の企画を使ってもいいですよ。」
「え!?じゃあ…公園でダンゴムシ10匹捕まえてみた!」
「やっぱり止めましょう。」
「なんなんだよ!!」