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    setsuen98

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    setsuen98

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    🌊🔮。芸能人×メイクさんパロ。
    まだ付き合ってない二人です。

    #suuki

     大きな鏡に写る自分の顔を見れば、あまりに不格好な表情に苦笑が溢れる。無意識に眉間に力が入り平素に比べ険しい目元に反して、口元はスタンプを押したようにわずかに口角が上がったまま。デビュー当時から、基本的にいつでも笑顔で、と口酸っぱく言われ続けた教えに忠実に従う自分の表情筋が今は恨めしい。
     デビューしてから駆け抜けてきたこの数年、自分なりに努力を積み重ねてきたおかげか、歌だけではなくテレビ出演や演技など、様々な仕事をもらえるようになった。有難いことに熱心に推してくれるファンもつき、かつて夢見た姿に少しずつではあるが近づけている。それなのにどうにも自分は欲深いようで、同じ事務所の後輩たちがデビューするなり順調すぎるほどのスピードでテレビやステージなど華々しい活躍を見せる度、劣等感と羨望が溢れどうしようもない気持ちに苛まれ、手のひらに爪が食い込むほどに握りしめそうになるのを堪えてすごい!と手を打ち鳴らす。そんな自分の姿が滑稽で醜くて、後輩たちに合わせる顔もなくなって、思考が自己嫌悪で埋め尽くされる。そんな気鬱が続く時がたまにあり、今まさにそんな気持ちを抱えながら雑誌撮影のためにメイクルームに入れば鏡に映るのはこの様。思わず項垂れ、少しでも胸中がすっきりしないかと大きく長く息を吐く。
    「うわ、でっかいため息。俺が入ってきたことへの不満とかじゃないよね?」
     息を吐き切って新しい空気を吸い込んだ瞬間、背後から聞こえた声に肩が跳ね弾かれるように上体ごと入り口へと向けば、大きなバックを肩にかけ後ろ手に扉を閉めるよく知る人物の姿に驚き目を見張る。
    「浮奇…?え、今日のメイクさん、浮奇くんなの?」
    「そう、一本前の撮影がスハの事務所の新人くん達だったから、事務所の人に頼んでそのままスハのメイクも担当させてもらう事にしたの。…俺じゃご不満?」
     あっという間に私の隣に立った浮奇は重そうなバックを下ろし、手早くメイク道具の数々を広げながら冗談めかした声で問い、ケープをかけるついでのように顔を覗き込んでくる。まさか、不満だなんてそんなわけがないとブンブン首を横に振れば、さも当然、とでも言う様ににやりと笑うのがすごく様になっていて、今の私の目にはすごく眩しく映った。
    「前髪あげるね。…で、スハはなんでそんな変な顔してるの」
    「ん。…変な顔ってひどいなぁ。私の顔好きじゃない?」
    「今のしんどそうな顔はあんまり。演技とかでその顔してるとしたら、セクシーでそそられるんだけどね。…話して楽になることなら、メイクの間無料で聞くけど?」
     化粧水をたっぷり染み込ませたコットンが触れると最初こそその冷たさに肌が粟立つものの、体温が馴染み優しく撫でる様にされると心地よさに自然と瞼が落ちる。浮奇の顔が見えなくなったのをいい事に、無意識に潜めた声でそっと弱音を溢し始める。
    「…情けないんだけど…後輩たちがとんでもないスピードで人気になって、何年も先にこの世界に入った私がまだ知らない大きな舞台に立って、キラキラしてて…いつか私もあんな風に!って思いはするんだけど、本当になれるの?って…こう、弱くてじめっとした“根暗スハ”がね、ひょこっと顔を出して来ちゃって。…こんなんじゃダメだなぁって…、」
     いくら戯けたように話してみたところで、後輩を妬んでいる格好悪い内容に変わりはない。吐露した直後から話してしまった事を後悔していると、化粧水が馴染んだか確かめる為に肌に触れる浮奇の手の甲が、ふにふにと頬を潰す悪戯めいた動きをした事で思考が途切れる。
    「あのね、吐くならもっと遠慮なくいいなよ。狡い!私ももっと売れたい!悔しい!って。そんな風に言ったとしても俺はスハに幻滅したりしないし、格好悪いとも思わないよ」
     浮奇の顔を見るのが怖くて閉ざしたままだった瞼を上げれば、思ったより顔が近くて、そして、どうしてそんなふうに優しく微笑んでいるのかわからなくて、瞬きも忘れ見入ってしまう。そんな思考を知ってか知らずか、彼の手は止まることなく次々と化粧品を取り出し私の肌にブラシやスポンジを滑らせながら言葉を続けた。
    「俺だって自分がやりたかった仕事を他のメイクアップアーティストが担当してたら、思いっきり妬んだりなんで俺じゃないのって思うし、羨むのって悪いことじゃないと思うけど。スハはただ狡い狡いってグズグズ言うだけとかじゃなくて、どんなに落ち込んだって最後にはちゃんと自分のファンのこと思い出して、ありがとうって笑ってくれるでしょ。それがあればファンはいつまでだって待てるんだから、落ち込むことに自己嫌悪なんかしなくていいの。大ファンの俺が言うんだから、間違い無いでしょ」
    「…浮奇から見て、私はちゃんと笑えてる?」
    「ファンの前に出る時はいつだって素敵な笑顔だよ。俺はこういう所でもスハを見てるから、落ち込んでる時はちょっと苦しそうだなって気づいちゃうけど…こういう特殊なファンは別ね」
     目を閉じるよう促す言葉に再び瞼を落とすと、その上をそっとブラシが撫でる。優しく何度も往復するその動きに、まるでよしよしと撫でられているような擽ったい気分になる。
    「これはあくまで自論だけど。エンターテイナーのスハがいくら世界に向けて愛を向けて微笑んだって、世界がスハに向けて同じように微笑んでくれるかって言ったらわからない。否定されることも多いかもしれない。でも、少なくともね?スハが笑わない限りは、世界が笑顔を向けてくれることはないと思うんだよね」
    「とりあえず、笑っとけってこと…?」
    「極論はね。もちろんプライベートは自由だよ?ただ、カメラの前やステージに立つ時はいつだって顔を上げて、エンターテイナーとしてのミン・スゥーハとしての笑顔を見せなきゃ。世間の人から見たスハはプロなんだから」
     丁寧で優しい手つきと裏腹に、落ち込んでいる人間には少し厳しくも聞こえるような言葉が渡される。それでも声音はこの上なく愛情に満ちていて、中途半端な慰めなんかより、よっぽど染み入る。
    「虚勢だろうがなんだろうが、笑顔は武器であり鎧にもなるでしょ。もし何かあって笑えなくて本当にどうしようもない時は、俺が鎧を着せてあげるからいつでも呼んで。口角が上がってるように見せるメイクは得意だし、泣き腫らして赤くなった目元だってばっちりケアした上でセクシーに見えるように仕上げてあげる」
     目の下にサッとブラシを走らせ、口を薄く開くように指示をする浮奇を見上げれば、リップを手にして再びこちらを向く瞳と視線がぶつかる。
    今日は笑えそう?と尋ねる声が何より優しくて、色々な感情が込み上げてきて苦しくなる。耐えきれず溢れる吐息と共にうん、と答えた声は我ながら情けないほどか細くて、もう一度大丈夫と言葉にして返す。
    「でも浮奇は人気者でいつも引っ張りだこだから、私が呼んだって来てくれないんじゃない?」
    「人気だからこそ、いざという時多少のワガママが通るってこともあるんだよ。スハは俺の特別だから、直接連絡くれたらいつでも駆けつけてあげる。…特権で家への出張サービスもしてあげるよ?」
    「…本気にしちゃうから、あんまりそういうこと言わない方がいいよ」
     少し荒れてるからちゃんとケアしてね、と言いながら保湿用のバームを塗って私の唇をくるくるとマッサージする指先を軽く食んで咎めると、長い睫毛がゆっくりと上下し、楽しげに細められた目元でラメが煌めく。計算し尽くされたようなその仕草に見惚れている隙に容易く逃れた指がブラシを持ち、筆先に馴染ませたリップをまだ浮奇の指の感覚が残る唇に丁寧に乗せていく。
    「むしろ本気にしてもらわないと困るんだけど。言ったでしょ、スハは特別だって。スハが頷いてくれるなら、恋人特権って言い換えられるんだけど。…ん、ちょっとオフしようかな」
     さらりと落とされた爆弾。何事もなかったかのように眉を顰めティッシュを抜き取ろうとする浮奇の手を咄嗟に捕らえ、さらに対の手の平で頬を覆い掌底を顎に添えるようにして少し強引にこちらへと向き直らせる。初めて触れる浮奇の肌の滑らかさやあたたかさが手に伝わると、何、と驚きに目を見張る浮奇の問いに答える事なくその感触に酔いしれてしまう。
    指先が耳まで覆ってしまうような彼の顔の小ささも、こうして触れなければ分からなかった。それを知れたことが嬉しくて、人差し指を耳殻の窪みに這わせ耳朶を軽く引っ掻く悪戯に首を竦め警戒するようにこちらを窺う視線が新鮮で、きっと今日一番の笑顔が溢れた。
    「ちょっと、何してるの」
    「浮奇。私の口紅、落とすの?」
    「色が乗りすぎたから、押さえようかなって…ねぇ、この手なに…どうしたの」
    「なら、いいよね」
     何が、との問いも聞こえないふりで私の手のひらから逃れようと身じろぐ浮奇の手を握り直して引き寄せ、有無を言わせず口付ける。突然のことに困惑しているのかなんの反応もなく固まったままなのをいいことに、何度か角度を変えて啄み、名残惜しいとは思いつつ顔を離す。ぽかんと薄く開かれたままの浮奇の唇に薄ら色が乗っているのを確かめると、もう一度ちゅ、と口付けてにっこりと笑って見せた。
    「どう?いい感じに落ちた?…特権は今日から使えるのかな」
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    setsuen98

    MOURNING🦁👟みたいな何か。付き合ってません。
     ほぼ満席状態の店内。二人掛けのテーブルにルカと向かい合って座ってから、なんとも言えない無言の時間が過ぎていく。と言っても実際には大した時間は経っていないけど、黙り込んだまま相手が口火を切るのをただ待つ時間は何倍にも長く感じられる。だからと言って、いつもの快活とした姿とは異なり神妙な顔でテーブルを見つめるルカに「話って何?」なんて無遠慮に本題へ切り込むことなんて出来なくて、手持ち無沙汰にカップに口をつけブラックコーヒーをちびちびと啜るしか出来ず、日差しが降り注ぐ外をいい天気だなぁ…なんて現実逃避まがいに眺めていた。
     「シュウに相談したいことがある」と改まって連絡がきた時は、一体何事かと身構えてしまった。まさかルカの身に何か深刻な問題でも起きているのかと心配になり即座に了承の返信を打てば、カフェでお茶でもしながら聞いて欲しいとの思いのほかゆったりとした回答に、勝手な杞憂だったのかと胸を撫で下ろしたのが数日前のこと。ただ実際に顔を合わせてみるとこんな風に一切読めない様子で、大きな問題でないことを願う最中、突然ルカが顔を上げ僕の方を見つめたかと思えば、また直ぐに視線を落とし何度か口をモゴモゴとさせてようやく口を開いた。
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