ベイビィ・ロマンチカ「じゃあスグリはあっち側担当な。ちゃんと宣伝しろよ」
「う……、うん……」
文化祭。クラスの出し物は男女逆転執事メイド喫茶。もちろん俺もメイド服を着ていて、今は宣伝のために看板を持って校内を歩き回る仕事を任されていた。フリルがついた膝より上の短いスカート、半袖のフリル付きシャツに首元に赤いリボン。そしてこれまたフリル付きのエプロンと腰元にもでっかいリボン。男子から抗議の声が上がるくらいそのぜんぶが薄くて、何だか着ていても不安になる。衣装担当の女子達が「予算があればもうちょっとマシなメイド服買いたかったのに」とぼやいていたぐらい薄くて「縫製も甘いから気を付けて」と言われた。頭にも何かふりふりのカチューシャみたいなのを乗せられ、髪も女子がいじっていた。鏡を見ていないから自分がどうなっているのかは知らないけど「スグリくん他の男子より髪長いからいじりがいあるね」と言われたから多分気合いが入った凝った事にはなっているのだと思う。
「い、いちねんよんくみ、教室で執事メイド喫茶、やってます……」
クラスメイトが作った看板を持って、うちの生徒や校外の人も沢山いる廊下を俯いて歩く。さっき別れたクラスメイトに見られたら声が小さいとか下向くなとか、怒られるかも知れない。でもこんな格好、恥ずかしいし、やっぱりペラペラの布はどうしようもなく心許ない。夏場の暑い日の寝る時に着てる服くらいペラペラなのにその上短いスカートで、絶対こんなの人前歩くやつじゃない。みんな俺の事見ないでほしい。看板の文字だけ見てほしい。いや、誰も俺の事なんか見てないのかも知れないけど。下を向いて歩いているから、まわりがどんな顔をしているかなんて知らないし、知りたくもない。はやく、指定された場所を歩き終えて教室に戻りたい。俺も料理ができたらよかったのに。提供されるメニューは殆どがレトルトだし、同じようにメイド服を着せられてはいるものの、注文の入った料理や飲み物を用意する担当グループのリーダーだから、アカマツはずっと教室の中にいる。羨ましい。
長い時間足もとを見ながら歩いていると、だんだん気持ち悪くなってきて、ちょっとだけ、ちょっとだけだからと自分に言い聞かせて、近くの教室へと駆け込んだ。
「……もうやだ」
電気もついていない教室。普段は授業で使われていても、文化祭では使われないから今は何も無い。薄暗いだけの部屋。窓の外からも、廊下からも、楽しそうな音楽や声が聞こえてくるだけ。
サボらずちゃんと仕事をしなきゃ、と思うのにこの格好で人前に出るのが嫌で嫌でしょうがなくて、せめて、誰か知り合いが一緒に居てくれればもう少しマシかも知れない。けど、みんなそんなに暇じゃないから。
壁にもたれて、ずるずると座り込んで膝を抱える。ペラペラのメイド服はすぐシワになってクセが付いちゃうから座るのも気を付けてって女子に言われたのを思い出す。ごめんなさい。でも、もうむり。
戻らなきゃいけないのに、動けない。みんな、恥ずかしいとか言いながらちゃんとやってるのに。俺だけこんな嫌がって、こんな事ぐらいでとか、ノリ悪いとか、そういうの、思われてるかも。なんか、泣きそう、かもしれない。
「うう……」
この格好がどうしても嫌だし、学校の中には知ってる人も知らない人も溢れていて、その中でこんな格好をして、文化祭が楽しいものというのは分かるのに、嫌な事が多くて……そんな自分が情けないし、クラスメイトたちに呆れられる想像は止まらないしで、本格的に涙がこぼれそうになってきた時だった。
扉が開く音がして、思わず肩が跳ねる。
「おっ、いたいた」
明るい廊下から、薄暗い教室の中へ入ってくる人影。こわい、と思いながらそこに視線を向ければ、そこにはいつも通りのカキツバタが居た。
「な、んで……?」
なんでカキツバタがここに。カキツバタは俺の頭のてっぺんからつま先までをじろりと見たようだった。見ないで。いやだ。ぎゅっと膝を抱え込んでちいさくなる。
どうせ、嫌なことを言われる。笑われる。明日からずっと今日のことを言われ続ける。この格好も、ここで動けなくなってることも、泣きそうな事も、ぜんぶ、言いふらされて、こんな事でとか言われて、笑い話にされて、嫌な思いをさせられる。そんな事ばっかりが思い浮かんで頭の中をかけめぐる。
「大丈夫かぃ」
「…………」
「スグリが死にそうな顔で体調悪そうにこの辺歩いてたって言われたから来てみりゃあ……」
声はやさしい。でも実際カキツバタが今どんな顔をしているのかは分からない。頼むからほっといて。今、嫌なこと言われたら、本当に泣いてしまう。
「スグリ」
カキツバタは俺の前にしゃがみ込んで、俺の顔を覗き込もうとしてくる。だからより一層膝に顔をうずめる。
「……なんもない、大丈夫……だから、ほっといて」
何でこんなに嫌なのかは俺もわかんない、けど、この格好をしてる俺をこれ以上見ないでほしい。自分でもどうしたらいいか分からない。
「……大丈夫、にゃ見えねぇけど」
怖い。ほっといて。助けて。わからない。カキツバタなんでここにいんの。こんな俺にどうしろって言うの。今は、本当に、無理だから。
「お願いだからどっかいって」
声が震える。こんな服着たくらいで、こんなに嫌がって、情けないって自分でも思う。分かってる。俺以外にもメイド服着るの嫌って言ってた男子はいたけど、それでもみんな文句言いながら今日だってちゃんとやってる。こんなに嫌がってる俺がわがままなだけ。俺だけが、みんなと一緒に、できてないだけ。
「あー……ここ涼しくっていいねぃ。隣失礼すんぜ」
「なっ」
どっかいってという俺の願いは完全に無視で、 カキツバタがほんの少しだけ間を開けてあぐらをかいて隣に座る。薄暗い教室でふたりで壁に背中を預けて座る、奇妙なことになった。
「……今、カキツバタと喋る元気ない」
「オイラと喋るのは物凄い疲れる事みたいな言い方だねぃ」
だって、そうでしょ。今だって、何する気なの。目的がわからない。意味がわかんなくて怖い。なんでほっといてくれないの。
「体調悪くて動けない訳じゃねぇんだな」
「え……うん」
質問の意図がわからなくて、膝に埋めていた顔をそっと上げると、こちらを見つめていたらしいカキツバタと目が合った。驚いて反射的に視線を逸らしてしまう。
「……暗くてよくわかんねぇけど、顔色はちょっと悪そうだねぃ」
「…………」
顔色というか、多分、泣きそうな顔をしているのがバレたんだと思う。情けなくて嫌になる。
「誰かに何か言われたのか?」
カキツバタの声はやっぱり何だか優しい。もしかしたら心配してくれてたりするのだろうか。でも、カキツバタだし、よくわからない。
「……何も言われてない」
「じゃあ何かされた?」
首を横に振る。俺が今こんな駄目なことになってんのは、俺だけが悪くて、クラスの人達もお客さんも、誰も悪くない。
「学校ん中知らない人ばっかで嫌になった?」
また首を横に振る。
「クラスのみんなで、みたいなのってやっぱまだ苦手かぃ」
そうだけど、違う。首を必死に横に振る。大人数で、みんなで力を合わせてってするのが苦手なのは、それは、そうだけど、クラスみんな優しくて、休学前の事で今でも怖がられたりするけど、それでも仲間はずれにしたり嫌なことしてくる人なんか居なくて、なのに、俺が、この格好で、人前に出て、人に見られるのが嫌で、わがまま言って、こうやって動けなくなって、みんな頑張ってんのに、さぼって迷惑かけてるだけだから。
「……だれもわるくない」
「うん」
「おれが、わるい」
「……なんで?」
「……俺、いまのおれ、すごい嫌だ」
自分で話しながら、また涙が浮かんできたから急いでもう一度顔を膝にうずめる。こういうの、まだ、なるんだ。
自分が嫌で動けなくなるの、前はよくあった。自分が嫌で、それで、一番よくこれになってた休学中も、しょっちゅう部屋ん中でひとりでうずくまって、なんとかこのぐるぐると嫌な感じが落ち着くまでやり過ごしていた。嫌で、上手くいかなくて、でもどうにかする力もなくて、ただ、待っている。情けない。けど、どうしたらいいのかわからない。しかも今日は文化祭だから。みんなに迷惑だから、待っている時間なんかないのに。
「……まぁ、そういう時も……ある、か」
「…………」
明らかにカキツバタは何を言っていいのかという感じだった。気ぃ使わせてるのもまた何か嫌で、嫌だから、本当に気を使うならどっかいってほしい。
「……カキツバタ、早く自分のクラスとかの仕事戻って」
「んー……それは心配ねぇんだけどよ」
カキツバタは多分困ったみたいに笑ってる。そんな声な気がする。
「ツバっさん、ちゃんと仕事するかあやしいから事前準備だけで当日の仕事は任されてないんだよねぃ」
なんだそれ。そんな……なんか、ちょっとだけ、羨ましいと思ってしまう。それがまた、情けない。
「……なんなの」
カキツバタが何をしたいのか分からない。嫌な事を言いたい訳じゃないみたいだけど、気を使うならほっといてくれればいいし、横に座って、ほんとに、なに。
「……色んなクラスとか部活の出し物、せっかく文化祭なんだから、見に行ってきたら」
「んー……? 結構見たし今はスグリとここでゆっくりしたい気分だからなぁ」
「勝手に何言って……」
ふと顔を上げればカキツバタと目が合う。カキツバタはちょっと安心したみたいに笑う。いつものニヤニヤした顔じゃなくて、嬉しそうに。それがなんかちょっと変、だった。
「……文化祭、カキツバタ、楽しみにしてたでしょ」
「うん? ああ。みんな楽しそうでこういうイベントってなぁんか雰囲気好きなんだよなぁ」
「せっかくなんだから……俺とこんなとこいたら、時間もったいないし」
「はぁ〜〜お前さん、分かってないねぃ」
カキツバタは大袈裟にため息をつく。思わずびくりとしてしまい、その反応にカキツバタはニヤリとする。あ、いつもの顔だ。
「オマエら、オイラが部室で寝てるといつも寝るなら自分の部屋戻れとか、ここで寝る意味分かんねぇとか言うだろぃ」
「え……うん……」
カキツバタはニカッと機嫌良さげに笑うが、俺は意味が分からなくて視線を向ける事しか出来ない。
「ほら、スグリも耳すましてまわりの音よーく聞いてみな」
「え……」
そう言ってカキツバタは目を閉じて手を耳に当てて音を聞き始める。俺も真似するように目を閉じてそっと耳をすます。
廊下のざわざわしたたくさんの人の声。お客さんを呼び込むための一際大きな生徒の声。遠くから聞こえる音楽の演奏。誰かが廊下を走っている靴の音。楽しそうな笑い声。
「なぁんか、こういうのよくねぇかい」
「…………」
「部室でも部員達が楽しそ〜にしてるのぼんやり聞いて、あーなんかいいなぁって思いながら昼寝すんの、オイラ大好き! ってな」
「……そう、なんだ」
みんなが楽しそうにしている音。それを聞きながら、何となくカキツバタってほんとにリーグ部が好きなんだなとぼんやり思う。
「文化祭、みんな楽しそうだろ」
「……うん」
「だからお前さん一人いなくたって大丈夫だから」
「…………うん」
「違う。間違えた、言い方ミスった」
カキツバタは慌てたように俺の肩を掴んで顔を覗き込んでくる。その顔がまたさっきとは違った見た事のない表情で、やっぱり、なんか変だった。
「えっと、お前さんが居ても居なくても同じとかそういう意味じゃなくって、スグリがそんな気負うほど、一人いなくても文化祭なんかどうにかなるから……あー……なんって言ったらいいか、わかんねぇけどよ……」
困ったように頭をがしがしと掻いて、髪をへにゃりとさせ、ちょっとしょんぼりしたみたいな顔してちらりと俺を見る。
「……うん」
「オイラの言いたい事はまあ、その、なんだ」
カキツバタが、言いたい事は多分半分も分かっていない。けど、多分、俺を元気づけようとしてるんだろうなっていうのは分かる。
「オイラが言っても、説得力ねぇ……のか、逆にあんのか……? 分かんねぇけど、こんな文化祭なんか、みんな楽しいからやってんだから……お前さんがそんな気負って嫌な事しなくても、まあ、どうせ何とかなるから、サボったって、そんな自分追い込むこたぁない訳で……」
カキツバタは物凄く悩みながら喋っていて、腕を組んでうんうん言いながらチラチラと俺を見る。外から聞こえてくる笑い声。本当にみんな楽しそう。
「……確かに、せっかくみんな楽しんでるのに、嫌そうにしてる俺が無理して居るほうが、空気も悪くなって、みんなに迷惑かもしれないし、」
部活で、俺が部長してた時だって、元々みんな楽しそうにしてた部活で、俺が……。
「ほい」
「わぎゃっ」
突然カキツバタに両頬に手を添え顔を持ち上げられ、強制的に目を合わせられる。行動と手の冷たさにびっくりしてずっと目に溜まっていた涙がぼろりと落ちて、カキツバタの指にそっと流れていった。
「スグリ。オマエ、なんか今頭ん中良くない方に向かってってただろぃ」
「えっ……」
「そんな顔してた」
ニカッといつもの笑顔。さっきまであんなに悩んでへにゃってしてたのに。なんで? カキツバタの事が本当に分からない。
「あーあ、お前さん嫌な事あったらずるずる芋づる式に嫌〜な事思い出してってへこんでくタイプかぃ。よくないね〜」
「……はなして」
「元チャンピオン様はややこしいお方でやんすね〜」
「はなしてってば!!!」
ぐっと手に力を入れて振り払うと、カキツバタは眉を下げて、でもニヤニヤしてて、よく分からない顔をしていた。
ちょっとムカつく顔。けど、不思議とあの動けなくなるぐるぐると嫌な感じは軽くなっていた。
「俺、クラスの仕事戻るから……っ」
「もう大丈夫なのかぃ」
「大丈夫だから……、みんなにもちゃんと謝るし」
「じゃあオイラも着いてっちゃお」
「はぁ!?」
気付けは随分時間が経っていて、多分、クラスや部活によってはそろそろ片付けを始めているところがあってもおかしくない。急いで教室に戻らないと。
立ち上がると足が少し痺れている。我慢してスカートの埃をはたいていると、それを見たカキツバタが「スカートグッシャグシャの皺だらけになっちまったねぃ」と言ってくる。
「そりゃあそんなすぐ駄目んなるペラッペラの服、オイラだって着たくねぇわ」
カキツバタはゲラゲラ笑っている。その一言で、何か、また、少しだけ、気持ちが軽くなったような気がした。
教室まで戻る廊下。さっきよりは人も少なくなっているけどやっぱり人は居て、この格好で歩くのが嫌で、メイド服ぐしゃぐしゃだからより一層恥ずかしくて、しかも、この後クラスのみんなに謝って、もしかしたらみんなに失望されるかもって考えるとやっぱり怖くて。さっきと同じように、ぐっと下を向いて歩く。だけどさっきと違って、今は隣にカキツバタが居る。
カキツバタは歩きにくいだろうにふざけるみたいに俺の肩に腕を回して、宣伝用の看板も何故かカキツバタが持ってくれて、それで、俺はその影に隠れるみたいに歩いていたから、さっきよりはなんだか人の目が気にならなかった。
「あーースグリくん戻ってきた!」
教室の前に着くと、執事服を着たクラスの子が声を上げる。怒られる。失望される。サボって、こんな、ちゃんとできない俺を、みんな……。
「大変だったね〜!」
「…………え?」
手の空いている数人が、俺のまわりに集まってくる。なぜか労われて意味が分からなくてちらりとカキツバタを見ると、カキツバタはいつもと同じ顔をして笑っていた。なんで。
「カキツバタ先輩がスグリくんの事探してたって聞いて、それでスグリくん戻って来ないからこれはカキツバタ先輩に捕まってるんだろうなってみんなで話してたんだよ。そしたらやっぱり!」
クラスの子はカキツバタの方を向いて「先輩もう困りますから!」と笑っている。
「ち、違っ……!」
「へっへっへ。そりゃせっかくの文化祭オイラもスグリと遊びたいからねぃ」
「じゃあうちのクラスにお客さんで来てくれればよかったのに〜」
クラスの子達も、カキツバタも、笑っている。違うのに。カキツバタは関係なくて、俺が、ただ嫌で、俺が勝手にサボって……!
「あー、スグリくんメイド服ぐしゃぐしゃんなっちゃってるね〜すぐ皺いく素材だししょうがないね。もう先着替えて来ちゃう?」
「え……でも……」
「もうそろそろ片付けとかごみ捨てとかし始めなきゃだし、先に着替えてもう使わないとこから片付け始めて貰えてたらこの後順番に更衣室着替えに行けるし助かるんだけど」
「あっ、俺、全然仕事してないから、片付け頑張るから……!」
クラスの子達は「そんな気にしなくていいのに」とまた笑っている。誰も怒っていない。嘘をついているみたいで、正直どうしたらいいかわからない。
「じゃあスグリはオイラがしっかり更衣室まで連れて行ってやるから任せてくれぃ」
「カキツバタ先輩も自分のクラスの片付けしに行った方がいいんじゃないですか〜?」
クスクス笑うクラスの子達に見送られて更衣室へと向かう。
「カ、カキツバタ……あの……! っ俺のせいで、カキツバタが、悪いみたいんなって……!」
「んー? そんなんなぁんも気にしなくていいって! オイラがスグリと遊びたかったのは本当だし」
一般に解放されていない更衣室へ向かう廊下は人が居ない。俺の前を歩くカキツバタに声をかけても振り返りもせずただ楽しそうな声で返事をされる。
「でも、俺……っ」
「スグリ」
カキツバタが体ごと振り返って後ろ歩きで俺の名前を呼ぶ。
「あんま気負い過ぎねぇで、たまにはこうやってサボっちまうのも悪くねぇだろ?」
「カキツバタ……」
「まああんまサボり過ぎたらオイラみたいになっちまうけどなぁ」
楽しそうに笑うカキツバタ。カキツバタが何考えてんのかとかは相変わらず分からないけど、多分、カキツバタは思ってたよりも俺の事嫌ってなくて、もしかしたら仲良くしたいって思ってくれてるのかも、なんて。
「……カキツバタ、ありがとう」
「なぁんも?」
またくるりとこちらに背中を向けて歩き始める。その瞬間カキツバタのスマホロトムが着信を知らせて鳴り始めた。
「お、クラスのやつだ」
「……出なくていいの?」
「もうちょいしたらちゃんと戻るから、今は着信気付いてたの秘密にしててくれぃ! これで今日の事はおあいこって事で!」
なんだそれ。クラスの人も困るだろ。そう思いつつ、俺もサボったから何となく言えないで、カキツバタの背中を見ながら後ろについて廊下を進む。
カキツバタが何を考えているのかはやっぱり分かんないけど、カキツバタが嫌じゃなかったら、これからもっと仲良くなれたら嬉しいかもな、なんて考えながら、早足で追いついて、カキツバタの横に並んで歩いた。