月下、意気地なしのワルツ「月が綺麗だね」
いつもと同じ調子で放たれた言葉。いつもと同じ調子で返そうとして、ちょっと待てよ、と脳がストップを掛ける。そうして再処理し直して、正しく意味を理解する。三井はアホだが、バカではなかった。
だって、空は曇りで月は出ていない。
瞬きの間に、脳みそが高速で回転した。試合中と同じスピードだ。回って回って、ぐるぐるするほど。
今までのこと、これからのこと。
水戸との関係は一言では言えないくらいに複雑だ。知り合い、友人、そしてそれ以上。どれにも当てはめる事ができずにいた俺たちを、今水戸が名前をつけて分類しようとしている。それは凄く勇気のいることだと、理解している。
三井さん、と呼ぶ声の柔らかさに気づいたのはいつのことだったか。気づいていて、何も言わないものだから、軍団にからかわれたのも一度や二度の話ではない。けれどその全てにすっとぼけて返しているうちに、最近は囃し立てられることもなくなった。
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