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    mumumumumu49

    @mumumumumu49

    4スレは信仰

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    mumumumumu49

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    本編後スレッタちゃんと本編前4号くんの同居生活スタート。前回の続き。

    遡行ifその2 ガンダムに関しての知識はペイル社に固く口止めされている。本物の幽霊や透明人間相手ならともかく、関係者以外の一般人に話すわけにはいかない。そのためペイル社の目がある場所で核心的な単語を出すことは叶わないが、スレッタとの問答でエランは疑念を深めていた。
     スレッタ・マーキュリー。突如エランの部屋に現れた妙齢の女性。彼女は、エランと同じ強化人士なのではないだろうか。
     エラン以外の目に映らなくなった、というおかしな現象も、パーメットとGUNDという未だ未知の多い技術が絡んでいるとなれば納得できないこともない。
     強化人士は使い捨てが常だが、足に麻痺を残した彼女はもう限界のはずだ。それでも平穏に暮らせていたのならば、運良く現役を退いても廃棄されることはなく、地球に逃れていたところを本人の知らぬところでおかしな実験に再利用されたか、何事かの企みに巻き込まれたのではないか。
     もしそうだとすれば、彼女をそのまま地球に送り届けても問題の解決にはならないのかもしれない。影武者であるエラン自身は学園とペイルを離れることはできないが、本物の権限を拝借して案内を手配することくらいならできる。しかしそれも、彼女が他者から認識されている場合の話だ。もしかしたらエラン以外にも彼女を認識できるものもいるのかもしれないが、足の不自由な透明人間を準備もなしに連れまわすことも憚られる。事態を把握して環境を整える時間が必要なのだ。
     彼女が元に戻る方法。そして、エランの部屋に現れた理由。この二点を探るべきだ。
     そして、彼女が本当にエランと同じなのかも。
     そのためには、彼女をなるべく近くに置いておきたい。エランは残念ながら外に手を伸ばすことは難しいが、選択肢として学園内のホテルやペイル寮内の空き部屋に住むことも可能だ。それを彼女にどう提案すべきだろうか。
     とエランは無表情の裏で目まぐるしく算段を立てていたのだが、当のスレッタがこんなことを言い出した。
    「あの、エランさんのお部屋に、わたしを置いてもらえませんか?」
     それは、エランが調達してきた一人前のボックスをふたりで夕食として食べているときだった。
     エランの部屋に食卓はない。それは住民が固形食を好まずもっぱらサプリメントで栄養補給を済ませている結果なのだが、スレッタは部屋に唯一ある机ではなくベッドでエランと食べたいと主張した。壁に向かってひとりで食べるのはさみしいのだそうだ。
     冷めたオムレツを二人でつついているのに、女はひどく楽しそうに食べていた。けれど最後の一口をスプーンですくうと途端に真剣な顔になり、先のセリフを口にしたのである。
    「……構わないけど、どうして?」
     エランが尋ねると、スレッタはエランの目をじっと見つめた。深い青色の目の中では、強い光が輝いている。
    「えっと、わたしのこと、エランさんしか見えてないんですよね? なら、それが一番いいと思います」
    「信じるの?」
     エランですら、まだ疑っているというのに。
     しかし、スレッタは迷いのない瞳で頷いた。
    「エランさんが言うなら、そうなんだと思います。それに……えっと。その、……さっき来た男の子、ぜんぜんわたしのこと気づいてくれませんでしたから!」
     彼女と出会ったエラン・ケレスはずいぶんと信頼を置かれたようである。何かを隠しているようでもあるが、その判断はエランにとって好都合だ。それに、足の悪い人間が一人で生活するのは困難だろうという懸念もあった。念のため、他の住まいも提案したのだが、スレッタは泣きそうな表情まで浮かべて固辞した。
    「なんでも、しますから!」
     そんな迂闊なことを言わないほうがいいと、指摘すべきか少しだけ迷った。
     そんな共同生活に早速問題が生じたのは、その日の晩、交代でシャワーを浴びる段になってのことだ。
     先にシャワーを済ませたエランが髪を乾かしていると、シャワー室から大きな音と悲鳴が響いてきた。外から声をかける。
    「怪我、した?」
    「しっ、してないです! 滑って転んだだけなので!」
     服の着脱は自分でできるようだったし、埃っぽいのを気にしていたので止めなかったが、やはりなんの準備もなしに一人でシャワーを浴びるのは難しかったのだろう。
    「今日はあきらめて、道具を用意してからにする?」
    「でも……じゃあ、エランさんっ。今日は、手伝ってもらえますか?」
    「…………いいの?」
     彼女は面識があると主張しているとはいえ、初対面の男である。年頃の女性としては、好ましい状況ではないのではないだろうか。
     シャワー室の扉がゆっくりと開き、湯気の中からタオルで前を隠しながら床に座るスレッタが真っ赤な顔を覗かせた。
    「エッ、エランさんに、なら。いいです。見られても」
    「……そう」
     気を許されているのなら、都合がいい。思い浮かぶ様々な考えをその事実で塗りつぶして、シャワー室の中に入った。一応、扉は開けたままにして。
     冷えを防ぐために床にタオルを何枚か敷き、その上にスレッタを座らせ背中側から赤く長い髪に温水をかけていく。今後一人で使うのならシャワー室用の椅子を用意したほうがいいだろう。
    「あの、手袋……」
    「撥水加工品だから問題ないよ」
    「あ、そ、そですか」
     朱い肌の上を水が滴り流れ落ちるのを視線で追う。耳の裏、細い首筋から、背中。手首、足首に至るまで。頬だけには限らない、パーメット痕が残っている。GUNDを使ってパーメットスコアを上げたものに見られる症状だ。
    「痛いところや違和感を感じるところはある?」
    「全然ないです! いつもより、調子はいいくらいで」
     透明人間化に伴う他の自覚症状はないらしい。
     シャンプーを手のひらに取り、地肌を揉むように泡立てていく。埃っぽい髪の下に、けれどパーメット痕以外の傷跡はない。そのことに落胆と安堵、どちらの気持ちを浮かべているのか、エランは自分でもよくわからなかった。
     女性の体の輪郭は滑らかで、男のエランにはない柔らかな曲線を描いている。下を向く彼女が、は、と止めていた息を吐けば、当然のように喉が動く。ゆっくり、強張っていた細い肩が弛緩していく。生きている。
     泡を洗い流しトリートメントを終わらせた髪をタオルで巻き上げて、次は身体を洗う。
    「全部は! 洗わなくていいので!」
    「うん。どこが洗いにくい?」
    「その、せっ、背中と、足先、を……」
     タオルでソープを泡立て、薄い背中にそっと乗せる。自分の肌は強めに擦って済ますが、女性はそうもいかないだろう。触れるたびに震える背中を何度か撫でるように擦ってスレッタに尋ねる。
    「痛い?」
    「んっ、だ、だいじょぶ、デス」
     背中が終わると前方に回り、足を掬って足指や裏、ふくらはぎを念入りに洗う。スレッタの様子を伺うと、のぼせたのか恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして潤んだ眼を必死にそらしていた。そんなになるならば言い出さなければ良かったのに。疑問に思いながら、これ以上見るのも良くない気がして視線を手元へと戻した。
    「お、終わりました……」
    「お疲れ様」
     すべてシャワーで流し終わると、固まっていた肩がくたりと脱力した。慣れない環境にひどく疲れたようだった。負担にならないようにゆっくりと立ち上がらせ、支えながらシャワー室から出ようとする、と。ぬるりと足元が前に滑る感覚があった。
    「ひゃあっ」
     世界がひっくり返り、背中をしたたかに打ち付ける。癖で苦痛の声を殺しながら胸元に熱く柔らかな感触を確かめ、少しだけ安堵する。どうにか庇えたらしい。慌てた真っ赤な顔が目の前に迫り、顔にぱたぱたと水が滴った。
    「だ、大丈夫ですか!?」
     じとりと背中が濡れていく。うまくいかない、何もかも。ため息を噛み潰し、必死なスレッタの声になんとか応える。誰もを拒み、ひとりになろうとし続けてきたエランは、他者と暮らすということの難しさにようやく気付き始めていた。
     シャワーは浴び直すことになった。

     夢はエランを癒さない。意識の断絶は抑えていた無意識を呼び起こし、無意識は痛みや失望を反芻しては生乾きの瘡蓋を引き剥がしていく。ひとつ、またひとつと、ひとから乖離するたびに鉛を呑み下した感覚がずしりと溜まる。重力に骨がぎしりと軋む。まだ、重い。また、重い。もっと削ぎ落とさなければ。もっと遮断しなければ。もっと、もっと身軽に。重力を振りほどけるように。けれど、なにもない。肉が削がれた手のひらを見る。背後の途切れた道を見る。もうなにもないのに、これ以上、何を。
     視界を埋める影に、ゆっくりと瞼を持ち上げる。闇の中に薄らと青い瞳が浮かび上がった。スレッタ・マーキュリー。女はエランの顔の横に片手をついて上半身を支える姿勢で覆いかぶさっていた。浮いた手をエランに伸ばそうとした形で止めている。
    「す、すみません! 起こしちゃいましたか。苦しそうにしてたから、つい」
    「そう。てっきり」
     声が掠れている。引っ込めようとする小さな手を軽く引き留め、自分の首に当てる。ひんやりとして気持ちが良かった。
    「首を、絞めにきたのかと」
    「そんっ、そんなこと!」
    「いいよ、絞めても」
     きみなら。
     手を添えたまま力を入れると、息がわずかに苦しくなる。
     世界は苦しみでできている。すべてに関心をなくして、やわらぎもしない己を磨り潰す痛みに耐えながら、近いうちにたどり着く終点まで漸近したとして。今、この手のひらに委ねたほうが、たった一歩、踏み出したほうが。苦しみの総量は少ないのではないか。そう考えることはある。
    「はな、して。ください」
     どうして、彼女のほうが苦しげなのか。添えた指先から震えが伝わる。手を退けると、冷たさは闇に消えていった。
    「ごめん。……べつに、どちらでもいいんだ」
     ただ、生きようとも、死のうとも思わなかっただけなのだから。
     どうでもいい。開いたときと同じ速度で瞼を閉じて、薄い眠気にひたる。
    「そんっ……そんな、こと、言わないでください」
     ぱたり。また顔に生温い水が落ちてきた。生徒手帳から漏れた僅かな光が潤んだ青い目を照らしている。このひとは、よく泣く。
     冷えた手がまた伸びて、エランのこめかみをそっと撫でた。
    「エランさんとまた会えて、無事に生きててくれて、わたし、本当にうれしかったんです。きっと、エランさんが想像してるよりもっとずっと。真っ暗闇に、ようやく星をひとつ見つけたみたいに。うれしかったんです」
     それはきっと、エランと同じだった。けれど、彼女の望むエランはエランではない。エランではないのだ。
    「だからっ、そんなこと。言わな、いでください。言わないで……」
     べしゃりと潰れるように偽物の星を抱きしめる。暖かさは気味が悪くて、塞がれた口が息苦しくて。それでも覆われた視界にどこか、落ち着いた。
     すすり泣く嗚咽は歌のようだ。眼の奥で星の影がゆらゆらと揺れている。
     その夜はいつもよりも短かった。
     鳥が鳴くころには嗚咽はすっかり寝息へと変わり、震えていた背は穏やかに上下していた。腫れた目元を指で柔く撫でて、息を吐く。エランはシーツをスレッタの細い肩までかけて、厭わしかった生温い肌の温度を、そっと遠ざけた。
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