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    mumumumumu49

    @mumumumumu49

    4スレは信仰

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    mumumumumu49

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    天使パロ。天使のスレッタちゃんと神父の4号くんの話です。続きます。

    天使パロその1 その年初めての霜が降りた寒い日のことでした。
     丘の上にある教会から数日ぶりに町に降りてきたエランは町の人から相談を受けました。困った顔の男の言うことには、家の裏に町の外から来た浮浪者が転がっているから引き取ってほしい、というのです。この町に住む人々は勤勉で善良ですが臆病で従順なことが多いですから、彼らの独断で余所者を追い払えるわけがありませんでした。時折訪れる宿無しの滞在者は、裕福なものは領主の館に、見るからに貧しいものは教会に知らせる決まりになっているのです。
     面倒な教会内の政争から早くに逃れ田舎でひっそりと暮らしている町でたったひとりの神父として、エランも最低限の務めは果たさねばありませんでした。
     男の案内のもと家屋の裏を覗いてみると、そこには毛むくじゃらの毛布が転がっていました。泥と埃にまみれた毛布が放つ遠くからでもツンと鼻の奥を刺激するような臭気に、町の人間たちが近づけないことに改めて納得しました。貧困と病の匂いでした。エランが近づくと、干物のような毛布はわずかに身じろぎをしました。
    「うん、生きてるね」
     黄ばんだ毛布とボサボサの毛の隙間からは薄汚れた肌が見えます。てらてらと脂で光る赤茶の毛は髪の毛でしょう。
    「きみ」
     エランの小さな声が聞こえたのでしょう、毛布お化けは頭をゆっくりと、指一本分だけ持ち上げて、毛むくじゃらの中で腫れた瞼をふたつ、開きました。そこから覗いた目の色は、雲一つない南国の深い青空のような冴えた青色をしていました。この灰色の町に不釣り合いな鮮やかさに、エランもぱちりと瞬きをします。
    「……お腹空いてない?」
     エランの質問に、毛むくじゃらは怯えた目でエランと自分のお腹を何度か見比べてから、こくり、と頷きました。言葉は通じています、警戒はされていますが、凶暴性もなさそうです。
    「ぼくはエラン。丘の上で神父をやってる。きみは?」
    「…………スレッタ、です」
     その声は、存外に高く甘い鈴のようでした。この小汚い毛布の中身は少女だったようです。それならば警戒心の高さも腑に落ちます。もしかしたらここにたどり着くまでに無体をされていたのかも。とはいえ、警戒も嫌悪も構いませんが、彼女にはここから立ち退いてもらわなければなりません。
    「教会で食事を出すよ。立てる?」
     首から提げた十字の印を掲げながらいつも通りに手袋をはめた手を差し出すと、少女はおずおずと伸ばした黒い手を何かに気づいた様子で引っ込めました。エランは表情を変えずにじっと少女を見つめて理由を促します。無言の間が数拍続いて、少女が震える声を出しました。
    「……す、すみません……。でも、よ、汚れちゃい、ます」
     警戒をしたのではなく、エランに気を遣ったようでした。
     エランは弱々しく目線をそらす少女の細い腕を引き、驚きに跳ねる肩を支えてから持ち上げるように立たせました。
    「別に構わないよ」
     汚れは洗えば済みます。匂いが取れないならば捨てればいいのです。道具とはそういうものなのですから。病だって、かかったとしても構わないのです。
     エランが一歩歩を進めると、つられたスレッタもよたよたと地面の上で足を動かします。少しずつ支える力を減らしても顔が痛みに歪むことはありません。力は上手く入らないようですが、少なくとも足に怪我はないのでしょう。
    「歩けそう?」
    「うひ、ひゃ、ひゃい……」
     ひとつひとつ確認をして、反応を見て、できることを確かめて。
     エランは遠巻きに眺める人々に目礼して、教会までの坂道をスレッタとともにゆっくりと登っていきました。

     次に少女が目を覚ましたのは日が落ちてからのことでした。薄闇の廊下からそろりと顔を出した少女を、食卓で読書をしていたエランは本をパタンと閉じて出迎えます。
     ここがどこか分からないとばかりに不安げなスレッタに、エランは淡々と話しかけました。
    「ぼくのことは記憶にある?」
    「えっ、えっと、は、はい。その、ベッド、貸してもらって……」
    「食事を温めるからそこの水で顔を洗って」
     ひとつしか灯していなかったろうそくの火をふたつ、みっつと移してから、洗面台でそろそろと顔を洗う少女を見届けて居間を去ります。野菜のスープとオートミールを器に盛りつけたエランがキッチンから戻ると、少しだけ顔色を良くした少女は心もとなげに食卓の前に立っていました。
    「あの……」
    「どうぞ」
     エランが食卓に器を置くと、意を決したようにスレッタは口を開きました。
    「あの! わたし、お金、なくて……」
    「構わないよ。治安維持のために外から来た人間の滞在費は領主から受け取ってる。その代わり、そのうちこの町に住むか三つ隣の町の救貧院に移動してもらうかするけれど」
    「きゅうひんいん……」
     馴染みのない言葉を口の中で転がしているスレッタに、エランは椅子を引いて催促しました。
    「冷めるよ。それとも、食べられないものが入ってる?」
    「いっ、いただきますっ」
     慌てて席についた少女がそろそろとスープを口に運ぶのを見守りながら、エランも向かいの席に座ります。スレッタは小鳥のような一匙ぶんを口に入れると、ぱちりと大きな目を瞬いて、口いっぱいに掻き込み始めました。一口食べて空腹を思い出したのかもしれません。
     道中で気を失った彼女を教会に運び込んだエランはそのまま医者を呼びました。診察結果は空腹による栄養失調。幸運にも感染症の気配はありませんが、不衛生な環境のため続けばそれも分からないでしょう。年の頃はエランと同じかそれよりも少し下。長く整えられていない容貌、幼げな言動、スプーンの握りは教育を受けていないもののそれですから、貧しい生まれに違いないのでしょう。それでも敬語を話せているのですから、従属経験があるのかもしれません。逃走農奴か、あるいは。
     ず、と啜るような水音に気を向けると、麦粥を栗鼠のように頬張った少女は青い目からボロボロと大粒の涙を流して鼻をすすっていました。腹に貯まった食事の暖かさに張りつめていた緊張が溶けてしまったのかもしれません。その気持ちはエランにも少しだけ分かる気がしました。久しぶりの暖かさは芯に染みてじりりと痛みを伴うのです。
     涙をこぼしながら手を止めず、大皿ふたつを舐めるように平らげたスレッタは、口元と目元を手の甲でぐいと擦って顔を上げます。ぎゅっと拳に握りしめた指先の爪はまだ、白いまま。
    「あ、ありがとう、ございます……」
    「どういたしまして。明日はもう少し多めに出すよ」
    「あ、その! ……いえ、お願い、します」
     赤くなった頬はずいぶんと色が戻ったように見えます。医者の指示に従い消化に良いものだけを出しましたが、それだけでは育ち盛りの胃には物足りないでしょう。次はハムやパンなど食べ応えのあるものを出すのがいいかもしれません。
     そこまで考えて、エランは冷暗所にミルクがまだあることを思い出しました。
    「……ミルクはあるからココアくらいなら作れるけど。飲む?」

     マッチを擦って火を灯し、熾した炭火で木べらで平鍋に入った一人分のミルクをとろりとかき混ぜます。
     らしくないことをしている気がしました。いつもなら、食事を終えたら客室に閉じ込めて一日を済ませてしまうものを。いったい彼女の何が気になるのでしょうか。出会ってからこれまでの少女の言動を思い返しては首を小さく捻ります。あの境遇であっても他者への配慮と礼を忘れない、普通の善良な少女です。身体を軽く拭くときに目にした手足は細く、やつれていることが痛ましく感じました。声をかければ怯え、手を差し出せば震えていたのは痛い思いをしたからかもしれません。けれど、綻ぶような笑顔は邪気がなく、悪意を知らず神と人を心底から信じている子供のようでもありました。きらきら輝くターコイズが、薄く染まった頬が、子供のような仕草が。エランの波の立たない世界に、じりりと、染みるのです。
     ふつと沸くミルクにチョコレートと砂糖を適量溶かすと、白いミルクが甘みのある茶色に染まります。湯気のたつココアをマグカップに注ぎ入れ、食卓にお行儀よく座る少女の前に置きました。
    「どうぞ」
    「あ……エランさん、のぶんは……?」
    「必要ないから」
     エランが答えると何故でしょうか、整えていない丸い眉がしょんぼりと下がりました。それでも対面に座りじっと様子を伺っていると、小さな両手がマグカップに伸びます。
     まだ熱いのでしょう、口を離してふうふうと息をかけ冷ますうちに、白い爪が次第に赤みを帯びていきます。やがてカップが傾き、少女の細い喉が小さく動きました。
     変化は魔法のように劇的です。ぱちり、瞬いた眦がチョコレートのようにうっとりととろけて、ふにゃり、赤い頬が緩みました。ココアの甘い茶色が薄く載った唇が熱い息をはふりとこぼして、すっかりミルクに溶けてしまったみたいに微笑みます。
     濃い青い目がろうそくの赤い光を載せてエランを映しています。夜と朝が混ざって溶けた朝焼けのような色合いでした。
    「美味しい、です。甘くて、あったかくて」
    「……そう」
     じ、と灯された火が粗末な蝋を焦がす音だけが部屋に響きます。飽かずに眺めているとスレッタの青色に次第に戸惑いの色が混じり始めました。赤らめた頬の上で視線が泳ぎ、ココアを載せたままの唇が開き、弱々しく言葉を紡ぎました。
    「あの、どうして……」
    「きみに興味がある」
     その言葉に驚いたのはスレッタだけではありません。
     興味がある。だからでしょうか、エランがこの少女から目を離せないのは。常にはない物足りなさを感じてココアまで作ってしまったのは。青い目の輝く瞬間を、染まる頬の理由を、知りたいと願うのは。
     青と緑の境のターコイズはまたつやつやと輝いて、戸惑いや迷いをもっと強い色が呑み込んでいきました。興味、歓喜、興奮、高揚……期待。
     鈴のようなソプラノが、小さな唇から零れます。
    「わたし……」
     続きに耳を澄ませるエランの視界の端に動くものがありました。
     ふわり、ろうそくの火に照らされたのは、白い鳥の羽根。
    「わひゃぁっ、なんで……!?」
     その羽根に慌てだしたのはスレッタです。エランから羽根を隠すように飛びついたその背中に、小鳥のような小さな白い翼が生えているのが見えました。
    「きみ、それは……」
    「えぇええと、これは、その……」
    「うん」
     隠したかったであろうそれをエランに見咎められたスレッタは無言のエランの前に立ったままもごもごと口を動かしていましたが、やがてすとんと椅子に座り直しました。
     膝に手を揃えて必死の顔つきで目の前に座るエランの視線を受け止めます。まるで、信じてほしいと言うように。
    「わ、わたし! ……天使、なんです……!」
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