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    mumumumumu49

    @mumumumumu49

    4スレは信仰

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    mumumumumu49

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    前回の続き。4スレ。4くんが出てきません。

    魔女パロその7 死の国にほど近い深い深い谷底にカラスはひとり降り立った。陽の光の届かない濃密な暗闇の中でも自身の姿を見失わないのは、きっと魔女にもらった星の光のお陰だ。
     ふわりと人の形をとって、見えない地に足をつける。軽く足先で地面を叩いてみるも音は聞こえない。闇はすべてを呑み込んでしまう。光も音も命も、なにもかもを平らげて、圧し潰す。
     少年はそっと目を伏せる。この瞬間のために呪いはあった。ここに来るために身体は溶かされ、すべてを奪われて神秘に耐えうるように成形された。そのおかげで嵐の森への派遣も任されたのは今となっては僥倖だ。
     ──彼女に会うことができたから。

     少年は道具だった。あの箒よりも大切に扱われない、使い捨ての道具だった。そう言われそうあるべくして育った。
     魔女には都合の良い材料として粗雑に扱われ、仲間には抗おうともしない馬鹿なお人形として蔑まれた。実質、そうなのだろうと自分でも思う。
     その人形の耳に楔のようにこびりつく問いがある。
    『どうして』
     どうして、だろう。そんなことは彼自身が聞きたかった。
     どうしてこんなことになったのだろう。
     どうして泣いて嫌がらなかったのだろう。
     どうして逃げなかったのだろう。
     どうして諦めてしまったのだろう。
     どうして、こんなにも。
     どうして。
     少年は答えを持たない。失くしてしまったから。
     顔も名前も過去の記憶も、人の形すら失って、残ったのは答えの出ない問いと苦しみ。そして、『逃げてもどうにもならない』という諦念だけ。
     人形になったほうが楽だった。だって人形は思考しない。人形は嘆かない。人形は怯えない。
     じっと倦むような停滞の中、がらんどうの体を抱えて擦り切れるそのときを待っていた。希望を持つことに耐えられなかったから。
     なのに。
     そそがれてしまった。嵐のような少女に。
     視界を覆う黒の中、輝く星の光を懐から取り出す。ひやりと命の芯を凍らせるような闇の中でそれだけが仄かに暖かい。魔女の仕上げたその飴の味を、『試食にどうぞ』と渡された一粒を舐めた少年は知っている。喉が焼けるように甘くて、ほのかに苦い。きっと、幸せの味だった。
     スレッタ・マーキュリーには悪いことをした。
     やがて死に進む自分は誰にも近づいていけなかったのに、火に誘われる虫のように、孤独に耐えかねて近づいてしまった。
     優しい彼女は傷ついただろう。悲しんだだろう。苦しんだだろう。さみしいと泣く少女の顔が今もまだ瞼に焼き付いて離れない。
     誰かに泣いてほしくない、それだけのことすら上手くいかなくて、ひどく歯痒い。それなのに、少しだけ嬉しく思う自分もいるのだから、本当にどうしようもない。
     『どうして』に、今はひとつだけ答えがあった。
     暖かな光が落ち着いて、冷たい死が背を撫でていく。息が苦しくなり凍る闇を肺いっぱいに吸い込んだ。
     冷たさに大きく震える足をゆっくりと前に出し、闇の奥へと歩を進める。
     ここは寒い。只人の身なら濃い孤独に耐えられず崩れ去っていただろう。
     ──歌が聞こえる。鈴のような声が甘く歌う誕生を祝う祝い唄。もう少し、聞かせてもらえばよかったかもしれない、なんて。
     とぷん、と。
     小さな命が影に沈んだ。


     ある日、都で学園に通っていたはずのスレッタは、嵐の森で目を覚ました。学園に行く前にお母さんと過ごしていた家のひとつ。学園の寮とは違う濃密な森と霧の香り。けれど、どうして? ふかふかのベッドから立ち上がり、小さく伸びをする。……いい匂いがする。匂いをたどってキッチンへと向かうとそこにお母さんが立っていた。
    『起きたのね。スレッタ、あなた学校で倒れたのよ』
     スレッタは驚いた。健康が取り柄の少女は身体の異常などほとんど感じたことがなかったからだ。それはもちろん、お母さんから離れて学園に通っている間も。スレッタが驚いているうちにお母さんの綺麗な手がスレッタのあちこちを心配そうに触れていく。頬に、肩に、額に、頭に。
    『お母さん、慌てて学校に駆けつけたのよ。どこか痛みはない?』
     心配してもらえることがうれしくて、久しぶりの母の体温に目元を緩ませながら、ふるふると首を横に振った。
    『大丈夫。心配かけてごめんね』
    『いいのよ。あなたは私の大事な娘なんだから。それに、ちょうどよかったわ』
    『え?』
     お母さんは焼けたトーストにハムエッグを乗せて皿の上に乗せた。じゅわりと脂の乗ったハムの上を破けた黄身が滑っていく。お母さんはスレッタを食卓に座らせて、赤い口紅を塗った唇で弧を描いた。
    『スレッタ。あなたには一度休学して、この家でお留守番してほしいの』
    『お留守番……どれくらい?』
    『それがわからないの。数日か、数か月か、数年か。魔女のお仕事なのだけど、他の仕事の中継地点にもなってるこの家を今空けるわけにもいかないから。たまに町に出るくらいなら大丈夫よ。だから、お願いできる?』
     学校は楽しかった。授業では知らないことをたくさん学べたし、友達もできた。親友と呼べる人も、きっと。魔女であることを隠すのは心苦しかったけど、それ以上に毎日が新鮮なものに溢れていた。
     でも、そっか。お母さんの言うことなら仕方がない。お母さんを助けなきゃ。たくさんの気持ちを呑み込んで、スレッタはゆるゆると頷いた。
    『……うん、わかった。じゃあ、荷物取りに行かないと』
     そのときに、ミオリネや寮のみんなとも別れの挨拶をしよう。けれど、なんてことないみたいにお母さんが付け足した。
    『大丈夫よ。スレッタの荷物はお母さんが一緒に持ってきておいたわ』
     お母さんが片付けをしている横でスレッタはひとりで朝食に手を付ける。塩気の染みたトーストは垂れる黄身が溢れないように、畑で採れたレタスとポテトのサラダは辛子のビネガーをかけて。それなのに、どうしてだろう。せっかくのお母さんの料理は、味がよく分からなかった。
     お母さんは手早く身支度を済ませるとその日の夜に箒にまたがった。
     丸い大きな月が赤く輝く夜だった。魔女の帽子を被ったお母さんはスレッタを振り返り、優しい声をかけた。
    『それじゃあ、行ってくるわね』
    『行ってらっしゃい、お母さん』
     風が吹く。熟練の魔女は驚くほど優美に浮かび、箒を寄せて寂しげに笑う我が子の赤い髪を優しく撫でた。
    『スレッタは夜に強くないんだから、あまり夜ふかししちゃダメよ。いい子で待っていてね』
     今度こそ、上手な笑顔で言葉にできた。
    『うん、こっちは任せて』
     その日から、スレッタはお母さんを待っていた。ずっと、ずっと。雨の日も、雪の日も、嵐の日も。
     誰一人訪れない嵐の森で、エアリアルと一緒に待っていた。
     朝は家事と畑の世話をして、昼は母宛に来る仕事を代わりにこなし、夜はランプの明かりの元で勉強をする。その日々の繰り返し。嵐の森に人は入ってこられない。魔法を介さない主な連絡手段は鳩になる。そのうえ、多忙なミオリネとは文を交わせるのも稀だった。寂しくないと言えば嘘になる。けれど、これがお母さんのためになっているのならスレッタにはこれ以上はないことだった。
     轟々と外で風が吹いている。雨粒が屋根や窓を強く叩いて音が止まない。妖精たちの話では、嵐はまだしばらく去らないようだ。
     家や畑には風よけの魔法をかけた。今日の分の家事も依頼も勉強も終わらせてしまった。いつからか黒く染まった箒の手入れだって昨日したばかりだ。やることのないそんなとき、本棚から取り出した絵本を開く。七歳の誕生日にお母さんがプレゼントしてくれた絵本。これが最近、なぜだかずっと気になるのだ。
     そこに書かれているのは誰もが知る昔話、冥界下りの物語。

     今よりもひとがずっと神秘に近しかったころ。楽園の中、すべてに祝福された夫婦が幸せに暮らしておりました。腹が減れば果実が実り、喉が渇けば泉が湧き。望みの叶う楽園でふたりは仲睦まじく暮らしておりましたが、ある日ひとすじの影が差しました。働き者の愛しい妻が流行り病にかかったのです。果実が成れども癒されず、泉が湧けども治癒には至らず、楽園のものたちに病はどうすることもできませんでした。夫想いの女性は彼を心配させないように微笑んでいましたが病はあっというまに元気を奪い、女性は花が萎れるように息を引き取りました。妻を亡くした男は嘆きました。流した涙は川になり、嘆きを聞いた鳥たちもまた悲しい歌を歌います。一年、二年、どれだけ経っても悲しみは止みません。ついには彼の嘆きを大地が聞き届け、彼の前に深い深い割れ目を作りました。大地は低い風音で誘います。『どうぞ地の底、死の国へ。あなたの愛を呼び戻しに』。妖精たちは男に三つのものを授けます。『どうぞ愛し子、これをお使い。さすればきっとあなたの愛は楽園に』。この深い闇の底に、ただひとりの女性がいる。そう知った男はとうとう、地の深くへ足を向けました。
     ひたひた、ざわざわ。ぬるりと湿った風が舐めるように肌をなぞります。掲げた松明の炎は時折この世のものではない悍ましい影を映し出し、男は何度叫びかけたことか。闇の世界は暗く湿ってとても静かな恐ろしいものでした。それでも歩を進め、男はとうとう地の底へとたどり着きました。すべての死者が訪れるという、冥府の王が統べる死者の国。その裏門には恐ろしいドラゴンがいて、生者を通すことはありません。そこで男は妖精のくれた蜂蜜をやり、ドラゴンが夢中になって食べている間に通り越しました。中に入って城の中で運命を紡いでいる亡者の錘に眠りの花の棘を混ぜ、眠ったところをこっそりと忍び込みました。そうして入った王の間の奥、ひっそりと閉められた棺の蓋を開けると、男はようやく愛する妻と再び会うことが叶いました。
     けれど、逃げようとした二人を死者の王が見咎めます。王は言いました。『死者を置いていきなさい。さもなくばお前も死ぬこととなる。ここに入った生者は一人きり。帰るものもまた一人きりなのだから』。それを聞いた男は妖精からもらった冷たい毒を飲み干しました。自分とは反対にどんどん冷たくなっていく夫の体に気づき、女性は青ざめます。優しい妻に笑いかけ、男は言います。『ここから帰るものが一人きりだと言うのなら、どうぞ妻を返してください』。王は男の言葉を聞き入れ、死んだ者の魂を受け入れる門を開き、女性をそこから地上に返しました。たったひとりで楽園に戻ってきた女性は夫を想い生涯を泣き濡れて暮らしました。大地はもう、裂けることはありませんでした。

     悲しい物語にスレッタはため息をつく。この時代、たとえ魔女であってもひとを蘇らせることは叶わない。お母さんからも繰り返し教えられたし、スレッタには生き返らせたいひともいない。なのに、どうしてこんなにもこの物語が気になるのか。
     きゅうと胸がしぼられるように悲しくなる。じわりと目頭が熱くなり、遣る瀬のない焦燥感と甘く苦い感情に戸惑いながら表紙を撫でる。古い絵本はざらついていて昔は色鮮やかだった楽園の花々も色褪せていた。ふたりがそろってここに戻れなかったことが悲しい。幸せな日々をどうしたら取り戻せたのか分からない。
     蜂蜜、花、冷たい毒。それらの小道具にも頭の隅で引っかかるものがある。
     どうして。どうしてなのだろう。
     わからない。どれだけ考えてもスレッタの中に答えは無くて、もどかしい気持ちだけが残る。
     ツキツキと胸が苦しい。ぎゅっと眉間に力をいれて首を振る。
     お茶を淹れよう。美味しいお茶を飲めばよくわからないモヤモヤもきっと晴れる。
    「よし。ハチミツも入れよっか」
     エアリアルも飲めたなら分けられるのに。くすりと笑って立ち上がったスレッタの耳にコツコツと何かを叩く音が届く。風で窓に何かがぶつかったのだろうか? スレッタがそろりと窓に近寄ると、叩きつけるような雨の中、見覚えのある一匹のねずみが佇んでいた。
    「えっ?」
     灰色の毛がびしょびしょに濡れたねずみはスレッタがミオリネに預けた、声を記録するための魔法道具だった。ミオリネに、なにかあったのだろうか。慌てて窓を少し開けて家の中に迎え入れると、ねずみはくしくしと顔を洗った。
    「えっと、そのままだと風邪、引いちゃうよね……」
     魔法でタオルを温めて水気を拭きながら冷えた身体を温めてやる。長い尻尾がゆらゆらと揺れ、つぶらな目が気持ちよさげに細くなったころに、スレッタは青いヒマワリの種を渡してそっと話しかけた。
    「ミオリネさんからの伝言、聞かせてくれませんか?」
     粟粒のような手と歯で器用に種の皮をむき食べ終えたねずみの小さな口から人の声が漏れだした。高く鋭い、親友の声だ。
    『──スレッタ、周りにひとはいないわね? 急で悪いけど、アンタに聞かせなくちゃいけないことがあるわ』
    「ミオリネさん……」
     急いでいるのか機嫌が悪いのか険のある声は、けれど具合が悪かったり危険が迫っているというわけではなさそうだ。胸を撫でおろしてそのまま耳を澄ませていると、ねずみは話を続け始めた。
    『スレッタ、よく聞きなさい。あんたの母親は今、空のかなたに大きな球体を浮かべてその中であんたの姉とよろしくやってるわ』
    「え……?」
     聞き間違いだろうか? スレッタにはミオリネの言ってることがよくわからなかった。
    『待っててもあの女はアンタのところには戻ってこない。アンタがそんな辺鄙なところに篭ってる必要はないの! こっちに来なさい!』
     ミオリネは、何を言っているのだろう?
    『あの女にかけられたアンタの呪いもこっちでなんとかするわ。使えるヤツを拾ったの。そうよ、アンタも一緒に研究したらいいわ。必要なものはこっちで揃える。その……好きなヤツ? だってこっちに誘えばいいじゃない。だから、学園に戻りなさい。アンタのことを見向きもしない、あの女に義理立てする必要なんてどこにもないんだから!』
     彼女は何か勘違いをしているのだ。お母さんは人から誤解をされやすいから。おかしなことになる前に、よくよく話して説得しないと。慌てて返事の手紙を書こうと立ち上がると、突然頭の奥に痛みを覚えた。
    「痛っ……!」
     ふっと蒼い火が消えた。
    「エアリアル?」
     家の中から風の気配が消えた。ただ外でビュウビュウと強い風の音だけが響いている。
    「エアリアル? どうしたの? エアリアル?」
     外で強い閃光が走り、直後にガラガラと大きな音がしてしゃがみ込む。雷が落ちたのだ。チュウと驚く声がして、トトトとねずみがどこかへ走り去っていった。急にじわりと恐怖が押し寄せて声が震える。
    「エアリアル……?」
     どうしたのだろう。なにか嫌われるようなことをしてしまっただろうか。家の守りはまだ保たれているのだろうか。もし、雷がいま家に落ちてきたら。この森にはスレッタ以外の誰もいない。家が風に壊れても、雷に焼けたとしても。だれも気付いても助けてもくれない。だって、ひとりだから。
     強い雨音、木々が風に煽られる音。家がぎいぎいと軋む音。そのなかで自分の荒い息がやけに大きく聞こえる。
     まずは家の守りが保たれているかを確認しなければ。それから、。
     そう思うのに、足が竦んで動かない。怖くて視線を上げられない。
     だって、エアリアルがいない。
     そうだ、だって彼女は最初から。
     どうして。
    「……お母さん……っ」
    『──何か、困ってる?』
     それは柔らかな声だった。
     はっとして顔を上げても、そこには誰もいない。暗闇がただ広がるばかりで、人も妖精も──エアリアルも。誰もいない家が変わらずそこにある。
     けれど、その声をスレッタは知っている。たしかに聞いたことがある。心に刻み込まれたような、低くて、優しくて。ぎゅっと胸を切なく締め付ける声。
    「誰……?」
     問いかけて、思い出したように息を吸う。ひんやりとした空気が胸に入って指先まで届く。そっと指を立てると、いつものようにほわりと魔法の火が灯りあたりを照らした。椅子の背を支えにして立ち上がり、きょろきょろと周りを見渡す。
     あの声を知っている。スレッタのそばに居てくれた優しい声だ。
     困っていたら寄り添ってくれて、一緒にご飯を食べてくれて。スレッタのことを見てくれて。
     焦がれて、喧嘩して、仲直りして。──思い通じた、好きなひとの声。
     闇の中、伸ばした手は何も掴まない。それでも掴んだものがあったはずだ。
     会いたい。
     会いたい、こんなにも。
     小さな火のように胸に温もりが灯った。
    「……行かないと」
     どこにかは分からないけど、行かないと。
     ガラガラと落ちる光が闇を裂く。吹く風が森を薙ぎ倒そうと押し寄せてくる。けれどもう、気にならなかった。
     軋んだブリキのようだった身体は焦燥が油を挿したみたいに動き出した。夕食の残りのパンとスープを口に入れ、バタバタと箒と道具の確認を始める。隅で怯えていたねずみには木の実を与え、籠の中に避難させた。ブーツには蜜蝋を塗り直し、服は少し考えて寝間着から都で買ったワンピースに着替えることにした。跳ねる赤い髪をよく梳いて、お母さんからもらった髪留めで留める。無精で少し色の悪くなっている肌には勇気を出してミオリネに選んでもらった化粧粉を付けた。鏡を覗き込んで自分の姿を確認する。そこには、少し背伸びをしておしゃれした女の子の顔が映った。口角を上げると、にかりと笑う。お母さんもミオリネも褒めてくれた、スレッタの笑顔だ。
     ふと振り返る。
    「エアリアル……?」
     呼びかけるが、返事はない。
     彼がいることが当然だった。けれど、いないのも当然だった。彼がいてくれたら心強いが──いい、それでも。
     スレッタが指を振るとバンと扉が解き放たれる。扉の向こうから灰色の嵐が渦巻いて、家の中に吹き込んでくる。紙が舞い、ガラスが割れる。
     ──リィン、ゴーン、ガロラン。十二時の鐘が鳴る。
     鐘の音を聞きながら、スレッタは箒の黒い柄をぎゅっと握った。
     行こう。夜の向こうで、あのひとが待っている。
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