鬼水 輝きの名前季節は春
ゲロゲロ、というセンポクカンポクの声から始まる
「ただいま、水木さん」「よぉ水木」
「鬼太郎!ゲゲ郎!今日も来てくれたのか、嬉しいよ。 お帰り」ぎゅっと抱きしめる
「砂かけばばあから美味しいニシンの佃煮をもらったんです、一緒に食べましょう」
「それはいいな!ニシン蕎麦にするか。さ、あがりなさい」
・料理をしてる光景
・食べる光景
・将棋をして遊ぶ光景
ずっと水木の笑顔を眩しそうに見る鬼太郎
ゲロゲロ
カァー カァー
「そろそろ日が暮れますね」
「…帰るのか。」
「えぇ…でもまた来ます。ここで待っててくださいね」
「ああ、待ってる。またな」
鬼太郎が帰る際に後ろ手に戸を閉めると蜃気楼のように想い出の光景が消え去り、
家がボロ小屋になる
陰から現れるセンポクカンポク
「親父さん、鬼太郎さんや、あの方はもう魂だけここに来て4週目になる。そろそろ導いてやらんと。」
「そうじゃのう…センポクカンポク殿も、その為に遥々富山から来てくれたのじゃろう」
「そうだ。あの方の強い意志が、此処に蜃気楼による幻覚を発生させてこの家の周囲だけ変異し問題になっている。」
言い出しにくいのはわかる。
でもあの方に死んだことを自覚させ、後悔のないよう身支度をさせ墓場へ導いてやらなあかん。」
「わかっている。」
「鬼太郎……」
ここから回想
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水木さんは僕が家を出た後、数十年は此処で僕たちの帰りを待ち、その後喫茶店を建て、その2階で余生を過ごし亡くなった。
本当は別れるのが寂しかったんだろう。
メニューに僕が一等好きだと言ったパンケーキ、父さんの思い出のクリームソーダを入れて、僕たちが来るのを待ってくれていた。
でも
ぼくはパンケーキよりもずっとずっと
パンケーキを焼いた後の甘ったるい匂いを纏うあなたの方が、喉が渇くほど美味しそうだと思ってしまっていた。
だからなのか、幽霊族は人を食べないはずなのに、夢の中で火傷の痕へ舌を這わせ、歯を立てようとした。
瞬間…強い妖気が出てしまい隣で寝ていた水木を苦しめた。
これ以上は、一緒にいられない。
それにもう水神との時のような妖怪による事故や災害にも巻き込みたくなかった。
妖怪と人間は、近づきすぎてはいけない。
だから僕たちは離れて暮らすことを選んだ。
なのに……。
置き手紙
「水木さんへ
突然でごめんなさい。ぼくたちはこの家を出ます。
これからは父さんと妖術の修行をして、
妖怪の森で妖怪として生きていきます。
人として育ててくれて、ありがとうございました。
お酒と煙草はほどほどに。お元気で。
鬼太郎」
--------回想終わり
水木さんは最期までぼくたちを待っててくれた。だからこの家に憑いて(帰ってきて)しまったんだ。僕たちの思い出の家に。
「ではわしは遠くから護衛だけする。でもちゃんと明後日までに墓場まで連れて行くんだぞ。さもなくばあの方の魂はあの世へ無事におくれなくなってしまう」
「ああ、ありがとう」
「かたじけない、センポクカンポク殿」
翌日
ガララ…
「鬼太郎おはよう。今日は早いな!今日は俺も休みでな…」
「水木さん…今日は大事な話があります」
「ど、どうしたんだ、改まって……なに、立ち話もなんだ。中に入りなさい」
居間へ移動した2人。
「……。」
「………ん?どうした、鬼太郎。」
(煙草を取り出し咥え、マッチで火をつける水木)
「…いえ、その……」
(ふー…と煙草の煙を吐き、微笑む水木)
「そうだ、今夜は泊まっていけよ。久しぶりに一緒に寝よう。夜は天気が悪くなるそうだ。」
「泊まり…」(妖力で苦しめた時の水木を思い出す)
(大丈夫じゃ鬼太郎、お主は妖力を抑えられるようになった。もう一緒に寝ても問題ないじゃろう)コソ…
「…はい」コクリ
「決まりだな!おいゲゲ郎、今日は呑むぞ〜!まだこないだ天狗から貰った酒も狐から貰った山菜の天ぷらもあるぞ〜」
「おぉいいのう〜!お主は相変わらず妖怪にモテモテじゃのう〜!」
「ほどほどにしてくださいよ…」
酒を飲む父たち
肌けた着流し姿の水木をみる鬼太郎、頬を赤らめてその場を離れ、台所に向かう。
「鬼太郎〜お前は今好きな人とかいないのか?」
「…父さんと水木さんが、一等好きです」洗い物をしながら答える。
「嬉しい!!…が、いやそう言うんじゃなくて、こう…その子の周りがキラキラ見えて…笑顔が可愛いなとか、自分の手で守りたいとか独り占めしたいとか…特別…って思える人だよ。」
「なんじゃっ お主も運命と想える人に逢えたのか?」嬉しそうな目玉
「いんや、ほとんど映画の受け売りだ。
まぁ良い子だなって思うことはあってもよ…その、お前たちがもし帰ってくるかもって思ったらダメだった。」
会社の女とサシ飲みする水木の回想いれつつ
「お前たちよりその子を愛せるか、大事にできるかって思ったら…できる気がしなかった」
「ははっ 出ていく!って置き手紙された男が 情けねえよな…」涙目になりながら笑う水木
「くそ ぐすっお前の泣き虫うつった…」
「おぉよしよし水木…泣かないどくれ…」
「お前も泣いてんだろ…」
ぎゅっ と背後から水木を抱きしめる鬼太郎
「鬼太郎…?」
「本当は、何度も何度もっ、水木の側に帰りたいと思った!会いたかった!
この家から水木がいなくなったと聞いた時、もう忘れられたのかと胸が張り裂けそうだった…!
それにお店なんて始めた時も、あなたの作ったパンケーキを他の人に食べてほしくなかった!」
「鬼太郎…?み、店…?何を言って…ぐっ」
蜃気楼が歪む
「水木のこと、忘れた日なんて1日もない。」
「でももうあなたの温もりを感じることは、できない。
あなたの身体はもう…っここには無い。」
水木はハッと鼻血を垂れ流す顔を上げる。
蜃気楼は晴れて、家はボロ小屋になる。
「本当はずっと 一緒に生きていてほしかった。」振り向く水木をまっすぐ見つめ涙をこぼす鬼太郎。
水木は少し驚いた顔をして向き直し、抱きしめて笑う。
「……ごめんな。その可愛い我儘は叶えてやれそうにない。っごめんな…」
抱きしめ合う二人。その二人に涙する目玉。
崩れるボロ小屋。
二人が墓場に着くと、雨が降ってくる。
手を繋ぎ、行灯を持つ鬼太郎と最後の一本の煙草を持つ水木。
ゲロゲロ 立ち去るセンポクカンポク。
水木家の墓に着く。
「ありがとな、鬼太郎。ここまで案内してくれて。」
「…」俯く鬼太郎
「鬼太郎、なんか言わんか!水木ぃ…達者でな。あの世でも元気に暮らせよ」
「ああ、お前もなゲゲ郎。
鬼太郎は?別れの言葉は無しか?
さっきは愛の告白みてぇに熱烈だったのに」
「っからかわないで」
鬼太郎が顔を上げると、愛おしそうに見つめ、
フッと笑う水木。
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「鬼太郎、愛してる。この世の何よりも」
瞬間、雷が落ちる 雨の雫と雷の光にかがやく眩しい笑顔
背後の桜の木が燃える
「じゃあな!」
水木の魂が消えていく
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(キラキラ…)
「あぁ、 これが 」
暗転
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僕はあなたが生きた人間の世も
僕たちの妖怪の世も 守り続ける
戦い傷つく鬼太郎
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ボロボロの体で帰宅してポストを開ける鬼太郎と目玉おやじ
(もし、また会えたら 必ず伝える)
鬼太郎は手紙を開き、内容に驚き目を大きく開ける
そして目を潤ませる。
(あなたがーーーーー)