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    野田佳介

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    野田佳介

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    🗑👁本編1
    自分で書いてる

    魔界で暮らす悪魔、キース・クラスター。
    かつては魔界の上層部で記録士として働いていたが、そんな堅苦しい仕事はとうに辞めた。
    今はアデクやヘルメスと酒を飲み、賭け事に興じる日々。
    「まったく、退屈しない毎日だ」
    ——そう思っていたのは、その日までだった。

    夜、賑やかな酒場を後にし、自宅へ向かう途中だった。
    ふと足を止めた瞬間、空気が変わった。
    背筋を冷たい感覚が走る。
    戦場でもないのに、敵意の気配を感じた。

    「——ッ!?」

    反射的に後ずさる。
    目の前に立っていたのは、天使。

    殺される!

    そう直感したキースは、踵を返し全力で逃げようとした。
    だが、それよりも速く天使の手が伸びる。

    「待ってくれ!」

    逃げようとする彼の腕を、天使は信じられないほどの力で掴んだ。
    そのまま引きずられるように、キースは人目のない路地裏へと連れ込まれた。

    「は、離せッ!」
    「頼む! オイラはお前を殺す気はない! 落ち着いてくれ!」

    必死に暴れるキースを抑えながら、天使は声を荒げた。
    その声には、敵意はなかった。

    「……何のつもりだ」
    「オイラは……悪魔になりたいんだ!」
    「……は?」

    キースは理解が追いつかなかった。

    「だから、悪魔になりたいんだよ! で、協力してくれる悪魔を探してたの!」
    冗談じゃない。
    この天使は頭がおかしいのか?

    「ふざけるなよ……そんな話、悪魔が乗るわけないだろ」
    「やっぱそう思う? まあ、当然かもしれないな」

    天使はどこか楽しげに笑う。

    「だからさ、お前には拒否権を与えないことにした」

    次の瞬間——。
    天使の瞳が赤く光った。
    血のように赤い目が、真っ直ぐにキースを射抜く。

    「拒否するなら、ここで死んでもらうよ」

    キースの背筋が凍りついた。
    間違いなく本気だ。
    拒否権なんてものは最初から存在しなかったのだ。
    こんな奴、さっさと警察に突き出してしまいたい。
    だが、命の危険がある以上、今は従うしかなかった。
    悪魔は、天使に殺されることが何よりも未練で屈辱的な死なのだ。

    「……分かったよ」

    キースはしぶしぶ了承する。
    もちろん、後でどうにかして裏切るつもりだった。

    「よし! 話が分かるじゃん!」

    天使は満足そうに笑い、手を離した。

    「オイラはエミエル。よろしくな!」
    「……キースだ」
    「ふーん、可愛くない名前だね」
    「……は?」

    キースが眉をひそめる間もなく、エミエルは考え込む。

    「うーん……そうだなぁ……」

    突然、パン! と手を叩き、嬉しそうに笑う。

    「よし! 決めた!」
    「……?」
    「今日からお前は『ヒトツメ』だ!」
    「——は?」

    キースは呆気に取られた。

    「いや、勝手に決めるなよ……」
    当然の抗議だったが、エミエルはまるで聞く耳を持たない。

    「ヒトツメ! いい名前だろ? お前にピッタリだ!」
    「……どこがだ」

    適当すぎるだろ、と言いかけるも、エミエルの瞳を見て言葉を飲み込む。
    この天使は、自分が決めたことは絶対に曲げないタイプだ。

    キース——いや、ヒトツメは、深いため息をついた。

    「最悪だ……」

    かくして、彼の人生は大きく狂い始めたのだった。


    天使が悪魔になる方法など、知るはずもなかった。
    ヒトツメとエミエルは途方に暮れる。
    エミエルは天使でありながら魔界に身を潜めなければならない。
    見つかれば間違いなく殺される。
    そしてヒトツメも同じだった。
    天使を匿ったと知られれば、最悪処刑、よくて追放だ。
    2人はヒトツメの家を拠点にし、どうにかする方法を探すことにした。
    しかし、当然ながら何の手がかりもない。

    「悪魔になる方法……か」

    ヒトツメは考え込んだ。
    自分は元記録士だ。
    魔界の歴史に関する記録は、上層部の書庫に残されているかもしれない。
    だが、それを調べるのは難しい。
    すでに退職している自分が簡単にアクセスできるはずもない。

    「……上層部の記録に何か残ってりゃいいが、どうするか……」

    ヒトツメはそう呟きながら、ふとエミエルを見た。

    「おい、お前、本当に悪魔になりたいのか?」

    エミエルは一瞬、目を逸らした。

    「……なりたいよ。オイラは天界を捨てたんだから」

    「どうして?」

    「……」

    エミエルは言葉に詰まった。

    ——実は、最初から嘘だった。

    魔界に潜入し、悪魔の動向を探り、天界へ報告する。
    それが本来の目的だった。
    だが、それも適当にこなすつもりだった。
    死んでからも上のために仕事なんてバカバカしい…
    魔界で数日過ごし、それらしい情報を持ち帰ればいい。
    そんな適当な計画だったのに……。

    「……」

    ヒトツメは気づいていない。
    しかし、彼を騙しているのはエミエルだけではなかった。
    ヒトツメ自身もまた、エミエルを裏切るつもりでいた。

    お互いに裏切る気で、しかしお互いに惹かれていく。
    敵同士が、協力するようになってしまったのだ。

    手がかりがない以上、自分たちだけでは埒が明かない。
    ——誰かを頼るしかない。
    そこでヒトツメは、アデクとヘルメスを呼ぶことにした。

    「急に呼び出して何の用だ?」

    そう言ってやってきたのは、悪友2人。

    「お前が呼ぶなんて珍しいな」

    アデクが怪訝そうにヒトツメを見た。

    「……驚くなよ」

    ヒトツメはそう言いながら、部屋の奥にいるエミエルを指した。

    「こいつを匿ってる」
    「……は?」

    アデクとヘルメスの表情が固まった。
    数秒の沈黙の後——。

    「……馬鹿だろ、お前……」

    アデクが呆れ果てた声で言った。

    ヘルメスは目を閉じ、ため息をつき——

    「はは…いや本当に、馬鹿だ」

    そう言って肩をすくめた。
    運命は転がり始める

    「で?」

    アデクが腕を組む。

    「お前の家に天使がいることは分かった。……で、どうする気だ?」
    「そいつを悪魔にする方法を探す」
    「……は?」
    「だから、こいつを悪魔にする」

    ヒトツメは真顔で言い切った。

    再び、沈黙。

    「お前、本気で言ってんのか……?」

    アデクが頭を抱える。

    「本気じゃなきゃ、お前らを呼ばねぇよ」
    「……」
    「……」

    アデクとヘルメスが顔を見合わせる。

    「やれやれ……」

    ヘルメスが肩をすくめた。

    「……面白いな。手を貸してやるよ」

    アデクは黙っていた。

    こうして、ヒトツメとエミエルの”共犯者”は増えた。

    『正しさと裏切り』

    アデクは通報した。

    ヒトツメがいない間に、悪魔の警官に密告したのだ。

    彼は元々、正義感が強かった。
    それが今回ばかりは仇となったのか、それとも”悪魔として正しい選択”だったのか
    エミエルが悪魔になりたいなんて、ふざけたことを言う。
    ヒトツメはそれを本気で叶えようとしている。
    そんなものは間違っている。
    悪魔は悪魔らしく、天使は天使らしくあるべきだ。
    だからこそ、アデクは通報した。
    それが”悪魔として”正しい行動だから。
    そして——
    ヘルメスは、その全てを壁の裏で聞いていた。

    「……これはこれは、面白いことになるなぁ」

    彼は皮肉めいた笑みを浮かべた。
    しかし、アデクを止めなかった。
    それが”悪魔にとって”正しい行動だったからだ。
    ヒトツメは、友人である前に悪魔だ。
    だから、悪魔としての正しい道を進まなければならない。

    「……結局、俺たちは悪魔なんだよな」

    ヘルメスは小さくため息をついた。
    心のどこかで、この結末を受け入れるしかなかった。
    これが”友人”としてできる最善の選択なのだと。

    その頃、ヒトツメは何の手がかりも得られないまま帰路についていた。

    「くそ……どこにも情報がねぇ……」

    苛立ちを隠せないまま、家へと歩を進める。

    しかし——

    「……なんだ?」

    家の前が騒がしい。

    嫌な予感がした。
    足が勝手に速くなる。
    角を曲がり、自分の家が見えると——
    そこには、大量の悪魔たちが集まっていた。

    「……っ!」

    警官が数名、家の前に立っている。
    そして、その中心には——
    縛られたエミエルの姿があった。

    「……!」

    ヒトツメの顔が絶望に染まる。
    エミエルの赤い瞳がちらっとこちらを見た。

    ヒトツメの心臓は激しく脈打っていた。
    目の前の光景が信じられなかった。
    警官たちが、自分に向けた言葉は——

    「天使が貴方の気づかない間に入り込んでいたようですね。」

    その一言だった。

    (……何?)

    頭が真っ白になった。そう、これは——
    エミエルが、全ての罪を背負ったということ。
    ヒトツメは動けなかった。
    「……っ」

    言葉が出ない。
    そんなヒトツメに、ゆっくりと近づいてきたのは——

    「いやぁキース、危なかったなぁ!」

    わざとらしく、明るい声を上げるヘルメス。

    「死んでたかもしれねぇぜ?」

    その笑顔の裏に隠された真意に、ヒトツメはすぐに気づいた。

    「……ヘルメス?」

    動揺するヒトツメに、今度はアデクが口を開く。

    「全く、私が通報しなければどうなっていたことか。」

    理解した。
    あぁ、こいつらは俺を守るためにエミエルを売ったんだ。
    その事実に、心が凍りつく。

    「……」

    何か言わなければ。
    このままじゃ、エミエルが——
    そう思った瞬間——

    「合わせろ、全部無駄になる。」

    ヘルメスが、そっと耳打ちしてきた。
    ヒトツメは、目の前のエミエルを見た。
    エミエルは……
    まるで、全てを受け入れたような顔をしていた。
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