そうして、人を襲い、その金で暮らしていたヒトツメとgarbage。
ある日買い出しに出かけようとした2人。
オムライスに魅力されたgarbageは家でも自作するようになり
ほぼ毎日食べている。
今日もその材料を買うつもりだった。
その時ヒトツメは、何かの気配を感じ取った。
「……garbage、家に帰るぞ」
「は? なんで?」
「天使が……近くにいる」
警戒を強めるヒトツメに対し、garbageは「戦えばいいだろ」と軽く返す。
そう言って、わざわざ人気の少ない場所へ向かおうとした。
騒ぎを大きくしたくないからだ。
「待て、お前何考えてんだ!?」
ヒトツメが焦るのも当然だった。
彼は戦闘向きの悪魔ではない。
戦っても勝てる保証などどこにもないし、負ければ命を落とすかもしれない。
「危険すぎる、やめろ!」
「……」
garbageは立ち止まり、ヒトツメを一瞥する。
彼もまた考え無し喋っている訳ではなかった。
もし襲われた時、2人とも対処できなければどうするのか。
それから——もし戦争を止める方法の一つに”天使を全員倒す”というのがあるのなら
戦闘に慣れておいた方がいい。練習するに越したことはない。
しかしヒトツメの話によれば天使は人間の生まれ変わりでもある…
つまり次から次へと生まれてくる。全員倒すなんてほぼ不可能なことはわかっていた。
——それでも、やる価値はある。物は試しだ。
そう伝えた。
ヒトツメは何としても止めたかった。
garbageの言っていることは確かに一理ある。
だが、もし——もし壊れてしまったら?
合理的に考えれば、戦うべきではない。退いた方がいい。
そう考えていた矢先、空気が変わる。
誘い込まれたように、天使が姿を現した。
白い肌、白い髪、そして血のように赤い目。
garbageはその辺に転がっていた鉄パイプを手に取る。
ずしりとした重みを確かめ、振りかぶった。
——一撃が入る。
だが、天使は怯まない。
人間よりも多少は頑丈らしい。
何より——飛ばれるのが厄介だった。
天使は軽々と空中へ跳び、garbageの攻撃範囲を逃れる。
一方のgarbageは、無機物であるが故に飛ぶことなど無縁。
重すぎる体を引きずりながら、動き回るのがやっとだった。
そして、次の瞬間。
天使の頭部がクリオネのようにバカッと割れた。
中から伸びるのは、蠢く無数の触手。
「……は?」
garbageが目を見開く。
一瞬の驚きが、命取りだった。
回避の体勢を取る——が、後ろにはヒトツメがいる。
「garbage!!」
ヒトツメの叫びが響く。
庇う体勢を取った為か、garbageの頭部と右腕がモロに攻撃を受けて割れる。
吹き飛ぶ視界。半分しか見えない。
右腕と頭部の破片が音を立てて落ちる。
ガクリと傾ぎかけた体を、ヒトツメが支える。
彼はgarbageの体を攫うように抱え、そのまま飛び立った。
風を切る音が遠のく意識の中で響く。
「だから言っただろ!!」
ヒトツメが叫ぶ。
怒っている。いや——焦っているようにも見える。
「しっかりしろよ!!」
目の前が暗くなっていく。
意識が落ちる寸前、garbageは初めて敗北を知った。
ヒトツメに抱えられながら、2人は拠点へ向かっていた。
ヒトツメはgarbageの壊れた体をベッドに横たえた。
「……全く。少しは話を聞くんだ、分かったな?」
諭すように言うと、garbageは短く「あぁ……」と返す。
「次はもっと上手くやる」
「そういう事じゃなくてな……」
ヒトツメは呆れながらため息をついた。
どうしてこいつは、こうも無茶をするのか。
壊れたら終わりなのは、分かっているはずなのに。
ひとまず修復しようと、壊れた右腕を取り外した。
しかし——修復用に取っておいた腕が、なぜかはまらない。
「……?」
ヒトツメの眉が寄る。
サイズが合わない?
食事を取れる体だ、有り得なくはない。
もしかすると成長のようなものがあるのかもしれないが…
「……一回り大きいサイズを取り寄せないとか?」
そう考えながら、ちらりとgarbageを見る。
目をつぶっている。
呼吸がないせいで、生きているのか、死んでいるのか一目では分からない。
不安になり、名前を呼んだ。
薄く目を開けるgarbage。
それを見て、ヒトツメは安堵の息をついた。
「……とりあえず、今日はもう寝るか」
寝床はgarbageが占領している。
仕方ない。床で寝るしか無さそうだ。
次の日——
ヒトツメは目を覚まし、すぐにgarbageの様子を見た。
そして——
「……は?」
思わず声が漏れる。
体が……直ってきている?
亀裂の入った部分が、僅かに再生しているのが分かる。
どういうことだ?
時間が経てば自己修復ができる?
「……よく分からないな……」
自分で考えつつも、ヒトツメはgarbageの体をじっと見つめた。
数日が経ちgarbageの体は完全に直っていた。
傷一つなく、まるで最初から壊れてなどいなかったかのように。
ヒトツメはgarbageの体をじっと見つめる。
「……特に、影響はないか?」
「……たぶん」
garbage自身も、自分の体に困惑していた。
修復には外部の手助けが必要だと思っていたのに、勝手に元通りになった。
この現象が一体何なのか、彼自身も分かっていない。
——だが、これを上手く使えれば……。
garbageは思考を巡らせる。
自己修復ができるなら、いくらでも戦えるんじゃないか?
「……」
そんなことを考えているgarbageを横目に、ヒトツメは静かに決意する。
もう、こんな思いはしたくない。
もう二度と、garbageが壊れる姿を見たくない。
まして失った友人にそっくりで、その為に作ったのだ、もう失わないために。
「……garbage」
「ん?」
「お前の身を守れるものを、手に入れる」
garbageは目を丸くした。
「それ、俺に武器を持たせるってこと?」
「そうじゃない。お前は接近戦向きじゃない。お前自身を守る手段が必要だ」
「……」
「俺が探す」
そう言い残し、ヒトツメは席を立った。
garbageは何も言わなかった。
ただ、ヒトツメの背中を静かに見送った。