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    野田佳介

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    野田佳介

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    8

    ヒトツメは魔界へ行くことを決めた。
    本当なら、なるべく帰りたくない場所だった。
    だが、garbageのために必要なものを手に入れるには、魔界に行くしかない。

    「……大丈夫だろう」

    あれから大分、月日も経っている。
    自分がここを離れたのはかなり前のことだ。
    今さら顔を覚えている悪魔もそう多くはないだろう。
    行くしかない。

    ヒトツメとgarbageは、魔界行きの汽車に乗るために駅へ向かった。

    「へぇ……ヒトツメの故郷か」

    garbageはどこかワクワクしているようだった。

    「何が面白いんだか」
    「いや、未知の世界って感じで、なんか面白そうだろ」
    「……そんな楽しいところじゃないぞ」

    そうぼやきながら、ヒトツメは切符を買い、2人は改札を通る。
    しばらくすると、一台の汽車がホームに滑り込んできた。
    黒い光沢のある車体をした汽車だった。吸い込まれてしまいそうな。
    煙突からは白ではなく、黒い煙がゆっくりと立ち上る。
    、garbageが最も驚いたのは線路が宙に浮いていることだった。

    「……え、これどうなってんだ?」

    人間界じゃ絶対ありえない光景に目を見張るgarbage

    「まぁ、人間界の技術で魔界には行けないからな」

    2人は車内へ乗り込む。
    中は薄暗く、座席は黒いベルベットのような質感の布で覆われていた。
    乗客はまばらだったが、どの悪魔もじっとりとした視線を投げてくる。
    garbageは気にしないフリをした。
    2人は向かい合わせに座った。

    「……にしてもさ」

    garbageがふと思ったように口を開く。

    「魔界って悪魔の世界なんだろ? なんで汽車で行くんだ? 飛んで行けばよくね?」
    「飛ぶことでも行けるが……遠いんだよ」

    ヒトツメは肩をすくめる。

    「人間界と魔界はそこそこ距離がある。飛んで行こうとすると時間がかかるし、何より疲れる。汽車が一番楽だ」
    「悪魔の口から、飛ぶのが疲れるとかあまり聞きたくないな…」

    そんな会話をしているうちに、汽車はゆっくりと減速を始めた。

    「着いたぞ」
    「おお……!」

    汽車の扉が開くと、冷たい風が吹き込んできた。
    garbageは先に降り立ち、周囲を見渡す。

    「……」

    一瞬で分かった。
    ここは、人間界とはまるで違う。
    まず、空の色が赤黒い。
    まるで永遠に続く夕焼けのようだが、どこか不吉な色合いだった。
    空気も…なんか不思議だ。
    道の材質も妙だ。
    黒曜石のような光沢を放つ黒い石畳が広がっている。
    歩くと硬質な音が響くが、時折、石畳の隙間から怪しげな紫の光が滲み出ている。
    周囲にいる生物や植物も奇妙だった。
    見たこともない建築様式の建物が立ち並び、そのどれもが歪んでいた。

    「……すげぇ」

    garbageは素直に感嘆した。

    「どうした?」
    「いや、想像以上に違うな……すげぇ」
    「そんなに驚くことか」
    「いや、人間界とはまるで別世界じゃん」
    「そりゃそうだ。ここは人間が生きられる場所じゃない」
    「……なるほどな」

    garbageは好奇心を抑えられず、あちこちを見回す。
    その様子を見ていたヒトツメは、ふっと息をついた。

    「行くぞ。まずは、俺の知ってる奴を探す」
    「どこ?」
    「……昔の知り合いの店だ」
    「ふーん……」

    garbageはまだ興味津々の様子だったが、少しだけ慎重に歩き出した。
    こうして2人は、魔界の街の中へと足を踏み入れていった。

    「はぐれるなよ」

    ヒトツメがそう釘を刺すと、garbageは「わかってるって」と軽く返しながらも、興味津々に辺りを見回していた。
    建物、生物、空気の流れまで、すべてが未知のものだった。
    そんな魔界をキョロキョロと観察しながら、garbageはヒトツメの後ろをついて歩く。
    やがて、ある店の前で足を止めた。
    扉を開けると、店内には薄暗い光が灯っていた。
    どこからかかすかに硫黄のような匂いが漂っている。
    カウンターの奥から、黒い兎のような悪魔が顔を出した。

    「おっ、久しぶりだな!」

    兎の悪魔は笑った。

    「……ニホ、今もここで商売してたか」
    「おうよ! それより、珍しいな、お前がこんなとこ来るなんて」
    「必要なものがあってな」

    ヒトツメは簡潔に用件を伝える。

    「コイツの護身になるものは無いか」

    そう言いながら、garbageを指さす。
    ニホはgarbageをじろじろと眺めた。

    「……なんだこいつ、変わったヤツだな」
    「細かいことはいい」
    「はいはい、商売だもんな」

    ニホは顎を掻きながら少し考え込むと、店の奥へと消えた。
    ガタガタ、ゴトンと物音が聞こえる。
    しばらくして、さまざまな物を抱えて戻ってきた。

    「よし、こんなのはどうだ?」

    ニホは次々と紹介していく。

    「これは瞬間防御の魔導具。発動すると一定時間だけ魔力の障壁を張るが、魔力消費がデカい」
    「こっちは自動反撃の呪符。攻撃されると相手にダメージを跳ね返すが、効果が不安定」
    「あと、こっちは影に潜れるマント。逃げるには最適だが、着ると冷たくて寒いらしい」

    garbageは、説明を聞きながら適当に「へぇ」と相槌を打った。
    魔界の道具については、何がいいのかさっぱり分からない。

    「何か気になるものはあるか?」

    ヒトツメが聞いたが、garbageは「うーん」と適当にあしらった。

    だが、その時ふと視界の端に気になるものが映った。

    「……これは?」

    garbageは無造作に転がっていた物を手に取った。
    それは、枯れ木のような物に、黒いヒルのようなものが引っ付いている物体だった。
    ヒルはゆっくりと蠢いており、まるで何かを探しているように動いている。

    「……」

    garbageは興味深げに眺める。
    すると、ニホが苦笑しながら言った。

    「それは、あんまりオススメしないぞ」
    「どうして?」
    「寄生型のペットだよ。一度寄生したら外せないんだ」
    「へぇ……」
    「伸び縮みするから武器にもなるし、耐久性もある……けどな」

    ニホは軽く溜息をついた。

    「燃費が最悪なんだ」
    「燃費?」
    「ちょっと動かすだけで、とんでもない量のエネルギーを取られる。
    魔力とか……あと、栄養だな」
    「栄養……?」
    「要するに、宿主の生命力を直接吸うってことだよ」
    「……なるほどな」
    「しかも神経と繋がるから、そいつが傷つけばお前も痛みを感じるし、ダメージを受ける」

    ヒトツメが口を挟む。

    「結構デメリットがデカいんだな」
    「そういうこった。だから、ほとんど売れないんだよな……」

    ニホは肩をすくめた。
    だがgarbageは、そんな説明を聞きながら、考えていた。

    (……俺には栄養は必要ないし、魔力も神経もない)
    (……これ、もし無機物にも寄生できるなら……)
    (相当、都合がいいんじゃないか?)

    garbageはヒトツメを見た。

    「これ、ちょっと試してみていいか?」

    ヒトツメはじっとgarbageを見つめた後、軽く溜息をついた。

    「……好きにしろ」
    「おっ、本気か?外せないんだぞ」

    ニホがニヤリと笑う。

    garbageは改めて、その寄生型ペットを見つめた。
    果たして、無機物の自分に寄生することができるのか。
    garbageは、ゆっくりとそれに手を伸ばし蓋を開けた——。


    garbageは手の中の黒い生物を見つめ、少し考えた。
    寄生の方法や条件が分からない。

    「とりあえず、飲み込んでみるか」

    ヒトツメが何か言いかけたが、garbageは気にせず、生物を口のない顔の隙間へと押し込んだ。
    噛まないように、ゆっくりと、喉へ落とすように。
    いや、正確には喉ではない。
    garbageの体は無機物でできており、内部は空洞だ。
    そのため、生物はどこにも消化されることなく、ただ体の中に落ちていった。
    蠢く。
    這いずる。

    体内に、何かが入り込んでうごめく感覚があった。
    寒気にも似た違和感が、胸の奥から広がる。

    「……」

    garbageはしばらく沈黙し、そのまま立ち尽くしていた。
    すると、ニホがにやりと笑い、興味深そうに言った。

    「よし、出してみな。」

    garbageは黙って頷くと、グローブを外し、手を空にかざした。
    その途端球体関節の手のひらが突き破られた。
    先ほど飲み込んだ黒い生物が、garbageの手のひらを突き破って飛び出してきたのだ。
    まるで空気に馴染もうとしているかのように蠢く。
    garbageの手のひらには穴が空いている。
    しかし——

    「痛くねぇな」

    じっと破損した手を見つめる。
    痛みはない。
    完全にどうやって「出した」のか自分でも分からなかった。
    ただ感覚だった。
    すると、突如として黒い生物が暴れだし、garbageの手から離れて体内へ戻ってしまった。
    garbageは困惑する。

    「おいおい、せっかく出したのに戻ってんじゃねぇか」

    ニホはくくくっと笑った。

    「そいつ、腹が減ってるんだよ。」
    「は?」
    「それから水分不足だとさ。大層ご立腹だ」
    「……なるほど」

    ニホは肩をすくめながら続けた。
    「まぁ、少なくとも食料と水分さえあれば、お前のために働く気はあるようだ。良かったな」

    garbageはしばらく考えた後、ニヤリと口元を吊り上げた。

    「……面白い」

    新たな力を得たことが、少し嬉しかった。
    未知の能力に、心がわずかに高揚する。
    手のひらを握りしめながら、garbageはヒトツメを振り返りこう言った。

    「これなら、次は天使も倒せるかな?」

    ——その瞬間。
    ニホの表情が、わずかに曇った。

    「……天使と戦ってるのか」

    garbageの言葉を繰り返しながら、ニホは微妙な顔をする。

    「まぁ……ご苦労なこった。俺たちにとっちゃ有難い話だが」

    そう言いながらも、嬉しそうではなかった。

    garbageは首を傾げる。

    「お前、天使嫌いじゃねぇの?」
    「嫌いさ」

    ニホは短く答えた。

    「憎いくらいにな」

    だが、その顔にはどこか迷いがあった。
    ……でもよ、と続ける。

    「天使も……嫌いだけどさ、憎いけど」

    ニホは空を見上げるように天井を仰ぐ。

    「きっと、何かきっかけがあれば仲良くなれると思うんだよ。」
    「……」
    「だって、大昔はそうだったんだから」

    その言葉にヒトツメは何も言えなかった。

    ニホは語り続ける。

    「俺は人間が好きだ、食べるのも眺めるのもな」
    「いつか人間界に行きたいが…やっと手に入れたこの店を放っていけないから」
    「無意味な戦争が終わってくれりゃあ…きっと叶うんだろうな」

    garbageとヒトツメが、無言でニホを見つめる。
    ニホは小さく悲しそうに笑った。

    「……俺が戦争を終わらせるよ」

    garbageは静かにそう言った。
    ニホは一瞬、驚いたようにgarbageを見た。
    しかし、すぐに口元を歪めて笑い——

    「おお、そいつは期待してるぜ!」

    まるで本気にしていないような軽い口調だったが、どこかその声は明るくなっていた。
    また来いよーと手を振るニホを背に、店を後にする二人。
    魔界の道を歩きながら、garbageはヒトツメをちらりと見て、何気なく尋ねた。

    「次はどこへ行く?」

    ヒトツメは少し考え込んだ。

    「……1度、家にあるものを取りに帰りたい」

    しかし、その声は暗かった。
    何かを抱え込んだような、重たい響きだった。
    garbageはヒトツメの横顔をじっと見つめたが、それ以上は何も言わず、ただ彼について行くことにした。




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