正気の沙汰では無い話。───まさか、自分が抱かれる側になるとは1ミクロンだって想像していなかったのである。 様々異名を持つが どれもこれも雄である事を象徴する様な名だし…バッファロー族の特徴の1つ、立派なこのガタイも…大きな角もそして股の間に鎮座する心意気そのものが己が漢であるとの証明だった。 …だが、唇を合わせ舌を噛み合い…浮かれてゾクゾクとしだした性欲の火に炙られながら下着から取り出したそれを見てたった一言「わたしを殺す気か?」と真剣な表情をされた。 正直挿れる気満々だった。オンナ相手にする時は全て入らないのが前提で…だけど恋仲になってラブラブチュッチュする相手が此度は初の同性だと言う事で、バッファローマンはもうこれは…!と考えていた。いたのに、だ。 だあいすきな恋人、ラーメンマンが細い目を更に細めて強く言う。
「 …はあ、そんなモノ挿れられてはひとたまりもあるまい。わたしがおまえを抱こう。」
「なっ!………や、優しくしてやるから!それならイイだろッ?無茶にしない…きちんと止まってやるさ…な? っな?」
「たわけ!腕かと思うたわ! わたしはまず入らんと言っているんだ。 何せその巨体だぞ…おまえに乗り上げられては身動き一つ取れんだろう、ほれ!清めて来るがいい。」
(待て待て……どうなってやがる、有り得ねぇ話だ。だってそうだろ? おれは…)
早よ行け、とばかりに浴室へ追いやられてようやく自分に訪れた正気の沙汰では無い話に脳が追い付きはじめた。 ラーメンマンはこの、バッファローマンである自分を抱くという。 こんなにも雄として恵まれた肉体を持った自分を、雌にすると そういうのだ。そんなアホな話があってたまるか…! 自分が、自分がラーメンマンを抱きたいのだ。それにそれが当たり前だと思っていたし、そうするつもりだった! おれは強くて立派な雄牛なのだ! むー!と唇を噛み、ドスドス足音を立てて元来た道を戻る。 勿論反論する為だ。 バッファローマンを浴室へ追いやった癖にラーメンマンはソファに腰掛け暖かいお茶をのんでいた。ズビズビ啜るとバッファローマンのシャワーが終わる時間を待つラーメンマンは出戻った気配を感じて声を掛ける。
「ん、早いな…。なんだまだ水すら浴びていないのか…まあ良いさ 初夜とは儘ならんものだ。時間はあるゆっくりしろ」
「違うそうじゃない、おれがあんたを抱く。そう決まってたんだ」
「なに?誰が決めた」
「天命さ…!だってそりゃあそうだろう?おれは雄牛だぜ…!こんなにも男として恵まれた体を持っているんだ、それをあんたは雌にするって? イカれてるよ…!」
「…成程、では此度わたしは天命に背こう。運命とは往々にして己で切り拓くものよ。それが故に必然となる、その為の努力は惜しまんぞ。おまえを抱く為…わたしは抗う。 」
「ぐっ、ぐうーーーッ!」
「…そもそも生き物は雌の方が体の大きなものが多い。わたしにとっておまえの体はそう見えるよ。なにか問題でもあるか」
「大ありだね…!おっ、おれは抱かれるなんて絶ッ対の絶ッッ対にごめんだ!」
「ふむ、わたしもお前に抱かれるのはごめんだ。おまえと行為をしたいが為に自死は選べん。 どちらかだ、結ばれる事を選択するならバッファローマン…おまえはわたしに組み敷かれろ。どうしても無理だというなら 行為の無い恋仲で居れば良い。そういう行為だけが全てでは無い故な」
──究極の二択を迫られた瞬間であった。鼓動が鳴り響いて汗が噴き出る。 ラーメンマンは意志の硬い男だ。そういった所もひどく強く尊敬している。 とてもなのだ。1度言い出したらその目の奥に燃える火が燃え上がり消す事など出来ない。つまり、つまりだ! 自分が意地を張るならば二度と行為をする事はない!という宣言だった。…自分だって負けず劣らず意志は硬い。いつだって自分の信念を曲げずに真っ直ぐ走り抜けて来た。今回だってそうするつもりだった。
…だが…!
下世話な話…、バッファローマンはそういう行為が好きだった。情熱的にぶつかり合ってお互い精根尽きるまで求め合い…とろける時間を過ごすのが大好きだ。そのまま寝落ちてしまえる程の激しいのがイイ…。身体を知るのは心を知るのと同じ、服をめくる度に心の薄皮を捲り近付いている様な気さえして…愛が欲しいとなるとイコールで肉体も欲しいのだ。 相手の全てが欲しい。セックスとは快楽、運動、そしてコミュニュケーションツールだ。恋仲なら無くてはならない絶対に。そう考えている。 だってケンカした後の仲直りのセックスなど 本当の本当に気持ちがいいし最高じゃないか。それも今、行為をしない関係の恋仲を選べば無くなってしまう。それだけじゃない…日々の触れ合いの中で好きが高まって愛してるに成熟し、それを分け与え合うような あまあいセックスだって必要だ。身体を交えるのは心をとかしふたつをひとつにする行為なのだ!再度、強く思う…なくてはならない絶ッ対にだ…!
そうなると、己の信念を曲げ…バッファローマンは自分の雄として自慢だったこの肉体をラーメンマンへ渡し…雌になると言う他無いのであった。…惚れたもの負け…では無いが 恋人との初めての根比べに悔しいがバッファローマンは負けたのである。
「ぐう〜〜〜……ッちぐじょゔ…!」
「ほほ…腹を括ったか、なら行くが良い。幾らでも待っててやる。…わたしとて優しくしてやるつもりだったからな」
「…覚えてやがれよ……ッ!」
「早よ行け」
ドスドスと浴室へ向かい、シャワーを浴びて身体を洗う。 洗い始めから終わりに近付くと鼓動が逸り行為への実感が増す。その最中に鏡を見て腑抜けた自分の頬を叩いた。 ──覚悟を決めろ。 自分が受け容れたのだ。1度決めたならその道を往く、それが信念だ。そしてそれを実行出来る者こそが真の男で、自分はそれが出来る雄牛だ! …今から自分は抱かれるが…決して心がヤワになる訳じゃない。むしろ逆、そう!6をひっくり返すと9になる理論だ…!もはや錯乱だがこう己を奮い立たせる事で何とかなにかを保とうと必死であった。
「洗ったぞ! ほら、煮るなり焼くなり好きにしな…!」
「はは! 牛だけにな?」
浴室…部屋へと扉を開けて、こちらを見やるラーメンマンの視線を一身に受けながら清められた豊満な恵体は水滴を残したままベッドへ飛び込んだ。 一際大きくスプリングが軋んでベッドは大きく弾む。「壊すなよ」と笑っている声を聴きながらぎゅーっと目を瞑り唇を噛む。 まるで処女だ、相手をした事もあるから分かる…こういう気持ちだったのか。今更、わ…分かりたくもなかったな。 ふわふわする様な期待も少し…恐怖がかなり。バッファローマンはラーメンマンに「早くしてくれ」と呼び掛けるが吐息が聴こえるだけで一向にベッドに乗り上げてくる気配がない。 何を焦らしていやがるんだ、気が変わったとこの角…いや下の角で突き上げてやろうか…!怒りがふつふつと湧き上がり薄らと目を開ければ、眼前は景色を映さず真っ暗で思わず目を見開けば、角と角の間に沈む心地の良い感覚に開いた目が落ちていく。 ……頭を撫でられたのだ。 まさかそういうタイプなのか。どのイメージとも違う…甘やかす様な前戯の始まりに身体からほんの少しだけ込めた力が抜けて行く。
「まるで処女だな」
「あぁ初めてだからな…おれを抱くなんて抜かしやがったのはあんただけさ変わってるんだあんた」
「……ふ、嫌味のつもりか?言い慣れていないんだろう可愛いものだ。その言い方なら わたしがおまえの特別だと聞こえるよ」
「ち、ちがう……っ、おかしな解釈をするもんだ…! 普通ならおれに可愛がられたいってヤツらばかりなのにって話で、」
「そうか。ならおまえを可愛がれるわたしはやはり特別なのだな。 なんて、なあに…どちらでもいいのさ おまえが可愛らしいことに変わりは無い。優しくすると言った手前だ揶揄うのはやめてやろう」
ぽんぽん、ふさふさ ふわふわ …指でもこもことした毛を掻き分けて現れた角の下にある小さな耳に触れる。ラーメンマンの指に挟まれて柔くこねられる擽ったさに身を捩れば指先で毛を掻かれ「知らなかった。人間の耳では無く、おまえの耳は牛の耳なのだな」「は、……そりゃそうだろう……。 あぁそういや……実はな、この耳は評判が良いんだ。オンナ共が可愛いって喜びやがる。おれにはずっとついているから分からんが…なんでもギャップらしいな…ッた、」「余計な事は言わなくて宜しい」この耳は狩りの意外な武器になるのだとラーメンマンに伝えると、ラーメンマンはバッファローマンの耳を少し引っ張った。……わざとしてやった話に乗っかってくれる、これも甘やかす前戯一つだろう。嫉妬されるというのも気分を高める一つだ。今自分への愛が一つ確認出来て 胸がきゅう、とした悦を感じている。耳から頬へ移り、両方の掌に顔を挟まれたままじっと見つめてやる。
「みっともないねえ…それくらいで怒るなんざ…本当に男かい?」
「叱って欲しかったんだろう?期待にこたえてやったんだ。他は何がご所望なんだ」
「怒られる趣味は生憎様持ち合わせてねぇな………ん、……、…」
ゆっくりと覆い被さり降りてきた顔が近付いた。 ようやっと再び唇同士がくっ付く。少しカサついた唇の擦れる感覚にじゅわ…と身体の中から熱くなる。 …とても気持ちが良い…。 あむあむ唇を柔く食みあっていると、たまにぢゅう…と吸われピクリと眉が跳ねた。食んで濡れて柔らかくなった唇に色が付き始めたバッファローマンのその肉厚な唇をラーメンマンは舌先で舐め、呼吸の為に開いた口内へ滑り込ませた。 ぢゅるっと音がして、一瞬…腰がゾクリとしたバッファローマンから吐息が漏れる。 それを聞き逃さず舌を絡めあっていると…ねっとり、とした唾液にまみれた温い舌が絡み返ってくる。 お互いにぢゅくぢゅく唇が湿ってふやけはじめる程に必死に長く口付けを繰り返していた。 舌先が舌の横腹を擦ると擽ったいのに何故か興奮して竿が脈打ち始める。……そろそろ…、そろそろ、どうなのだ。口付けしながら扱いてくれたらもうそれだけで…それ程この口付けが気持ちいい…。期待にバッファローマンが ふわあ…と大きく開けた口から舌を垂れさせて 好きに吸ってくれ。と主張し、かたく張り詰めた前をラーメンマンに擦りつけるとラーメンマンはその舌を指で摘んで動きを止めさせた。
「、………ッ……、……っふ」
「まぬけづらめ。口を吸って扱いて欲しいと考えたな? 早急な奴よ…この舌で奉仕せねばならんのはおまえだバッファローマン」
「…ふぁ……ーっはあ………奉仕だあ……?」
「そうとも、舐めてくれ」
「………、何言ってるんだ…冗談はよしてくれ……そんなのは男がする事じゃあ無い」
「受け容れると言ったのはおまえだ。」
「たっ!確かに……おれはあんたに抱かれると決めたさ。だがそれはもう ─そっ、挿入だけ…すりゃあイイだろう…? 唇吸いあって、扱いて……出したザーメンをローションがわりに突っ込んでくれりゃあイイ…!」
「何を言う、こうして前戯しているという事はそれ以外の事もするとこちらは伝えているのだ。それが分からんおまえではなかろう」
「……でッ、出来ねぇな……。そんなアレを舐めるなんていうのは……おっおれの沽券に関わるぜ…」
「そうか。ふうむ……ならば舐めたいと思わせてやる。」