ああ、大瀬さん、いたいた。
どこからともなく呼ばれる声は心臓に悪い。このハウスに来て、彼とも共同生活を始めてから寿命が何年か縮まっていると大瀬は感じている。とはいっても、早急な死を望んでいる大瀬にとっては願ったり叶ったりではあるのだが。
背丈こそ同じだが体格が異なる、すらりとした容貌の依央利が目につく。いつの間にかぬるっと近くにいる彼は本当に猫のようだ。
「うあッ、いおくん…!?」
「もう! 大瀬さんは僕が話しかけるたびにいつもびびってますよね! そろそろ慣れてもらいたいんですけど!」
奴隷契約すらまだなのに、とぶつぶつ小言を吐き出される。
大瀬は自己嫌悪の塊であり、他人への服従を是とする依央利とはたびたび衝突する。それはハウス内に誰かがいようがいまいが、契約の下りになれば当たり前のように言い争いが勃発してしまう。ヒートアップして収拾がつかないところを笛を吹いた理解が収めるのもよくある話である。
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