摩耗と愛とフォンテーヌは予言もなくなり平和になった。
そう思ってた。僕も民も……
なのにどうしてこうなってしまったのだろう?
始まりは胸の小さな痛みだった。
違和感というほどでは無いほんの少しの痛み。
この時は気の所為だと思った。
しかし二週間後。
酷い頭痛に僕は丸一日苦しめられた。
そして頭痛が起こった日から悪夢を見るようになった。
その悪夢はフォンテーヌの民が水に溶けてしまうというあの予言の最悪な形のものだった。
次に現れた症状は水元素の暴走。
神の目がいきなり光り、止める間もなく、部屋がびしょ濡れになってしまった。
神の目を授かった時はよく、起こっていた症状だが最近は暴走もなく、神の目を扱えていたのにどうして……
その後も度重なる体調不良と水元素の暴走は起こり、とても嫌な感じがして、今、僕に起こっていることを図書館で調べることにした。
古い文献を読み漁っていると、僕の症状が何なのか分かった。
「摩耗なんだこれ……」
摩耗。
それはテイワット大陸の長命種に起こると言われるものだ。
僕も詳しくは知らないが、長い時を生きるというのは長命種でも精神がすり減るものだと聞く。
そして精神がすり減っていくと自我が崩壊する可能性が高くなる。
単なる長命種ならまだ危害は少ないが、俗世の七執政にあたる神が摩耗すると国が滅びると聞いた事がある。
そのため摩耗は長命種にとって一番恐ろしいものでもあると言われている。
確かに僕は五百年以上生きている。
だけど今は人間だ。
人間はテイワットでは短命種なので本来なら摩耗なんて起こるはずはない。
だが考えてみれば起こる可能性は少しはあるのだと文献を読んで気がついた。
僕の体はエゲリアが鏡の中の僕が純水精霊だった時に彼女を人にした姿で、人になった体に自我が芽生えた。
言わば僕の体は神の依代とも言える。
そして人は本来五百年も生きれない。
僕が生きれたのは鏡の中の僕が呪ったからで、人の命は長くて百年程の命だ。
この理は本来なら変えれるものではない。
だが今の僕はその理から外れてしまった者である。その為、人として長く生きすぎてしまった僕の精神はあの予言のせいでかなりすり減っていたのだろう。
だから摩耗が襲って来たというわけだ。
摩耗のことは文献に載ってた。けど載っていることしかわからなくて、これから何が起こるのかもわからない。
だけどこのままだと良くない。
逃げないと……
とにかくフォンテーヌから離れないといけない。このまま僕が摩耗し続けるときっと大変なことになる。
そう思い慌てて家に戻り荷造りをしようとした時だった。
「かはっ……」
急に胸が痛くなり、座り込んでしまう。
胸が痛くて、苦しくて、手足が急速に冷えていく。
「なにこれ…たすけて……」
胸が痛い。苦しい。呼吸が上手く出来ない。
助けを呼ぼうにも大きな声は出せないし、クラヴァレッタさん達を呼び出すことも胸の痛みで不可能だ。
すると床がパキパキと凍り始めた。
「な、なに?やだ…だめ…だめ、止まって…お願い……」
なんで床が凍るのかもわからなくて、怖くて自分の体を抱きしめるが凍りつく範囲はどんどん増えていき、止まることはなく部屋が凍っていく。
そして僕の体も下半身が少しずつ凍って行くのが見える。
「やだ…やだ…たすけて…ヌヴィレット……」
怖くて、苦しくて、ヌヴィレットの名前を呼んだ瞬間だった。
パキンという音がして、僕の周りに大きな凍りの柱が現れ、建物を壊した。
「や、やだ……とまって……とまって……いやぁぁぁ!!」
目の前のどんどん現れる大きな氷の柱を止めたいがどうしたらいいのかわからなくて、僕は涙を流しながら大声で叫ぶ事しか出来なかった。
*
その日ヌヴィレットはいつものように執務室で書類整理をしていた。
今日は裁判もなく平和な一日だと思ったその時だった。
外からバキバキという大きな音がし、大地が揺れた。
「何事だ!?」
ヌヴィレットは立ち上がり窓の外を見る。
するとフォンテーヌ邸の真ん中辺りに巨大な氷の柱が何本も出来ていた。
「あそこはフリーナの家が……」
「ヌヴィレット様大変です!!街中に氷の柱が現れて……」
「状況は窓からみえた。セドナ。すまないが民の無事を確認するようクロリンデと公爵殿に伝えて欲しい。私はフリーナ殿の所に行く」
「わ、わかりました。ヌヴィレット様、フリーナ様はご無事なのでしょうか?」
セドナは不安そうにヌヴィレットを見つめるので、彼女の頭を撫でる。
「氷の柱が現れた場所はフリーナ殿が暮らす家に近いがきっと無事だと思う。だが巻き込まれていないとも限らないため、確認をしてくる」
「わ、わかりました。お気を付けてください」
「ありがとう」
ヌヴィレットは頷き、パレ・メルモニアを駆け足で出て、フリーナの家に向かう。
フリーナの家にたどり着くと、そこは一面氷に覆われており建物があった場所には大きな氷の柱が無数に出来ていた。
住宅地だったと言っても誰も信じないほどに変わり果てた目の前の光景。フリーナは無事なのか…そればかり気になり、ヌヴィレットは氷の柱に触れる。
氷は水元素を帯びており、その元素反応はフリーナのものであることが読み取れた。
ということはこの柱はフリーナが作り出した可能性が高く、彼女がこの柱の向こうにいるということにな
ヌヴィレットは水元素の力を発現させて氷にぶつけ、氷を破壊する。
そして開いた空間から無数の柱が折り重なった空間の中に入って行く。
「フリーナ、何処にいる?フリーナ」
フリーナの名前を呼びながら、ヌヴィレットは氷の洞窟になっているこの空間の中へ中へと進み、そして中心部に到達した。
そこには背中から二枚の氷の翼を生やし、足元が凍りついたフリーナがいた。
その姿は本で見た氷の精霊のようであり、美しいとすら思えた。
「フリーナ」
「ん…」
ヌヴィレットが名前を呼ぶとフリーナは顔を上げる。
彼女の色の違う瞳からは涙が止め止めなく溢れ落ちており、フリーナの悲しみが分かる。
ヌヴィレットはフリーナに近づき、彼女の前に座り込む。
「フリーナ。なにがあった?君は大丈夫なのか?」
「ヌヴィレット……なんでここに……」
「大きな音がして外を見ると君の家の辺りから氷の柱が出ていた。君になにかあったのではと思い見に来た」
フリーナを刺激しないようにヌヴィレットが話すとフリーナは驚いたように周りを見渡し、そしてまた涙を零した。
「あ、あ、僕…どうしたら……こんなことして…僕…ぼく……」
フリーナはパニックになりかけており、ヌヴィレットはフリーナの肩に手を添える。
「大丈夫だ。壊れたものなら直せばいい。それより君の事が私は心配だ。フリーナ」
「僕のこと?」
「ああ」
ヌヴィレットはフリーナの頬に触れる。
今のフリーナの体はとても冷たく氷のようだ。
なぜ水の女王である彼女から冷気が出ているのかは分からないが、この状態は良くないと思ってしまう。
だだフリーナの背中にある大きな氷の翼をみの、今の彼女は氷の天使に見えてしまい、ヌヴィレットは頭を振る。
「君になにがあった?話して欲しい」
長年、演技していたフリーナに話せというのは酷だとは思うがそれでもヌヴィレットは今回こそはフリーナを助けたいと思う。
出ないとフリーナが遠くに行ってしまいそうな気がしたからだ。
「ふぇ…ひくっ……僕、摩耗…してるんだ」
フリーナは涙を流しながらゆっくりと話してくれる。彼女の気持ちに答えるかのように氷の翼がゆるりと動く。
「摩耗だと?君は人間だ。摩耗の危機はないはずだが……」
「僕もそう思ってた。けど、いきなり胸が痛くなってその後から頭が痛くて、怖い夢みて、元素がいきなり暴走して……そんな事が重なって、調べたら摩耗って……それでフォンテーヌから離れようとしたら…苦しくなって…冷たくなって……」
「もうそれ以上は話さなくていい」
ヌヴィレットはフリーナを抱きしめる。
これ以上、フリーナから何かを聞くのは酷だと思った。それほどまでに今のフリーナは痛々しい。
「ひくっ…えぐっ…ごめんなさい……ごめんなさい…ヌヴィレット…ごめん…なさい」
「君は悪くない。この氷も摩耗のせいだと思う。摩耗して元素が変化したものだろう。だから落ち着いて欲しい。そしたら元素の暴走は止まる」
「ほんと?」
「ああ。本当だ」
ヌヴィレットはフリーナの背中を撫でる。
フリーナはヌヴィレットの手に安心したのか、小さく息を吐く。
するとフリーナの背中から出ていた氷の翼が消え、周りの氷も溶けていく。
ヌヴィレットは彼女の頭を撫でてから、彼女の額にキスを落とす。
「ヌヴィレット…」
「もう大丈夫だ。後のことは私が処理をするので暫く眠っていて欲しい」
「え?あ……ヌヴィ…レット…なんで…」
ヌヴィレットは水元素の力でフリーナを眠りに落とす。
「これ以上、君に辛いものは見て欲しくない。フリーナ」
フリーナの意識が落ちたのを見て、そう呟き、ヌヴィレットは氷が溶けた周りを見る。
フリーナの部屋だった場所は建物が壊れ、何も無くなっており、前を見ると氷の柱が無数に立っている。
この場所から氷の柱が発生し、そして外の状態と照らし合わせると、この建物から一キロ範囲内は全ての建物がフリーナが出した氷の柱で倒壊している。
このようなものを今のフリーナが見れば心が耐えられない。
ヌヴィレットはそう思ったからこそ、フリーナを眠らせた。
ヌヴィレットはフリーナを抱き上げ、近くにいた難を逃れた人々に、被害を調べパレ・メルモニアまで持ってくるように話した。そして今日あったことは他言無用だといい、この場を離れたのだった。
パレ・メルモニアに戻ってきたヌヴィレットは長らく使われてはいないスイートルームに入りフリーナをベッドに下ろす。
手を握るとまだ冷たいが先程のような冷たさは無くなっていて安心できる。
しかしフリーナが摩耗を患っているのはかなり心配だ。
摩耗とはテイワットにいる長命種だと避けられない宿命でもあるがフリーナは人間。
長命種とは違い摩耗がもたらす被害に心が着いていかないと思われる。
もしヌヴィレットが行かなかったら…フリーナは最悪なことになっていた可能性すらある。
ヌヴィレットはフリーナの額にもう一度口付ける。
「私が君の摩耗をなんとかする」
ヌヴィレットにとってフリーナはこの五百年間で大切な存在となっていた。
人に興味が無かったヌヴィレットに人の良さを教え、歌劇の楽しさを教えたフリーナの事をいつの間にかヌヴィレットは尊敬と共に愛おしいと思い始めていた。
しかしこの気持ちをフリーナに伝えれば彼女を苦しめると思い話さなかった。だが、フリーナを失うかもしれないと思うと話は違ってくる。
「私は君を失いたくなどない」
そう言ってヌヴィレットはフリーナの唇にキスをし、フォンテーヌ邸の被害を知るために公務に一度戻ったのだった。
**
夜まで掛かったが被害状況などが粗方わかり、仕事を終えてヌヴィレットはスイートルームに戻ってきた。
フリーナはまだ眠っており、手を握れば暖かくなっている。
きっと明日の朝には目が覚めるだろう。
街の被害の方も建物が壊れたのみであり、幸い死者は出なかった。
氷の柱がゆっくりと出現した事が不幸中の幸いであり、フォンテーヌの住民は素早く避難ができた。
建物の方は直すことで話が着いたので良いが、フリーナの事はまだ解決していない。
摩耗というかなり難しい病を治す術が、テイワットにはないからだ。
だがヌヴィレットにはひとつだけフリーナを救う方法があると分かっている。
「フリーナすまない。だが私はどうしても君を失いたくなどない」
摩耗というのは長命種が起こすものだ。フリーナの場合、人が生きる時間より長く生きすぎたせいで摩耗が起こった。
しかしフリーナの年齢は五百歳程度。五百等、長命種にとっては若い方である。
だからこそ、救う方法も簡単に見つかった。
「君を私の眷属にしたらいい」
龍の眷属となれば長い時を生きれる。ヌヴィレットはメリュジーヌを眷属にしているが、眷属に縛りはなくてフリーナも眷属に出来る。
だがそれはまたフリーナに長い時を生かせるというものでもある。
五百年苦しんだ彼女に、また長い時を生きろというのは酷な話だ。しかしそれでも、たとえフリーナに怒られても、ヌヴィレットはフリーナを失うことに耐えきれないと思った。
ヌヴィレットはフリーナの服を脱がして、白い肌に赤い痕を付けてから、ショートパンツと下着を少し下ろし、下腹を撫でる。
「ん……」
フリーナは小さく唸るが目を覚ます気配はない。
「フリーナ。これで君は今日から私のものだ」
そう言ってヌヴィレットはフリーナの下腹部に自分の刻印を刻み込んだのだった。
**
フリーナside
目を覚ますと、ヌヴィレットが隣に居てくれた。
彼は僕の手に自分の手を絡めて、抱きしめてくれている。
少し冷たいけど暖かいヌヴィレットの体温に、胸がぎゅっとなって泣いてしまいそうになる。
「フリーナ殿。おはよう」
「おはようヌヴィレット…あの、僕、その……」
昨日のことを話したいが、上手く言葉に出来なくてヌヴィレットを見つめるとヌヴィレットは僕の頭を撫でてくれる。
とても優しい手付きで、気持ちがいい。
「フリーナ殿。昨日のことなら大丈夫だ。死者も居ない。壊れた建物もこちらが直すことで話は着いている」
「そ、そうなんだ。迷惑かけてごめんね」
「迷惑等とは思っていない。それより体調は大丈夫だろうか?」
「そうだね。あんな事があった後でこんなこと言うのは変だけど、今日はとても気分がいいんだ。頭痛もなくて……」
ヌヴィレットの言葉に素直に答えるとヌヴィレットは優しく微笑んでくれる。その笑みはとても優しい笑みで、見たことない表情で、ドクリと心臓が高なった。
「体調が悪くないのなら良かった。私の眷属にしたことで摩耗の症状が止まったのだろう。五百年等、長命種にとってはまだ幼い方だ」
「え?ヌヴィレット、僕を眷属にしたの!?」
ヌヴィレットの言葉に驚き、僕は大きな声を出してしまう。
だってヌヴィレットの眷属はメリュジーヌだけで、彼の眷属に僕がなる事は絶対にないと思っていたからだ。
するとヌヴィレットは僕の頬に手を添えて、頬を撫でる。
「私は君を失いたくなかった。君が嫌がるのは知っていたが、それでも無理だった。君を失うなど……」
ヌヴィレットに強く抱かれて、彼がどれほど怖かったのか分かる。
こんなの咎めることなど出来ない。
彼にとって別れなど何度もあることだ。それでも僕を失いたくないと思うってことは少しは自惚れてもいいのかな?
なんて思ってしまう。
「ヌヴィレット。僕こそごめんね…摩耗の事言わなくて……ましてや逃げようとして……」
「君は背負い込む癖がある。例え、人に話せなくとも私には話して欲しい。私は君を守りたいと思っているのだから…」
「だ、だって…話したら心配するから…」
「居なくなる方が大問題だ。それこそクロリンデやリオセスリ殿、リネくん、ナヴィアさんなども使って捜索することになるのだが?」
「それは困るし、大変なことになるね。これからはキミにはちゃんと話すよ。ヌヴィレット」
ヌヴィレットの声音からこれ以上隠し事をしたらヌヴィレットを怒らせてしまう。そう思った。
とはいえ眷属になってもひとつだけ僕には分からない問題がある。
「ヌヴィレット。僕、昨日元素が氷になったんだ」
僕の元素は水なのに何故か昨日は扱う元素が氷になっていた。その事が不思議でたまらない。
「その事なら私が調べるので安心して欲しい」
「迷惑じゃない?」
ヌヴィレットは僕の頭を撫でて、大丈夫だと言ってくれた。
それに例え僕が調べると言ってもの、ヌヴィレットは引かないだろう。
だからこそ僕はヌヴィレットに元素の事を頼み、安静に過ごすことにしたのだった。
**
フリーナに安静を言ってヌヴィレットは執務室で古い文献を読んでいた。
この本はテイワットの事が詳しく書かれてあるものであり、中には摩耗のこと。それと俗世の七執政の事が書かれてある。
今までヌヴィレットは俗世の七執政を詳しく知ろうとは思わなかった。
それは彼らの力は本来は龍のものであるためヌヴィレットとは敵対する関係だからだ。
旅人から聞いた話ではどの神も今は神の座を降りていると聞く。
フォンテーヌのように神座を壊した訳ではないというが、それでも神々は人となり暮らしており、人の生活を楽しんでいるらしい。
神々のその選択がいずれおこるか摩耗を防ぐ為なのかは分からないが、それでも人の世で生きたいと思う長命種は多いのだと、旅人の話を聞いた時、ヌヴィレは思った。
考えが時折脱線しながらも、文献を読みヌヴィレットはフリーナの元素が変わったことにひとつの答えを見いだした。
俗世の七執政の力は本来は龍の力。そのため天候を変えることが出来る神も存在はするのだという。
この事からフリーナの場合も彼女が知らないだけで、天候を変えれるほどの力があった可能性は高い。
水は何者にもなれる。その為、フリーナは水の温度を下げ、氷を出す。そのような力が神の力として存在していたのではないか?
彼女は力がないのではなくただ知らなく使えなかっただけでは無いだろうか?
それにフリーナの出自はあまりにも特殊である。
彼女の体はエゲリアがフォカロルスを人にした姿。
言わば神の器そのものだと言っていい。
フォカロルスは与えられた体から神格を抜いたと言っていた。
神としての神格を抜き取られた神の器の体に新たな人格が宿った。それがフリーナだ。
しかし幾ら神格を抜き取ったといえ、彼女のルーツは純水精霊であり、神になれるほど強い純水精霊を人にしたので神格を抜かれても器には神としての力が宿っていた可能性はある。
その力こそが水の温度を下げるものであればフリーナの元素が変わったことも納得がいくという答えにはなる。
そして彼女の背中からでていた氷の翼は、神の力を振るう時に出るものではないのだろうか?
ではなぜフリーナの力が暴走したかというと、これこそが摩耗なのだろう。
実際、摩耗というものはヌヴィレットにもいずれ襲ってくるものである。
摩耗とは長い時を生きる中で精神が擦り切れていき、自我が崩壊するというものだ。
だがそれはヌヴィレットの中では知識としてあるだけであり本来の症状がどのようなものかは分からなかった。
しかし昨日のフリーナの状態は力の制御は出来ておらず、自我はあれども、制御できない力に苦しんでいた。
あのままだと自我崩壊していた可能性は大いにあった。
ヌヴィレットは本を閉じ立ち上がる。
最悪な結末にならなくて良かった。け
それにフリーナはヌヴィレット眷属となった。
そのため彼女はヌヴィレットが死ぬ時共に死ぬようになっている。
だから、大丈夫だとヌヴィレットは思っている。
ヌヴィレットは執務室を後にし、スイートルームに向かう。
部屋に入るとフリーナは本を読んでいた。
「おかえり。ヌヴィレット。僕の力のこと分かった?」
「ああ。君の元素が氷になったのは神の力だと思う」
「神の力?けど僕はずっと力なんか無かったんだよ?」
ヌヴィレットはフリーナの頬を撫でる。フリーナの色の違う二種類の青の瞳が悲しげに揺れる。
「知らなかっただけなのかもしれない。しかしこの力は知って居ても使い場所が限られる。フリーナ。君の神の力は水の温度を下げるというものだ」
「水の温度を下げる?」
「ああ。だから昨日、君は氷を出した。水元素の力は神の目の力でありその力に神の力が共鳴した。そこに摩耗が重なり、氷の柱が出たというのが私の考えだ」
フリーナの瞳から涙が零れる。
いきなりこのような事を言われてフリーナはかなり辛いはずだ。
ヌヴィレットはフリーナを抱きしめる。
「君は悪くない。だから泣かないで欲しい」
「けど…けど…もし力があることを知ってたら……あんなことに…それに予言だって…」
「君はよくやった。今、フォンテーヌが平和なのはフリーナ。君のおかげだ」
「ヌヴィレット…」
ヌヴィレットの言葉にフリーナは小さく頷く。
「ありがとう。ヌヴィレット」
「君はそうして笑っているのが良く似合う」
ヌヴィレットはフリーナにキスをする。するとフリーナの顔が赤くなる。
まるで林檎のようだ
そう思いながら、ヌヴィレットはフリーナに耳元で愛を囁き、フリーナは赤い顔をしながら、ヌヴィレットに抱きついたのだった。
end