一緒に堕ちてあげるどうしても……キミがそういうのなら
ピチャン……
水の音が暗い世界に響いた。
真っ暗な世界。
ここは七不思議のリーダーであるフリーナの境界。
フリーナが手を上げると、境界に明かりが灯る。足元は水だが、目の前に広がるのはフリーナが生前過ごした学園の学び舎だ。
目の前の階段を上がり、教室のドアを開けると客人がいた。
黒い和服を着て、角には依代と似た札が巻かれている人物は教室に佇み、窓の外に映る夕焼けをみている。
『そっか……ここにまで来れるんだね……』
フリーナはそう思い、自分に背を向けて立っている人物、ヌヴィレットを見つめ、彼に声をかける。
「ヌヴィレット」
「フリーナ」
問いかけにヌヴィレットは振り返り、フリーナの名前を呼ぶ。
彼とは先日も会ったばかりだ。
フリーナは彼岸と此岸の境界に立つこの学園の七不思議として存在しており、ヌヴィレットは七不思議を暴走させ、七不思議の力の源である依代を壊しており、フリーナとは敵対関係となっている。
ヌヴィレットが何故そんなことをしているのかというと願いの為だ。
ヌヴィレットの願いは僕と此岸でまた同じ時を過ごすこと。
だが死んだ人が生き返るなんてあるわけがない。フリーナもヌヴィレットも亡くなっており、生き返ることは出来ない存在となっている。
だが、誰かがヌヴィレットに吹き込んだ。
七不思議の依代を全て壊せば彼の願いを叶えると……
何処の誰が、願いを叶えてやるなんて言ったのだろう?
そう思いながらフリーナはヌヴィレットを見て言葉を紡ぐ。
「ヌヴィレット。今日は何の用だい?」
「君の様子を見に来た」
「僕の境界まで?お優しい怪異だねキミ」
敵対しているのにわざわざ来るなんて、本当に僕のことが好きなのかな?
少しは自惚れていいのだろうか?
そう思う。
幾ら敵対関係でも、やはり恋心というものは中々止められないらしい。
「ヌヴィレット。まだ願いを叶えるために依代をこわすつもりなのかい?」
「私の願いは君と同じ時を此岸で生きること。その為ならなんだってする」
「そっか。それじゃあこのままキミが止まらないなら僕がまたキミを殺してあげるヌヴィレット」
フリーナは微笑みヌヴィレットに手を伸ばしヌヴィレットの頬を包み込む。
「ただ一人では逝かせないよ。僕ももう一度一緒に死んであげるよ。一緒に闇に堕ちてあげる」
フリーナの言葉にヌヴィレットは驚いたらしく、頬に添えられたフリーナの手を強く握った。
「そのような事は許さない」
低く冷たい声が教室内に響いた。
フリーナは小さく息を吐きヌヴィレットを見る。力強い眼差しで……
「キミの考えはわかった。交渉は決裂だ。僕はキミを止めるヌヴィレット。七不思議のリーダーとして、人を守る番人としてキミのしていることを阻止する」
堂々とした姿で話すフリーナの瞳に迷いは無く、彼女はどうやってもヌヴィレットを止めるとヌヴィレットにも伝わる。
ヌヴィレットはフリーナの手を離しフリーナを見る。その瞳はとても暗かった。
「君が私を止めるつもりでも、私は引かない。願いを叶えるために今と同じように動く。そして…君とまた同じ時を歩むという願いを叶えてみせる」
ヌヴィレットはそう言うと、フリーナの横を通り過ぎ闇の中に消えていく。
ヌヴィレットが消えた後、フリーナは自分の手を握りしめ、胸に当てる。
「ヌヴィレット。僕は全力でキミを止める。例えもう一度、昔と同じ過ちを犯してでも……」
まるで自分に言い聞かせるようにフリーナは呟いた。その瞬間、フリーナの瞳からは涙がこぼれ落ちる。
こぼれ落ちた涙を隠すように自分の境界の世界を真っ暗にする。
教室だった背景は暗い闇と変わり足元は水で覆われた。
フリーナは歩き出す。
暗い境界の中はフリーナの足音と水を踏む水音だけが響くのだった。
end……