青薔薇の祝福薔薇の話
『薔薇はね色と本数で花言葉が変わるんだ』
そういったのはフリーナだった。
あれは何時の話だっただろうか?
遠い昔の会話。彼女と出会って間もない頃だったと思う。
遠い昔の記憶など、ヌヴィレットはあまり覚えていないが、薔薇の花束の会話は鮮明に覚えている。
『薔薇はよく贈られる花だけど、薔薇の花言葉には色々な意味がある。だからね、人に贈る時はどんな花でも意味を調べた方がいいよ。きっと喜ばれる』
フリーナはそう言って微笑んだ。
あの時、ヌヴィレットは薔薇の花束など誰にも贈らないと思っていた。だから花言葉などは興味が無かった。
だがヌヴィレットは今となりフリーナに青い薔薇を十二本包んで貰い渡している。
「ヌヴィレット…これって……」
「私からの贈り物だ」
水の娘の公演はとても素晴らしかった。あの時、ヌヴィレットはフリーナに神の目を授けた。それは長年フォンテーヌを守り抜いた彼女に対する感謝という気持ちも入っていた。
それからは互いに会わないようになったが、先日フリーナから公演の招待状が届いた。
そこには彼女がもう一度舞台に上がることが書かれており、ヌヴィレットは素晴らしい舞台を見せてくれたお礼に花束を贈ることにした。
その時、かつてフリーナと話した言葉が頭を過ぎり、薔薇の花言葉を調べていき、自分の思いを花に乗せて伝えようと決め、青い薔薇を十二本贈ることに決めた。
フリーナは色の違う青い瞳でヌヴィレットを見つめる。
「ありがとうヌヴィレット。とても嬉しいよ」
「それは良かった。それで、フリーナ殿。君は薔薇の花言葉を知っているだろうか?」
ヌヴィレットの問いかけにフリーナの顔はほんのりと赤くなり、視線は青い薔薇に落ちる。
知っているという反応なのだろう。
博識な彼女の事だ。昔、ヌヴィレットに花言葉の話をしたのも花言葉を知っていたからこそだろう。
「私は君に出会えて良かったと思っている」
「ヌヴィレット」
「そしていつの間にか君をそのような目で見ていた」
「っ……」
フリーナの顔が赤く染る。
「その薔薇に込めた私の想いの返事はいつでもいい。君の気持ちが整うまで待とう。今日の公演はとても素晴らしかった」
ヌヴィレットはドアに向かって歩き出す。
告白の返事は急かしても意味が無いと思っているからだ。
フリーナの気持ちが整うまで待とうと最初から思い花束を渡した。
そしてドアノブに手をかけた時、外套が引っ張られた。
「フリーナ殿?」
「ヌヴィレット…その、あの、僕…」
フリーナの目は潤んでいる。
「あの、その、僕もキミと同じ気持ちだと言ったらキミは困らないかい?」
「困りはしない。告白をしたのだから困るはずがない」
ヌヴィレットはしゃがみ、フリーナと目線を合わせる。
「ヌヴィレット…」
フリーナはヌヴィレットを呼びそしてヌヴィレットに抱きつき、彼の耳元で囁く。
「僕も好きだよ。ヌヴィレット。青薔薇の花束をありがとう。だから離さないでね」
その言葉にヌヴィレットの胸は温かくなり、フリーナの唇にキスを贈ったのだった。
end