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    84_84_hs

    @84_84_hs

    端々。成人済 侑日/右日

    @ha8shi4ba
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    侑日/未来に向けてのお勉強

    時差12時間の勉強会 ブラジルに移住する。そう決めた侑さんはすぐさま俺にポルトガル語を教えてくれ!とスマホの画面越しから前のめりに言ってきた。「周りに翔陽くんしかポル語喋れるやつおらんし殆ど毎日喋っとるんやからこれ以上の先生おらんやん。はよ喋れるようになりたいから教えて」…確かに。こうして毎日のたわいないお喋りは俺のポルトガル語講座へと早変わりした。

     日本は夜の7時、ブラジルは朝の7時。今までもある程度時間に余裕があるこの時間にビデオ通話をしていて、俺が朝食を食べるかストレッチ、侑さんは夕食を食べるか本を読んだりしてのリラックスタイム。その時間を侑さんはポルトガル語の勉強に充てるらしい。地球の裏側でウンウン唸りながらシャーペンを握る姿は日常生活以外にバレーをしている所しか見ていなかった俺にはとても新鮮に写った。
     

    「侑さんって勉強できるんですか?」
    「できるわけないやん!高校もスカウトで入ったしテストで赤点取らんかったらバレーできたし全部ヤマカンでパスや。勉強なんかする時間あればバレーしたいやん?んで高校卒業したらすぐプロやもん。勉強のべの字もなかったわ。できる要素ないやろ?」
    「ないですね」

     そう言いながら烏野の日常も最初は変わらないものだったと懐かしさから笑ってしまう。


    「バレーバカはどこも皆同じだなー」
     座って体側を伸ばしていた俺は体制を変え腰を伸ばす。スマホから目線を外しグッと上を向く。人生を変えたあの冬を思い出す。俺も高校1年の春高までは飯のことや運動のバランスも何も考えずにバレーをしていた。しかし熱で途中退場した試合での恩師の言葉に気付かされた。生活の全部がバレーに繋がる。あの時の悔しさを繰り返さないために、食事・睡眠・運動。生活そのものを見直した。勉強はブラジルへ行くと決まってから本腰を入れて始めたが、確実にあの時の経験がなければ今ここにはいない。
     烏野でのあの冬のバレーボールは俺の人生の起点だった。



    「一生日本でバレーに関わるなんかをやっとると思っとったし関西弁以外いらんと思っとったわ。それがブラジル住む事になるんやから人生わからんもんやな」
    「……そうですねぇ」


     あの冬はこの人と出会った冬でもある。初対面で下手くそと言われ第一印象は最悪であったのに、紆余曲折あり結婚を計画し一緒にブラジルで住む未来、という本当に「人生わからんもん」だなと思う。

     
    「というかそんなに急いで勉強しなくてもいいんじゃないですか?まだこっち来るまで時間はあるし、こっち来てから勉強しても全然間に合うと思いますよ」
    「せやなぁ」
    「なんでそんなに急いでるんですか。今いちばん忙しい時期だと思うんですけど体調崩さないですか?大丈夫ですか?」
    「おかんみたいなこと言うやん」
     カラカラと笑い、ペンを回しながら楽しそうにこちらを見ている。これだけ喋っててちゃんと頭に入っているのか、いやそんなに入ってないだろうな、侑さんを前にするとつい話しかけてしまう俺も俺だけど。多分だけどこの人はきっと通話が終わってもひとりで勉強している。その姿を見てはいないし聞いてもいないが、裏での努力を惜しまない人だと知っている。

     ここまでやる原動力はなんだろう。引退1年前の時期は普通の練習も試合もある上、きっとインタビューや取材なども裏では行われている。めちゃくちゃ忙しいんじゃないか。ブラジルに来ても俺がいるし、こっちにきてもある程度困らないんだと思うんだけどなぁ。なんでかなぁ…と思わず口に出ていたらしい。

    「そらあれやん、ほら。向こう行った時に翔陽くんの前でペラペラのポル語喋れた方がかっこええやろ?」ペンでこちらを指しながらニヤリと笑う。
    「ぶっ…はは!!なにそれそんだけの理由?」
    「それ以上のもんないやろ!」
    「もっとあるでしょ」
    「ないわ!」

     ほんと面白い人だな。見栄を張るにしてももうちょっとなんかあるだろ、とストレッチそっちのけで笑いが止まらなくなる。
     笑いすぎやん…と不服そうな顔をしている侑さんを横目にふと時計を見ると話し始めてから1時間近く経っていた。そろそろ出る時間だ。


    「あー笑った。そろそろ行かないと」
    「もうそんな時間か、気をつけていってら」
    「いってきます!おやすみなさい!」
     
     どちらからともなく重なるまた明日。時差12時間の勉強会。
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