千日紅「ほら、これ。飴ちゃんいる?」
揺れるバスの中、喉がいがらっぽいかも。なんて言うと隣に座る男のポケットから、カバンから、ポーチから、いろんな所から言葉と共にまぁるい飴ちゃんが出てくる。
「関西の人ってなんで飴ちゃん絶対持ってるんですか?」
「そら毎日がハロウィンやからな。飴ちゃん持っとかんとイタズラされてまうねん」
「え!マジスか!?」
「んなわけないやん!ボケを信じんといて!?」
関西ムズカシイな…とギャイギャイと飛び交う賑やかな声を宥めながら停るバスを降りる。この人と一緒の練習も少しだけ慣れ始めた頃。
「君、迷子?飴ちゃんいる?」
なんか昔こんな事をどこかで言われた気がする。今度は声をかける側になって泣く子の前にしゃがむ。
俺のポケットから出てくるまぁるい飴ちゃん。
「翔陽くんも飴ちゃん持ち始めたん?関西に染まったなぁ」
後ろから付いてきた侑さんが顔を覗かす。
「どっちかというと侑さんの影響ですけどね」なんだか癪なので小声でヒトコト。飴ちゃんを見る子供は泣き止んだ。
「え!?なんて!?」
「迷子センター行ってくるんで大人しく待っててください。ウロウロして迷子にならないでくださいね!」
「翔陽くんもっかい言って!もっと大声で!」
「うるさいですよ!ついてこないで!」
ポケットの中には誰の影響か、毎日陣取るまぁるい飴玉。隣にはいつの間にか毎日陣取るおっきな関西人。