4.好奇の視線(加筆済)飲みと称した出会いの場に付き合うことになった慕情ちゃん　

風信さんには「友人と飲みに行く」と店の場所だけ伝えて
渋々参加するがお酒に弱いのと周りの空気にあてられてぼんやりとしてきたので席を外して店の外へ頭を冷やしに出ると迎えに来たらしい風信さんと遭遇してしまう
「……もう帰る。そこで待っていろ」と告げて踵を返すが
運悪く様子を見にきた同席の女性に声をかけられるところを見られてしまう
慌てて店をあとにして風信さんのところに戻るけれど内心焦りすぎて目を合わせられない慕情ちゃん
風信さんは黙ったままなにも言わない　
その沈黙が気まずくてなにか切り出したいのに言葉が出てこない　
風信さんは無言で先を行ってしまう　
「風信！」
何度も名前を呼んだ　それでも振り向くことのない風信さんの背中が冷たく映った
いつも歩幅を合わせてくれていたのだと知る
離れていくその背中が遠いことがひどく悲しくて悔しかった

帰宅して玄関にあがるなり慕情ちゃんを床に押し倒して馬乗りになる風信さん　光のない瞳に怯んでしまう　必死に絞り出した言葉に賭けた
「……私を疑うのか」「違う」いつもよりずっと低い声だった　
即答だったことに安心しつつ風信さんがなにを考えているのか読めずに思考を巡らせる

「俺は」
ぽつり、とこぼれた風信さんの声は震えていた
「……」
「お前が好奇の目に晒されてることが気に入らない」
「っ、」
「楽しかったか？お前はさぞかし引く手数多だろうな」
自嘲的にそして苦しそうに紡がれた言葉で風信さんが自身に向ける感情をはじめて知る
「……楽しくなどなかった。私は所詮ただの人数合わせだ」
投げやりだった　呆れられても仕方がないことをしてしまったと自覚した
「……」
「それでも、お前を傷つけたことに変わりはない。悪かった、風信」
その瞳が揺れる　泣きそうに笑うからつられて泣きそうになるけれど堪える慕情ちゃん　泣きたいのは風信のほうだろうとその頬に手を添える
「私は、お前がそこまで私のことを考えていると、知らなかった」
「……知らなかったのなら、教えてやる」
ひょいと担がれて降ろされた途端に唇を奪われ深くて長い口づけを交わす　
苦しくなって涙目で見上げれば満足そうに風信さんが微笑むので安堵する
荒々しく髪を解いてシャツを脱ぎ捨てる仕草に見惚れてしまう
伸ばされた手に、するりと髪を解かれてふたりして沈んでいく
繋がれた手が熱い　
絡めとられた指から感じてしまい身じろぎすると意地悪そうに風信さんが笑う
小さく睨みつけるとさらに指先まで触れられる
真剣な視線に射抜かれて震えた
熱情をはらんだ瞳には逆らえない


完