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    mawata_no8

    @mawata_no8

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    mawata_no8

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    鳴海弦の「最強」について言葉にしたいがための話。このあと保鳴になるかもしれないし恋人未満のままかもしれない。体調不良は絶対出てくるよ。

    片翼 プロローグ 強くありたいと思う。刀というアイデンティティを、誰にも批難されず、持ち続けるために。どんなときだって、亜白隊長に繋げることができる、副官であるために。保科は「最強」の名が欲しいわけではない。だが、強くありたいと思うたびに、目のまえに現れるのは、いつだって「最強」と謳われる人間だった。西方師団で隊長を務める兄と、有明りんかい基地で第一部隊の隊長を務める鳴海弦だ。


    「お前か。亜白が西方師団から引き抜いてきた、刀のスペシャリストだとかいうやつは」
     東に来たばかりのころ、本部の見学をしているときだった。すれ違いざまに話しかけてきた、身長も年齢もそう変わらないくらいの男に上から下まで、全身を観察される。まるで、この基地を歩くのに相応しい人間かどうか見極めているようだった。
    「初めまして。保科宗四郎といいます。あなたの言う通り、亜白隊長のお声があってこちらに異動してきました」
     保科は、当たり障りのない挨拶をしながら、この人、隊服こそ着ているが、目元を覆うほどの前髪が鬱陶しそうだし、なんなら少しだらしないなと見たままの感想を浮かべた。
    「初めましてだぁ? お前、鳴海弦サマを知らないのか、まさか」
    「鳴海、これ以上邪魔をするな」
     保科の挨拶に、目の前の男が信じられないというように声を大きくした。同時に、男の隣に控えていた大柄の隊員が、鳴海と呼んだ男の首根っこを掴む。そして、ぐぇ、と大袈裟にしかめ面をした鳴海を掴んだまま、保科に向きなおった。
    「なるみ、げん……」
     保科が小さな声で復唱する。その声は大柄な男のため息でかき消された。
    「うるさくしてすまない。基地だとどうにもだらしなくて他の者に示しがつかないんだ。こいつは」
    「降ろせ長谷川! ……オイ、お前。保科と言っていたな。覚えておけ、ボクは第一部隊の隊長であり、日本最強の対怪獣戦力、鳴海弦だ」
     長谷川に掴まれたままなのでかなり滑稽ではあるが、ぐいと前髪を上げた姿には確かに見覚えがあった。西でも名前は聞いていたし、度々紙面を飾っていた、あの。
    「東の、鳴海弦……?」
    「……西の保科宗一郎とかボクは知らないからな」
    「いや、知っとるやないか」
     不機嫌そうに兄の名前を口に出した鳴海に、思わずタメ口で返してしまったが、こんなふうに会えたことを驚いてしまうくらいには、誰もが名を知っている防衛隊員なのだ。すとん、と再び地面に降ろされた鳴海が、ふと「あ!? 保科!?」とこれまた無遠慮に保科を指差す。また、前髪が鳴海の目元を覆っていた。長谷川が保科の後ろに控えていた案内役の隊員に「すまない」とジェスチャーを送る。第一部隊の日常が垣間見えた気がした。
    「保科宗一郎の弟か、もしかして」
    「……そうですよ。兄とあなたの関係がどうなのかは知りませんが、どうかお手柔らかに」
     東に来てまで、兄貴の名前か。もうええて。西で鳴海の名前を聞いていたように、東では兄の名が知れているなんてこと、容易に想像できるのに、実際にそんな場面に居合わせるとなると、気に障るものだ。保科は心の内で悪態をつく。流石にもう慣れたので、内心のモヤを表情に出すことなく、笑いかけてやる。自分を差した指は、やんわりと退けてやったが。ふぅん……と少し間を置いて、鳴海はニヤ、と楽しそうに口角を上げた。前髪で隠れているはずの瞳から、ピリ、と電気が走ったような、そんな幻覚が見えた。
    「ボクは保科宗一郎の弟だからって贔屓はしてやらないからな。第一部隊は実力が全てだ。せいぜい喰らいつけ、保科宗四郎。いつだって振り落としてやる」
    「……っ!」
     前髪の奥から、まっすぐな視線が保科を射抜く。「保科宗一郎の弟」ではなく、ひとりの隊員として保科宗四郎と名を呼んだ声が、じんと保科の身体に響いた。亜白に手を差し伸べられたあの日とは、また違った刺激が心臓を刺す。崩れそうになる表情を必死に抑えて、自然と上がった手で、敬礼をする。
    「僕は第一部隊所属やないので、直属の上司ではない鳴海隊長にそんな権限があるかは知りませんが、頑張らせてもらいます」
     敬礼をしているくせになんだか生意気な言い方になってしまった、と言ってから気がつく。亜白隊長のためにここへ来たという気持ちと、どうしてかこの一瞬で鳴海という人間と、もっと関わりたいと思ってしまった気持ちを整理できないままに紡いだ言葉だった。
    「……長谷川。ボク、こいつのこと既にちょっと嫌いなんだが」
    「初対面で無礼をコンプリートしたお前に何もいう権利はないし、多分お前もこの数分でちょっと嫌われている」
     また保科を指差して、長谷川を見上げてそうこぼした鳴海に、保科は耐えきれず笑いを漏らした。
    「あはは! 鳴海隊長、おもろいお人やなぁ!」
     目尻に浮かんだ涙を拭って、保科も長谷川を見上げた。
    「長谷川、さん? 少なくとも僕は鳴海隊長のこと嫌いやと思ってないですよ」
     むしろ、気になっています。とまでは口に出さなかったが、長谷川の隣で呆けている鳴海を視界の端に見つけて、言ってやればよかったかと意地悪な心が疼いた。
     東で出会った、最強の男。保科は、西で最強と言われ、保科家の完成形と言われた兄に散々囚われてきたのに、東では別の最強に心を奪われたことを自覚した。しかし、この「最強」は、保科を苦しめない。理由がなんなのか、まだはっきりとは保科自身も言葉にできないが、東に来てよかった。初日からそう思えたことに、密かに笑みを漏らした。そうして、鳴海は長谷川に引きずられてその場を退場し、保科はやっと本来の目的である本部見学に戻った。
    「鳴海隊長……」
     保科は、ちら、と引きずられていく鳴海を見やった。

     ──ブツン、となにかが途切れる音がした。突如、音もなく全てが暗闇に包まれる。鳴海の姿も見えなくなり、ビーッビーッと警告音が鳴り響いた。
    「鳴海隊長、駆動限界!! これ以上は危険です!!」
    「鳴海隊長、応答を!!」
    「聞こえますか!?」
     オペレーターの悲痛な叫びが行き交う中、肝心の鳴海の声は聞こえない。ただ、荒い息遣いと、ときおり血を吐いたかのような、ごぼ、という音が聞こえるだけだ。
    「な、鳴海隊長……?」
     保科は、暗闇に手を伸ばす。どれだけ広がっているかも分からない暗闇に伸ばす手は、あまりに無力だった。その手は当たり前に、何も掴むことはできない。焦りばかりが前に出て、じわ、と汗が滲んだとき。
    「……はっ、はぁ」
     自分の声が聞こえた。瞼を上げれば、山積みの書類が目に入る。
    「え、なに? 夢……?」
     保科は、ゆっくりと起き上がった。作業用のデスクで、椅子に座ったままいつのまにか寝落ちしていたらしかった。書類が足元にも数枚、散らばっている。つぅ、とこめかみから垂れる汗に、動揺が抑えきれない。とりあえず、足元の書類とデスク上の書類をかき集めていると、ドアがノックされる。
    「どうぞ……?」
     そもそも何時だ、今は。壁際の時計に目を滑らせれば、時計の針は23時を指していた。デスクワークに手をつけたのは20時からだったはずだ。いつから眠りに落ちていたんだろうか。
    「保科。またデスクワークを詰め込んでいたな。休めと言っておいたのに」
    「まぁ、そう言わんといてください。なにかしてた方が落ち着くんです。それに、さっきまで寝てたみたいです」
     訪ねてきたのは亜白だった。つかつかと保科に歩み寄った亜白が、躊躇なく保科の前髪をめくった。不意打ちの行動に、さすがの保科もたじろぐ。
    「えっ、亜白隊長」
    「顔色が悪い。その言い分だと寝落ちでもしていたんだろう。今日はもう帰れ。隊長命令だ」
    「隊長命令は、ずるいですよ……」
    「こうでも言わないとお前は休まないからだ」
     触れたついでのように、くしゃ、と保科の前髪を混ぜた亜白が、保科のデスクに資料を置いた。部屋を訪れたのはこれを渡すのが目的だったのだろう。表紙から見るに、今日の昼頃、本部で行われていた会議の資料らしい。何気なく一枚めくれば、第一部隊の討伐報告から始まっており、鳴海の名前が目に入った。
    「……うわ」
     先ほど見た、懐かしさと、得体の知れない恐怖を同時に味わった夢が、眼前に蘇る。意識せずこぼれた声に、亜白がどうした?と保科に目で問いかけた。心に渦まくモヤを悟られないよう、慎重に、でも無性に確認したくて、保科は亜白と目を合わせる。
    「……鳴海隊長って、今日の会議に出席してました?」
    「してたぞ。第一部隊の討伐報告のときは珍しく真面目な顔をしていた。というか、自慢げだったな」
     亜白がその時の鳴海の顔を思い出したのか、少しだけ表情を緩めた。保科も、亜白の表情を見て苦笑する。
    「なんやそれ。いつも真面目にせぇよって感じですね」
    「私も本当にそう思う」
    「ふふ、ほんま亜白隊長お疲れさまです。僕も資料だけ片したら帰りますから、隊長も早めに休んでください」
     保科は、軽く亜白の背を押した。まだ心配そうな顔をする亜白に「帰ったら連絡しますから!」と冗談で言えば、「そうしてくれ」と真顔で返され、親子だか恋人だか、よくわからない約束を交わすことになった。部屋の外に消える、凛とした背中を見送る。
    「……なに、あの夢」
     書類を整理しながら、保科はつぶやいた。鳴海弦という最強に心惹かれたあの日の場面と、その鳴海弦が窮地に陥っているのであろう場面を、同時に味わった夢。脳裏に浮かぶ、鳴海の背中に霧がかかっていく。また、見えなくなっていく。警告音が鳴る。
    「違う、あの人は、最強やねん」
     霧を払いのけるように、ぶんぶんと頭を振った。

     日本最強の対怪獣戦力、鳴海弦

     これが世間が鳴海に向ける評価であり、揺るぎない事実だ。
    「そうやろ? 鳴海隊長」
     保科の、書類を握る手に力が入った。
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