過眠鳴供養2「鳴海。おい、鳴海、起きろ!」
会議室の1番前で寝こけている鳴海を、長谷川が大袈裟に揺さぶる。だが、一向に起きる気配がなく、意識を失っているんじゃないかと心配になるレベルだ。腕の隙間から顔をのぞけば、眉間に深い皺が寄っていた。長谷川が言葉に詰まっていると、鳴海の伏せたまつ毛が、ふるりと揺れて、薄く目が開かれる。
「……? はせがわ……?」
呂律は回っておらず、まだ焦点の定まらない瞳が長谷川を見上げた。
「起きたか」
「……会議室? 会議はもう終わったのか?」
「とうに終わった。お前がいつまでも戻らないから俺が探し回るくらいの時間は経っている」
「嘘だ」
「嘘じゃない」
信じられないという顔をする鳴海に、時計を指さしてやる。会議の終了予定時刻から1時間は経過していた。
「ふあ……」
目をこする鳴海が、大きなあくびをこぼした。長谷川は、そのあくびを見届けてから、鳴海をひっぱりあげる。このままではまた、ここで眠りに落ちてしまいそうだった。
「鳴海、最近ちゃんと寝ているか? 徹夜でゲームなんてしている場合ではないぞ」
「寝てるさ。そりゃもう、十分すぎるくらいに」
されるがまま長谷川に担がれた鳴海は、遠慮なく長谷川に体重を預ける。半ば引きずられるようにして会議室を進む。
「本当か? この会議も途中で寝落ちしたまま起きなかったんだろう。そろそろ伊丹長官から注意されるぞ。ただでさえ今日は外部の人間が来る会議だったのに」
小言モードに入った長谷川に、うんうんと聞いているのかいないのか分からない返事が返ってくる。
「この前は来栖が鳴海に指示を送ったときに返事が無かったと困っていた。会話が飛んでいると」
「……いくらボクでもオペレーターに返事くらいする。多分、本当に聞こえてなかったんだ」
ずるずると基地内の廊下を引きずられながら、鳴海はふと、昨日の記憶がほとんどないことを思い出した。おそるおそる、長谷川に問う。
「長谷川、そういえば昨日のボクは討伐後ここに帰ってからなにをしていた?」
そのとき、ぴた、と長谷川の足が止まった。不思議に思って前を向けば、第一部隊のオペレーター2人が廊下の奥で話しているのが見えた。向こうはまだこちらに気づいていないらしい。
「最近の鳴海隊長、オペレーションルームからの指示、めちゃくちゃ無視してこないか?」
「分かる。鳴海隊長は実力あるからそれでも突破できるんだけど、これだと連携の意味がないっていうか……」
「なんていうか、寝不足な感じするよな。たまにデカいあくび聞こえてくるし。なんか、どうなんだろうあれは」
「多忙なことは分かってる、けど……」
鳴海が、は、と短く息を吐く。長谷川はちらりと鳴海の様子を伺ってから、トン、と靴音を鳴らして再び歩き出した。足音に気づいたオペレーター2人は、いそいそと研究室に戻っていった。
「昨日の討伐後の話だったな」
カツカツと鳴る足音が、鳴海の頭に響いていた。
「倒れ込むように執務室に戻って、今日の朝まで寝ていた」
「う、嘘だ」
「嘘じゃない。何度も言わせるな、さっきから」