花影 パーティーは好き。だけど、終わった後は少し寂しくなる。お祭りが終わる時みたい。
ベッドの中に包まって、楽しいことを思い返す。
美味しかったケーキと紅茶。沢山のオードブル。シャルルさんじゃなくてジャックさんがいる、きらきらした夢みたいな初めての誕生日。とても楽しいパーティだった。──シャルルさんがいないのは、少しだけ寂しいけど。
それでもずぶずぶって沈んでいくみたいに、考えをまとめようと頭が動く。何時もより静かだと思うからなのかな。どうなんだろう。暗くて冷たい底無しの海が、口を広げて待っている。楽しい明日のことを祈ってから、海に飛び込んだ。
欲しいものとか、自分のことはちゃんと言える。でも、本当のことも言ってない。多分これ、無頭さんは気付いてる。気付いてて言わない。だから、本当に叶わなくなるまで私も言わない。
実は無頭さんにも、シャルルさんにも、言ってないことがある。ジャックさんは勿論知らない。
桜は私も好きだけど、もっと桜が好きだった人がいるんだってこと。──私の、たった一人のお姉ちゃん。
「また会えたら」
「また会えたら、その時はまた、一緒に桜を見に行こう。家族みんなで見に行った、あの場所に」
──知ってる。そんな約束、叶わないってことくらい。
本気でも、心の底からでも、どんなに願っても叶わないお願いは沢山あるから。行かないで、と言ったって、行く人は行ってしまうみたいに。
さよならを言いたくなくて、さよならの代わりに、約束を置いていったお姉ちゃん。
ずっと先の話に繋がるように。何時かまた会えるんだと信じたかったのは、きっと、私よりお姉ちゃんの方だと思う。
お姉ちゃんがどれだけ私を好きでいてくれたかなんて、全部は分かってないけど分かってる。
夜中、私が寝た後にお姉ちゃんがどこに行ってたのかだとか。お姉ちゃんも、お姉ちゃんの好きだった人も、煙草なんて吸わないのに煙草の匂いがしていた理由とか。それを一つ一つ組み合わせて答えが出来上がる度に、泣きたい気持ちになる。
そんなことしないで良かったんだよ。他の皆みたいに欲しいものなんて要らなかったよ。今だってそうなんだよ。
お姉ちゃんの好きな人との時間も、私との時間も、自分の為に学ぶための時間も。あの時は我儘も言ったけど、今は全部、頑張ってたって知ってるよ。でも言ってなかったらきっと、後悔してたと思う。
言ったって辛いし、言わなくても辛い。生きるのも、辛いこと。
それでも明日は来るし、立ち止まってるだけだと何も見えない。そんな風に足掻く事なんて辞めていいですよ、なんて言われたら、私は怒る。
目を閉じて、耳を塞いで、何も言わないで。それが楽だって分かってるけど、私は前に進みたい。
なんでもないって笑えることじゃない。だけど、悪い明日を想像するより、より良い明日を想像して、そうあって欲しいと走った方がずっと楽しい気がするから。──シャルル探偵事務所ってそんなところがある気がする。え、ない? そんなあ。
とりあえず、頑張った先には何も無くても。振り返ってみて「よかった」と思えたなら。それだけでいいかな、と考えてみたり。「一番」が欲しいとか、そういうのはもっとずっと後でいい。
何せ私、今はお義兄ちゃん達がいるので。
──そんなことをくるくると考えているうちに、思考の海の中で、もっと深いところに落ちていくみたいな感覚がする。そしてそのまま、深海から繋がっている夢の世界を朝まで探索しに行く。──「わたし」の居ない、私の中を。