こんばんは、シュラウド先輩「先輩!イデア先輩!」
茶髪に金が混じるその髪を太陽に照らし輝く君。黒い瞳が此方を見る。
「……ユウ」
そう声を掛けると八重歯が特徴的な人懐っこい笑顔を向けてきてーー
……アラーム音に起こされムクリと起きた。
「さいっあく」
僕のバグは日に日に大きく、着実に日常を侵略していっている。
「おはよう、監督生氏」
「おはようございます!イデア先輩」
タブレットを見ると嬉しそうに挨拶をする監督生氏は最近それ以外の話をするようになった。
やれ魔法史のここが分からない、やれ錬金術のこれの特徴が分かりにくい。
それはこうだと教える時もあれば「頑張ってくだしあww」と流す時もある。
「いち異世界人を助けると思って!」
「異世界人君しかおらぬが?それに計算問題はそっちにもあったんでしょ?なら拙者の手など過剰戦力もいい所」
エース氏と会うまでの数分の会話。
「先輩のケチ!」
「フヒヒ、すみませんねぇww」
接触回数が増え、動悸も、疲労も倍増。なのに。
「あ、じゃあ先輩、またあした」
「……アッス」
居心地が良くて困る。
これを2人に言ったところで恋だなんだと返ってくるだろう。そんなものではない!断じて!
「じゃあなんだ。ってなるけど」
友人?友人がいた事がないから分からないけど友人って写真が欲しいって思うもの?
タブレットの高性能カメラで撮った写真がそろそろ10の位に到達する。
「でも陽キャはよく写真を配ってる生き物だし……普通……か?」
後の可能性は推し。
「あれを……?あまりにも推し変しすぎでは」
茶髪が陽の光に照らされて煌めくのが眩しいなとか、挨拶する度にニパッと笑うのも可愛いな……とは思わなくもないけど。
「でも男〜」
机に突っ伏して唸り声をあげる。
「いや、まぁ別に?男が男を推すとかありますし?変とかそんなことはありませぬが?拙者今まで好みのキャラは甘々お姉さんだったし?ちょーーっと今までと違うなーーって……いや、何向けの言い訳だよ」
えちえちお姉さんキャラが好きだったのに元気な男が推しになった?
「推し?おし……うーん?」
近いけど、その言葉じゃない気がする。でもこれに名前を付けてはいけないんじゃないか。
だってこれは……
「答えの出ないものに悩むのなんて時間の無駄!素材回収行きますか!!」
トレインの授業風景がながれる画面横に、ゲームタイトルが映し出された。
パッと見た時間がそろそろ監督生氏が出てくる時間で。ストローを刺したエネルギードリンクを啜ると音が鳴った。
「……確か新作のエネルギードリンクが出てたっけ」
そんなもの明日買えばいい。
「冷蔵庫の中の在庫も減ってる……」
インターネットで何時も発注してるじゃないか。
「この買い出しはしょうがない」
そう、言い訳をしないとあのベンチへ向かえない。
「この感情はなんでもない……はずなのに」
ベンチへ向かうと案の定いて。この子はちゃんと寝ている日があるのだろうかと疑問に思ってしまう。
連絡が取れればこんな事しなくて済むのに。
過ぎった考えを振り払う。そんな事をしてしまったら僕とあの子の関係が異質同士、から友達のようなものになってしまう。
「そうしたら」
そうしたら、深くまで話して貰えなくなってしまう。
「あ!シュラウド先輩!」
ベンチに座っていた子が目を輝かせ立ち上がったと思ったら教えていない名を呼ばれ目を見開く。
「えっ、なっ、なんで名前」
「あ……えっと……弟さんに会いまして、その時知りまして」
オルトがフルネームで挨拶をしたから、兄弟である僕がシュラウドで、先輩だと確定したのか。
「嫌……でしたか?」
……まぁ、正直シュラウドの名は好きではない。けど、今は好き嫌いよりも重大な事がある。
「えっと……その……わ、分かっちゃった?」
シュラウドが分かれば僕がイデアだとバレてしまうのではないか。そうしたら、朝、どんな顔をして会えば良いんだ!
……タブレットだから顔ないんですけどね。
「?なんの事っすか?」
おずおずと伺うも監督生氏は頭を傾げ、なんの事だか分かっていない様だ。
……いや!分かれよ!!
シュラウドが分かったら行けるだろ!その解に!!
「い、いや。分からなかったら良いんだ……フヒ。……にしても、この身長で先輩だって分からなかった?ぼ、僕、みんなより背が高いと思うんだけど……」
「え?」
疑問に思っているものだから猫背を正してみると目を大きくして。
「わ!先輩って大きいんっすね!!」
なんて幼い子のように驚いた。
「そうですぞ〜高身長でお兄ちゃんなんで。せっ……僕」
可愛い反応をするのが昔を思い出し、頭を撫でる。
あ、この子の髪、思ったよりサラサラでずっと撫でていたくなる髪質してる。
「あ、あの……シュラウド先輩……」
「ん?……あ!ご、ごごごめん!!つい撫でたくなってっい、いや!コレも駄目か!えっと、その。と、とにかくごめん!!」
自分のしてる事にはたと気が付き、手を引っ込める。
「だ、大丈夫……っす。その……き、気持ちよかったので」
その反応何!?
なんて返せばいいの!?
「え……あ……そう。えっと……」
「あっ!き、今日エースがですね!?」
戸惑う僕に気を利かせてくれたのか、監督生氏が話し出す。
ここで話してくれるのはどんな悪口を言われたか、それをどう返せば良かったのか。野良猫とルチウスたんがお話をしていた、動物言語を学ぶと言ってる事が分かるよ。
など、一般的に気さくと呼ばれる会話をしている。
タブレットの時とは違う……と思う。
最初が最初だからか、先輩としての拙者と、親近感からの僕。口調も砕けた関係……この差に引っかかっている自分がいる。
「……シュラウド先輩?」
「……君はよくやれている……んじゃないかな……」
今度は自分の意思で頭を撫でる。
「えへへ」
到底男とは思えない愛らしい顔をこちらに向け、嬉しそうに笑う。
このまま時間が止まれば良いとすら思った。
「勉強会?」
「そう。……2人きりになるけど」
昼休み。珍しく1人のところを捕まえ提案をすると、タブレットのインカメに不思議そうな顔が映る。
「って事はとうとう生身が見られるんですか!?」
「ヒヒ、残念でした〜。このまま図書館で勉強だよ」
せっかく本体が見られると思ったのに、残念がる監督生氏に見てるんだよなぁと思いながらシャッターを切る。
「……で、どうするの?勉強、するの?しないの?」
「し、します!勉強会、させて下さい!イデア先輩!」
「うるさ。……ま、君の脳みそがどの位かお手並み拝見ですなww」
勝負です!意気揚々と指を指してくる監督生氏にいや、勝負じゃないんで、コレ。と言おうか迷っている内に仲間内へ帰って行ってしまった。
昼は先輩と後輩という事を見せ付けられて嫌だなぁ。なんて重い溜息を吐く。
「マジで!?」
彼の友達の声に顔を上げ、近くへタブレットを移動させる。
「ちょっ……声!」
「いや、だって驚くだろ?お前に好きなやつが出来た、なんて」
「……は?」
幸運にもタブレットはミュート状態だった。