2/29で止まってる 息を吐けば、水蒸気で目の前が白く濁る。むき出しの頬を纏う空気は氷のように冷たくて、薄いピンク色のチークを塗った頬が、ヒリヒリとリンゴのように真っ赤に染め上がる。むき出しの指先はひどく冷え切っていて、悴んでうまく動かすことができなかった。手袋をつけなさいとよく言われるけれど、手を覆われている感覚がどうにも苦手だったのだ。
駅から歩き続けて十分ほど。ダウンコートは着ているものの、寒がりの私はあまりの寒さに耐えきれなくなっていた私は、ようやっと見えてきたアルバイト先の看板にホッと胸を撫で下ろした。寒い寒いと小声で呟きながら店の扉を開ければ、狭い箱の中で詰まっていた暖気が一気に私の元に吹き込んで包み込んでいく。ああ、極楽だ。ひとつ深呼吸をすれば、体の中から温まっていく。
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