膝さに 池に睡蓮の花が咲いていた。水面に浮かぶように真っ赤な花弁を広げるその姿は、なんとも優美であった。
ほとりにしゃがむと、水面が揺れた。おそらく鯉が泳いだのだろう。それに呼応して睡蓮の花も揺れて、水滴が滑り落ちていった。
不意に背後から声をかけられる。振り返れば小脇に赤く染まった麻袋を抱えた膝丸が私を見下ろしていた。
「それは、種ですか?」
「ああ、新しく仕入れてきた」
そう言って、膝丸はサッカーボールほどの大きさの麻袋を池の中に放り投げる。ぷかぷかと浮かんでいたそれは、しばらくしてから引っ張られるようにして池の底に沈んでいった。
「また睡蓮の花が咲いたら、もう池の水面が見えなくなっちゃいそう」
「不満か?ならばいくつか花を切り落として、水を張った鉢の中に入れかえてもいいが」
「いいえ、ただ睡蓮で赤一面になりそうだなぁって思ったんです。でも鉢の中に浮かべるのもいいかも。金魚鉢ちょうど空いちゃったし」
「……すまなかった」
「いいですよ。私もやったことあるから」
つい先日、膝丸が私の飼っている金魚の水替えをしようとしたところ、誤って金魚まで排水溝に流してしまったらしい。綺麗に洗われた空の金魚鉢を持って、ペソペソと泣きながら謝る彼に対して思ったのは、ただただ排水溝が詰まらないかなぁと、その心配のみだった。なんせ金魚は十匹ほどいたので。
というわけで金魚鉢が空いていた。それなりに大きな鉢だったから、睡蓮の花をいくつか入れても美しいだろう。それにこの池に生えている睡蓮は全て赤い色をしているから、金魚の代わりにもなるかもしれない。ああ、それからガラスストーンを入れて日の当たるところにおけば、光の角度によって色が変わって大層綺麗だろう。思わず頬が緩んだ。
「そういえば、先程初期刀殿が殺気立っていたがどうかしたのか?」
「ああ。それなんですけどね、私の養成所時代の同期が相次いで殺されてるらしいんですよ首から上がなくなってるらしくて」
「それは穏やかじゃないな」
「でしょう?それで、一つの期に集中してるから私の卒業した期の人だけ狙われてるんじゃないかって結論になったらしくて、用心しろって報せが届きまして、あの有様です」
「なるほど」
風が吹いて私の前髪を揺らす。そうして疑問に思う。果たして睡蓮の種はあれほどに大きいものなのであろうか。