彼の面影に浸潤す姉が異国に旅立ち、姉弟が離れ離れとなって過ごす、初めての夏。
スグリは仰向けで寝転がり、キタカミの地に息づく虫ポケモンたちのざわめきを聞いていた。自宅の縁側はひんやりとしていて、触れた素肌は心地良い。窓に重なる簾が日除けとなって強い日差しを遮っているのだ。
簾の傍には風鈴が下がっている。風鈴の外身は、雪のように真っ白のまろい陶器。表面は、紫色の花を咲かせた植物で彩られている。時折、微かに風が吹く。風鈴は、ゆらゆらと短冊を棚引かせながら、慎ましくも涼やかな音を奏で続けている。
じわりとかいた汗は滴ることなく、スグリの体から離れては纏わりつくことを繰り返す。ぼんやりと初夏の爽やかな熱っぽさに浮かされていれば、細やかな音色と共に、坂下の田畑から湿った気配が漂ってきた。
4780