夜に褒めてルイス・スミスは自分の世界がイサミ・アオで構成されていることを既に自覚している。ので花を見てもイサミを連想するし、使っていたペンの色がブルーだったとしたらイサミの名前のカラーだと思うので勿論空を見てもイサミを想うし、耳に入ってきた女性陣のキャアキャアした話にも勝手にイサミなら…と妄想するし、恋は盲目。大重症である。
イサミがスミスにとって愛らしくて堪らない。イサミのことを思うと頭がおかしくなる。Oh my GOD!脳がイサミに蝕まれている。素晴らしい毎日だ。
ただスミスの周りの人間はみなそこのところ ハハ、で終わるので問題はなかった。何よりスミスが想いを寄せに寄せているイサミ・アオが[そういうこと]に疎いどころか全く興味のない人生を送ってきたのでスミスの想いに対してIt"s so cool.放置のスタンスであったので毎日ノープロブレムなのであった。
さて、本日はイサミと会えない日である。
いーーーろいろあって世界をイサミと愛と勇気で世界を救って早一か月とちょっと。あれからたくさん話をしてイサミの心にも肌にも粘膜にも触れあって、ただいま絶賛ハネムーン期。だが会えない日もある。軍人なのだからしょうがない。いや、軍の者でなくても世の恋人達も自分たちみたいに今は大変な時期だろう。だからしかたない。
数日前からイサミはスミスとは違う拠点にいる。国は越えていないので夜は電話をしつつイサミの寝息を聞いて眠るのがここのところスミスの日課である。といってもイサミはそんなに寝息をたてる方ではないのでそんなイサミをツツましいニホンジンの鑑だとスミスは思っている。
そして今スミスは悩んでいる。
本日はほぼオフである。午前中はニーナ率いる医療チームでの定期健診。医療チームも新しい顔ぶれがどんどん増え、前と違って朗らかな笑い声が聞こえるようになった。健診内容もだいたい決まっているのでもうツンとしたアルコールの匂いにもだいぶ慣れた。【瞳の色だけが相変わらずファンタジーね、毎度のことだけれど今日は安静に。じゃあまたね】といつも通りにニーナが言って本日のスケジュールはつつがなく終わった。
昼食後、午後は自由時間。スミスは本日はなんとなく映画を見ていた。往年のヒーロー映画。銃の撃ち方がファンタジーだなと前々からスミスはどこか捻くれた目で見ていたが、ヒーローになっていた今となっては映画の内容自体がよりファンタジーに思えるようになっていた。ただ自分たちと重なるところもままある。……涙脆くなってしまったなと思いながらスミスは鼻をかんだ。そして思った。
イサミに指輪を贈りたい。
本日スミスがチョイスした映画が”戦争”を描いた映画だったならまた違った結論が出た(燃え盛る炎をバックに熱烈的なキスをしたい!だとか)かもしれないが、今見終わったのはスーパーヒーローvsアルティメットエイリアンだったからスミスの頭は指輪とイサミに支配されてしまった。だって最後主人公はヒロインに指輪を贈って終わったものだから。ああ全くベタな展開だ。でもそれがいい。だってヒロインごと世界を救ったのだから。それぐらいのご褒美があってしかるべきだ。
……が、困った。スミスにはハイパーハイテクテクノロジーをもう有して居ないのである。
アウチ。で、あるならば実直にイサミに似合う指輪をどこかで調達して贈るしかない。きっとイサミならシンプルなものが似合うだろう。きっと『自分には似合わない』とイサミは言うだろうが、その時はその倍似合っていると耳元で言い聞かせれば良い。…そんな日を想像しスミスはまた感極まって鼻をかんだ。
では指輪を贈るとして問題がある。
どこで調達するか?
そもそもイサミの指のサイズは?
いやでも、指輪といってもイサミはつけてくれないだろう。この際指ではなく紐にリングを通しネックレスとしてこっそり忍ばせてくれたら、アーそれだってハッピーだ。だったらサイズはこの際…、いやでもあのイサミだ。ネックレスさえしてくれるかどうか。
Uh...シャイ、というかイサミはそういうラブとかライクとかもっと大雑把にいえば娯楽?人間関係?ハッピーエブリディ、エンジョイライフに疎いのだ。
そういえばガキの頃リング型のキャンディがあったな。あれでも…スミスはスミスが贈ったものをイサミが一つでも多く持ってくれればそれでハッピーエンジョイ、…いやよくないゆ・び・わ。RINGだぞ。エンゲージ中のエンゲージなアイテムだ。”ネックレスで構わない…”などなんて弱気な。
イサミはきっと日々の業務に邪魔だとゲッとした表情を浮かべて、頑なに付けてくれないだろうけれど、それでもオフの日、いやオフの日じゃなくてもいい、なにかこうスペシャルな時にイサミの手にそっとスミスの贈った指輪が輝いていればそれはそれは大変すばらしい。イッツアワンダフルワールド。星に願いを。
と、なれば調達だ。指のサイズだ。
だが贈るなら絶対サプライズだ。
サプライズならば指のサイズってどう測るんだ?
世のカップルたちはどうしているんだろうか?
ぱっと浮かんだのは夜スヤスヤと横で眠る恋人の指をそっと計測することだ。
だが困った。
世界はただいま復興途中。ネット回線は一部回復しているところもあるが、まだまだ軍の人間であっても個人的利用は不可。
(なのでマニアックだアナログだと言われても好きな映画達のディスクを収集していた自分をスミスは誇らしく思った。だってこんな素晴らしい午後に最高の案が浮かんだのだから!)
とはいえ現段階では机上の空論である。生憎持っているコレクション達の中にイイカンジの恋愛映画は生憎入っていない。
……アー…エット…昔、読んだコミックスに……あれはタイトルなんだったか…、途中で設定が破綻しすぎて流石のスミスもついていけなくなった、あの、なん、今はいい、えっと、それで、そうティーン、の主人公がいっちょ前にヒロインの指を取ってジュースのプルタブを薬指にそっと嵌めるのだ。
ガチッ、ベキッ、ニコ、スッ、
…………。
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…………あ、ダメだ。イサミが指を切ってしまうかもしれない!
「だから、直接相談することにしたんだ。ええっと…指のサイズ、わかるか、イサミ?」
『……”ア・ン・タ”は暇そうでいいな。』
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tittle:わくせいちゃん様