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    syupopopopopo_n

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    syupopopopopo_n

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    タイトルどおりのお話です。メイポ視点。長いよ。
    暴力シーンあり、エロは無し、ちょいホラーっぽいかも。
    一応ウルリーケが村長にならなかったハーヴ村が舞台です。
    ※竜憑きで覚者だけ生き残るのは、覚者の意志の力か、メイポが芽生えた意志の力で辛うじて覚者だけは守っているんじゃないかな〜と思ったのでこの小説上ではそんな感じでやってます。

    竜憑きメイポとヤンデレ覚者ギイアアッ!!

    魔物の醜い断末魔が黄昏時の静かな街道に響き渡った。私が魔物に刺した大剣を引き抜くと、傷口から噴き上げた血飛沫が夕焼けで赤く染った地面を更に赤く染めあげてゆく。

    もう何体こうして殺しただろうか。辺りは無数の魔物の死骸に塗れ、血と肉の臭いが充満していた。

    しかし駄目だ、まだ足りない。もっともっと壊したい。壊さなければ。早く。今すぐに。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    事の発端は何日前だったか。覚者様が突然妙な事を仰った。私の様子がおかしい、と。やたらと暑がったり、時折苦しそうにしているらしい。言われてみれば確かに、時折頭の中に痛みとは違う、血が上る様な苦しい感覚に襲われていた。不思議な事に覚者様から指摘を受けるまで自らの異常に自覚がなかった。

    覚者様は私を気遣い、本来真っ先にやらなければならない要件を保留にしてまでこの症状について調べてくださった。竜識者を初めとする各地の元覚者達の元へと赴き、禁呪究理院へ忍び込んで文献を漁り、無駄だと分かっていつつも人間の医者に診せてみるなど、思いつく限りの手を尽くして下さったが、残念な事に症状は改善する所か悪化の一途を辿っていた。

    しかしその過程で私は症状が一時的にではあるものの治まる方法に気がついた。そう、戦う事だ。敵と戦っている間は驚く程に頭が冴え渡り、寧ろ以前より力が漲るのだ。だから私は覚者様に提案した。以前の様に敵を倒しながら旅をすればいいと。そうする事で寧ろ私は以前よりも覚者様のお役に立てるのだと。しかし残念な事に私の提案は却下されてしまった。覚者様にしては珍しく愚かな判断だった。

    治療法解明の当ても無くなってしまった覚者様は拠点をハーヴ村に移された。他の宿や自宅は療養するには騒がしすぎてよくないとのお考えからだった。覚者様が宿屋を1週間ほど貸切に出来ないかと規定の金額の倍を提示すると宿屋の主人は願ってもない話だと喜んだ。二人きりになりたいので可能な限り主人にも席を外して欲しいという要求も飲んでもらえた。こうして私のただただ退屈で苦痛な療養生活が始まったのだ。


    療養中、覚者様は頻繁に私の顔色を確認しに来た。いや、顔色というよりは瞳を覗き込んでいる様だった。意味があるのか分からない行動に苛立ちを覚えた私は、覚者様が私を覗き込む度に戦わせてくれる様懇願したが、答えは毎回同じだった。相変わらずの表情と言葉を発しないあの態度が憎らしい。

    幾度とない押し問答の末、覚者様の余りに物わかりの悪さに限界を迎えた私は近くにあった薬瓶を床に叩きつけた。淡々とした覚者様の表情に私の行動で動揺が走る様は実に痛快だった。覚者様は何も言わず割れた薬瓶を片付けるとそのまま宿を出ていった。去り際に一瞬こちらに向いた覚者様は今まで見た事がない寂しげな表情で、私はつい己の行動を後悔しそうになったが元はと言えば覚者様が悪いのだと思い留まった。

    覚者様が出ていってからどれ程経っただろうか、思えばこんなに長く1人でいるのは初めてかもしれない。殆どの場合他のポーンも一緒だった。……もしかして今私は自由なのでは?そうだ、何故こんな大事な事にすぐ気が付かなかったのだろう。私は自由だ。そうとなれば行こう、今すぐに!

    私は大剣を手に取り外に飛び出た。今の私に重い防具は要らない。

    真っ直ぐ村を出て海岸沿いを進むとすぐにリザードマンの群れに遭遇した。魔物の中では比較的知能身体能力共に高い彼らだが、今の私の敵ではない。大剣は軽く、頭は冴え渡っている。打ち上げられた最後の1匹の身体が宙を舞って地面に叩きつけられる。まだ辛うじて蠢くそれの腹に剣を突き立てると心にこの上ない高揚感が湧き上がった。不思議な事に体力の消耗が全くない。寧ろ戦う前よりも力に満ちていた。私はそのまま海岸を後にし、遭遇した魔物を全て斬り伏せながら道なりに進んだ。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    こうして私は今に至る。ふと夕焼けと血に染った辺りを見渡す。もう間もなく夜が来る。夜はより強い魔物で溢れるだろうが今の私には脅威ではない、寧ろ好都合だ。

    次はどこに向かおう、早く壊しタい。私が適当に歩を進めようとしたその時、後ろから何者かが勢いよく迫ってくる足音が聞こえ、私は即座に振り返り剣を構えた。

    「…覚者様」

    迫ってきた者の正体は覚者様だった。呼吸は荒々しく額から汗が流れている。覚者様は足を止める事無くこちらに向かってくる。また私ノ邪魔をする気だ。来ルナ。

    「………」

    覚者様はこちらが剣を構えているにも関わらず無言で距離を詰めてくる。何かいつもと様子が違う。武器を構えてすらいない目の前の相手に何故か手が震えた。あれ程軽かった大剣が今は酷く重い。グリップが手からこぼれ落ち虚しく地に落ちた。覚者様はこちらを見据えたまますぐそこまで来ている。

    「来るナ!!!!」

    私は叫んだ。アレを近づけてはならぬと私の中の何かが怯えている。しかし叫び虚しく覚者様は私に迫り目と鼻の先で立ち止まった。覚者様の暗い瞳が私を、私の瞳を見つめる。見ルナ。見ナいデクレ。

    「ッ!!!!!」

    私は力づくで震えを抑えた両の手を覚者様の首にかけた。覚者様の細い首に指が食い込む程に何故か私も苦しさを覚えた。

    「………」

    首を絞められているにも関わらず覚者様の瞳は揺らぎ一つ見せずに私の瞳を見つめている。まるで瞳を通して私の中を覗き込まれている様な感覚に動悸が走った。これ以上見てはいけないと私の中の何かが全力で暴れ回る。しかしダメだ、目が離せない。私も思わず覚者様の暗い瞳のさらにその奥を覗いた。



    「あ」




    目が合った。




    全身に悪寒が走る。胸が苦しい。覚者様の瞳の奥の何かが私の胸を締め付けている。あれは何だ?あれも意志の力なのか?

    私の中で暴れ回っていた何かが両手に流れ込んで私を逃がそうと覚者様を突き放した。覚者様の視線が私から逸れると同時に私も苦しみから解放されると、急に後悔の念に襲われた。ああ、私はなんて事を…覚者様に手をかけるなんて…

    全身から力が抜け、私は半分崩れるようにその場に座り込んだ。首の圧迫から解放された覚者様は少しむせたもののすぐに正常な呼吸を取り戻すと、情けなく座り込む私の足の間に割って入り込んだ。自らの異常に気が付いた私はまた覚者様を手にかけてしまうのを恐れた。

    「っ…近づかないでください!今の私がどんなに危険か分かったはずでしょう?!!」

    私の懇願に構わず覚者様は両手で私の顔を自身の顔に引き寄せる。鼻先が触れ合う。瞳が迫る。あの意志の力を宿した瞳が。

    「うっ…!!」

    再び胸が締め付けられる。凄まじく苦しい。でも何故だろう。苦しさの中に心地良さを感じる。覚者様は呼吸もままならない私の頬を親指で優しく撫でた。

    「白は私を殺さない。」

    覚者様の透き通る様な声がまるで脳内に直接語りかけられているかのように響く。胸の締め付けが激しさを増すが同時に心は喜びを感じていた。これはきっと意志の力に引き寄せられるポーンの本能だ。

    そうだ、私は覚者様を殺さない。

    覚者様はしばらく私を見つめた後、ふ、と微笑む様な穏やかな表情をされると私の顔から手を離し、宿に帰ろうと私を促した。もう覚者様に対する反抗心はどこにも無かった。手に取った大剣は特別軽くもなければ重くもない、馴染みのある重さに戻っていた。覚者様と2人で村へと帰る道中は、毎日一緒にいたはずなのに久々に再会した気分だった。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

    その日の晩、夢を見た。


    気が付くと何も無い空間に私は一人立っていた。辺りを見回すが暗く、先は殆ど見えない。どうしようと焦りふと視線を下に向ける、足下に黒い靄の様なものがにじり寄っていた。黒い靄が私に触れた瞬間、またあの衝動が私を襲った。ああ、壊したい…!!

    私は頭を振って衝動を払い落とし、黒い靄から逃げようとする。しかし思うように足が動かず、無様にもその場に倒れこんでしまった。黒い靄容赦なく体を這い上がり、私の意識を飲み込んでいく。壊したい、嫌だ、壊せ、ダメだ壊せ、壊せ壊せ壊セこわせコワセーーー

    このままではまた覚者様を手にかけてしまう、あの恐怖を思い出したその瞬間覚者様の声が再び脳内に響いた。

    「白は私を殺さない。」

    胸が締め付けられる。ああ、これはきっと覚者様の力が私を繋いで下さっているのだ。大丈夫、私は覚者様を殺さない、絶対に…!

    全身はすっかり黒い靄に覆われてしまった。吐き気を催す程の衝動が暴れ回り何もかも飲み込まれてしまいそうになるが、胸の中の苦しくも暖かいものが私の意識を僅かに繋ぎ止め続けていた。


    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


    翌朝、鼻腔をくすぐる爽やかな香りで私は目覚めた。何か酷い夢を見ていたような気がするが全く思い出せない。若干の不安がざわめく心中とは裏腹に、体調はすこぶる良くなっていて病の面影はもうどこにも無かった。

    「……!」

    私の目覚めに気がついた覚者様がこちらへ寄ってくる。その様子は珍しくひと目でわかる程嬉しそうだ。側まで来た覚者様は私の瞳を覗き込むと珍しくにこやかに微笑んで、手に持っていたカップを私に手渡した。部屋に漂っていた爽やかな香りの正体はハーブティーだった。暖かいそれを少し口に含む。鼻腔いっぱいに広がる心地よい香り。使われているのはベリーの葉と壮麗花らしい。覚者様はいつの間にこんなものを手に入れたのだろう。

    ハーブティーを飲みきらないうちに覚者様は待ちきれないとばかりに私をテーブルへと促す。そこには瑞々しいベリーとラディッシュのサラダ、塩ゆでのガライモが並んでいた。

    「…!」

    覚者様が何かを思い出した仕草をした。外でスープを煮込んでいるらしい。覚者様が取りに行こうとしたが、何から何までしてもらっては申し訳ないので私に取りに行かせてもらった。

    外に出ると日はすっかり高くまで昇っていた。普段よりかなり長く眠っていた様だ。静かな村に暖かい潮風が駆け抜けていく。辺りを探すと宿の窓のすぐ側の焚き木でスープが煮立っていた。たっぷりの干し肉と豆にしばらく忘れていた食欲が湧き上がる。私は鍋の取手に布を巻き持ち上げようとした。その時、ふと違和感に気が付いた。

    村が、静かすぎる。

    これだけ日が昇った時刻であれば、村人は皆日々の営みに勤しんでいるはずだ。しかし辺りを見渡しても誰もいない。一体どういう事なのだろう。

    鍋を持ち帰り、私は覚者様に村の様子がいつもと違う事を話すと、覚者様が事の経緯を説明してくださった。明け方、村の付近に竜の目撃情報があったそうだ。過去に竜に襲われ壊滅寸前に陥った経験のある村人達は、再び襲われる事を恐れ念の為避難したらしい。覚者様は療養中の私の事もあってあえて残ったとの事。仮に襲撃を受けても今の我々ならば倒すまでは行かずとも退けること位は出来るだろう、と。

    事の経緯を知って安心した所で2人で朝食についた。こんなに穏やかなを過ごしたのはいつ以来だろう。私が昨日まで自分がこの穏やかな時間を壊してしまっていた非礼を詫びると、覚者様はあくまであれは病気のせい、気に病まれても返って困ると仰って下さり、全く気にしないという事は出来ないが覚者様の気遣いを無碍にもしたくはないので普段通り振る舞うよう努める事にした。

    美味しい朝食を平らげ、長らく世話になった宿を後にする。今日からまた忙しい冒険の始まりだ。我々は次の目的地の相談をしながら村の出口へと向かった。門代わりにそびえる岩の間をくぐろうとしたその時、後ろから我々を呼び止める聞き覚えのある声がした。振り返るとそこには村の外れに住む老人がこちらに向かって腕を振っている。老人は我々が気がついたのを確認すると突然高らかに笑いだした。


    「ハハハハッ!!わしは知っておるぞ!!昨夜どうにも胸騒ぎがして村を離れておるとなんと!!竜だ!黒い竜が村の上空に飛び上がっておった!!そして竜が消えた後村に戻ったわしは見たんじゃ!!ハハッ…!!誰かさんが運んでは投げ運んでは投げ……ヒュージブルのやつ、これ程忙しい夜はそう無かったじゃろうな!いい気味よ!!…何、心配せんでもええ!お前さんは唯一わしの話を聞いてくれる人間じゃ!また話を聞きに来ておくれ、待っておるからのう!!」


    老人はひとしきりまくし立てると満足したようでそのまま自宅の方へ帰って行った。今のは一体どういう意味なのか。覚者様に尋ねたが分からないと首を横に振るだけだった。あの老人は以前からとりとめのない妄言ばかりするので村の外れで孤独な生活を送っている様な人だ。きっとまた何か悪い妄想に取り憑かれていたのだろう。

    折角の旅立ちに水を差されてしまった。私がため息をつくと、覚者様は貨幣袋を取り出して私に見せた。村に来る前はそこそこ膨れていたはずのそれは連日の宿生活ですっかり萎んでいた。

    「…なるほど。お任せ下さい、素材の場所は把握しております。高く売れる鉱石でも取りに行きましょう。うってつけの採石場を地図に記しておきます。」

    私が地図に印を付けてお渡しすると覚者様は満足気に笑った。その笑顔に胸が熱くなるのを感じた。

    気を取り直して歩を進める。空は青く澄み渡り、旅をするにはうってつけの天気だ。私は覚者様がそばに居る安心感を改めて噛み締め、覚者様と共に村を後にした。


    END

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    syupopopopopo_n

    MOURNINGタイトルどおりのお話です。メイポ視点。長いよ。
    暴力シーンあり、エロは無し、ちょいホラーっぽいかも。
    一応ウルリーケが村長にならなかったハーヴ村が舞台です。
    ※竜憑きで覚者だけ生き残るのは、覚者の意志の力か、メイポが芽生えた意志の力で辛うじて覚者だけは守っているんじゃないかな〜と思ったのでこの小説上ではそんな感じでやってます。
    竜憑きメイポとヤンデレ覚者ギイアアッ!!

    魔物の醜い断末魔が黄昏時の静かな街道に響き渡った。私が魔物に刺した大剣を引き抜くと、傷口から噴き上げた血飛沫が夕焼けで赤く染った地面を更に赤く染めあげてゆく。

    もう何体こうして殺しただろうか。辺りは無数の魔物の死骸に塗れ、血と肉の臭いが充満していた。

    しかし駄目だ、まだ足りない。もっともっと壊したい。壊さなければ。早く。今すぐに。

    ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
    事の発端は何日前だったか。覚者様が突然妙な事を仰った。私の様子がおかしい、と。やたらと暑がったり、時折苦しそうにしているらしい。言われてみれば確かに、時折頭の中に痛みとは違う、血が上る様な苦しい感覚に襲われていた。不思議な事に覚者様から指摘を受けるまで自らの異常に自覚がなかった。
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