DD2 真ED時〜後の妄想話。「マスターーーーッ!」
必死の抵抗虚しく、赤竜の手に掴まれた白は投げ出された。
ーーー私が終わらせなければ…!
魂魄の剣を構え、白がこじ開けた赤竜の胸の中の心臓へ勢いのまま突き立てた。
心臓から溢れる虚無がまるで悲鳴のように無数の棘を突き出し、その内の何本かが私の身体を貫く。
「がっ…ぁっ!! 」
虚無の抵抗が凄まじい痛みとなって全身を駆け巡る。しかし倒れる訳にはいかない。白の意志が無駄になってしまう、それだけは絶対に嫌だ。
気力を振り絞り、剣を更に心臓の奥へと押し込む。
「あ"あああっ!!!!」
虚無の断末魔が更なる棘となり、私の身体を再び貫いたーーーー
「なんと、口惜しい……」
何者かの嘆きが頭の中に響き、私は意識を取り戻した。虚無はいつの間にか姿を消し、私の身体は今まさに地上に向かって落ちゆく最中だった。…嘆いているのは、観る者か。
「これからまた、始まろうというのに…」
うるさい。
ああ、そんな事より白は、白はどうなったのだろう。私はこのまま1人で死ぬのか。いや、いいのだ、私達は魂が繋がっている、肉体が死んでも私達は一緒だ。それに、例え肉体が死を迎えるだけとはいえ白がその瞬間を見ればきっと苦しむだろう。
虚無による無数の棘に刺された身体はもう感覚がない。頭の中では観る者がまだ何かどうでもいい愚痴を漏らしている。再び私が意識を手放しかけたその時ーーー
ーーーギァァアアアアッ!!
竜へ変貌した白の叫び声が遠のきかけた私の意識を力強く引き戻した。
「白…っ…!!!」
黒く波打つ曖昧な竜の身体が私を包み込み地上へと向かう。とても飛行と呼べるものでは無い弱々しい羽ばたきが、白もまた限界が近い事を示していた。
着地の余裕などなく私達は墜落した。白の身体が地面に叩きつけられる。私は白が下敷きになってくれたおかげで墜落死を免れていた。黒い竜の身体が私の隣で集束し、元の白の姿に戻っていく。
「白っ……白…っ…」
「ぐ…ぅっ……マ…マスター……」
意志の力がそうさせたのか、白はまだ生きていた。感覚を失ったはずの身体から熱が込み上げ、涙となって溢れる。
「マスタ……良かった…っ…会えて…」
白もまた泣いていた。白の泣き顔を見るのは初めてだった。初めてが、最後だなんて。
魂は繋がっている。これが別れではない。それでも、それでもこの声で伝えなければ。伝えたいんだ。もう時間が無い。
「っ…白……私……」
「…幸せ…っ……だった……よ……」
「っ……」
白は一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの優しい笑顔を向けてくれた。私が何よりも大好きな笑顔を。
そして、
次の瞬間、
白の瞳孔が開いた。
「っ…ぅっ……あぁ…っ…」
苦しい、辛い、胸が張り裂けそう、でも良かった。白に私の死ぬ瞬間を見せたくなかった。
…大丈夫……すぐにまた…
私ももう限界だ。最早涙も枯れ尽きてしまった。涙が枯れた先の視界には青空が広がっていた。
(…きれいだな……)
これが、私が最後に見た光景だった。
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「この辺りだ!見つけ出せ早く!!」
美しい青空に似つかわしくない怒声が響く。声の主はファズス、世界の理に抗った禁呪研究者。
「何が起きたのか…この世界の真理とは…全て話してもらうぞ覚者よ…!!」
ファズスはぎりぎりと歯を食いしばった。全てを知る覚者が話せる状態かどうか、自信が持てる状況ではなかった。
「ファズス様ーっ!!見つけましたーっ!!」
部下の1人が大きく手を振り全力で叫ぶ。ファズスも脇目も降らずに全力で駆け寄った。
「ファズス様……残念ですが…もう…」
駆け寄った先の部下が力なく言葉を漏らした。目線の先にはとうに事切れた覚者と従者の遺体が並んで横たわっていた。
「くっ…折角この世界の真理が判明したはずなのに…!!」
ファズスは横たわる覚者の顔の横で地面に拳を叩きつけた。当然ながら何の反応も返ってはこない。ファズスはじっと2人の顔を見つめた。
「……………」
側ではファズスの部下がただオロオロと立ち尽くしている。ファズスは大きくため息をついた。
「……感動的な再開に興味は無いと言ったはずなんだがな。」
ファズスは立ち上がって2人の遺体に背を向け歩き出した。
「あ、あのファズス様、連れて帰らなくていいんですか?」
部下が顔色を伺いながら恐る恐る問う。
「生憎死体に興味はないからな。」
そうですか、小さく返事した部下の表情は明らかに後ろめたそうだった。
「………いや、待て…何か痕跡位は、残っているかもしれん、持って帰れ。」
ファズスが珍しく言葉を詰まらせながら部下に指示を出す。その指示を聞いた部下は少し心が晴れたようにはい!と答えた。
「全く…最後まで世話の焼ける…」
ファズスは2度目の大きなため息をついた。
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2人の葬儀は異例のヴェルムントとバタルの合同で行われた。
葬儀をきっかけにスヴェン国王とナデニア王妃の会談が行われ、国交回復に向けて動き出すこととなった。
理から解放されてもこの世界に山積みの問題が無くなった訳では無い。
それでも
それでも確かに世界は新たな道を人々の意志の力で歩み始めていた。