ああ、こいつのこと好きだなと千空は自覚した。石神千空は七色の虹を見たことがない。
一応、一般的に虹が七色なこと、赤から青に移り変わるグラデーションなのは理解している。各々の色も認識できる。でも、七色の虹を感じたことはない。むしろ、赤と青の二色でも間違っていないだろう？
「まぁ、虹が綺麗だってことが分かればいいんじゃない？」

肉欲が薄いゲンのお話ゲンは千空が好きだ。恋愛感情がある。
それは自分自身認めるところなのだが、その先に進む気がなかった。
男同士だし、この石世界で恋愛にうつつを抜かしている暇はないし、相手があの石神千空だ。
ところがある日。
千空が告白して来た。青天の霹靂だ。
ゲンには先へ進めない秘密があるのだ。

未知との遭遇ゲンは戸惑っていた。小さな掌、柔らかい感触。
それは何か別の生き物のようだ。
「ゲンくん。そんなに怖がらなくても案外丈夫なんだよ」
杠が笑う。
「その感じ、さっき千空もおんなじだったぞ」
「黙ってろ、デカブツ」
「へぇー、千空ちゃんも」
「うっせぇーわ、怖いに決まってる」

「させねぇって、かっこいいね」「うっせぇーわ」ゲンは岐路に立たされている。
此処が分水嶺ということか。
差し出された手を取れば、まだ一緒にいることを許される？こんな俺でも？
「まぁーた、ぐちぐち考えてんだろ。いいから来い」
ゲンの躊躇を飛び越えて掴まれた手首。
「後悔なんてさせねぇ。来いよ、ゲン」
滅多に呼ばれない名に頷く。

また浅い霧のように消えていくあいつは求めても。
求めても。
まるで手応えがなく、霞のようで。
朝日の儚く消える靄のようで。
手にしたと思えば、次の瞬間には指の間をすり抜けてゆく。
際限がなく、夢幻のようで、無限にも感じられる。
掻き抱いて爪を立てて。
逃がさないようにしがみ付いて漸く捕まえたと安堵したのに。