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    aoixxxstone

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    空の星になれない(2)
    千ゲ/復興後/名前のあるオリキャラ/男性妊娠/ハピエンですが道半ば/千空ちゃんの霊圧が消えた

    #千ゲ
    1000Sheets

     リビングのローテーブルに突っ伏して眠り込むゲンを、ゆっくりと抱き上げた。相変わらず薄くて軽い身体を、できる限り静かに、丁寧に、ベッドへと寝かしつける。肩まで上掛けを引き上げて、すう、と細く息をついた。
     赤く腫れた目元。痛々しいと思いながら、僕は少しだけうれしかった。ゲンは『見せたい』本心以外を、他人に見せることを良しとしない。それなのに今、こんな顔を晒してまで僕を頼って来てくれたのだと。
     ゲンは、この細い身体でいつも一際苦しい場所に立って、危ない橋を渡って、必死になって戦ってくれた。司帝国からの造反、モズとの取引、アメリカでのスパイ活動。どれもゲンが勝ち取ってくれた道だ。ゲンがいなかったら、僕は千空に出会うことすらできなかった。
     それなのにゲン本人はといえば『俺だけジーマーで場違いじゃない?スーパースペシャルレアの中にレアが混じっちゃってない?』なんて言っていたのだから、笑ってしまう。そこで自分をコモンって言わないところが、いかにもゲンらしい。結局、今に至るまでその認識はあまり変わっていないみたいで、僕らがSSRならゲンはURだってことは全然分かっていない。
     ねぇ、だって、千空が『共犯者』になることを許したのは君一人だった。ほかの誰が望んでも、千空はそれを許さなかっただろう。君だから──浅霧幻だから、千空はそれを受け入れたんだよ。
     僕は、人を守りたくて自衛官になった。自分の能力が活かせるというアドバンテージを差し引いても、単純に向いていたと思う。深い海の底で、耳をすませる静かな時間、胸の鼓動、張り詰めた空気。
     けれど、いざ戦いが起きたとき、僕は、まだ子供でいられたはずの千空を、部隊の先頭に立たせる道しか選べなかった。彼の友人の命を、賭けるしかない状況に陥らせた。守れなかった、何も。石像も、千空も、司も。
     だから今、やっと君たちが心から笑って過ごせる世界になったと──その世界を今度こそ守っていこうと、そう思っていたのに。

    「妊娠、か……」

     石化という前代未聞の現象は、人体に大きな影響を与える。即死に至る致命傷を癒し、脳死状態を回復し、コールドスリープから命を蘇らせることまで叶えるのだ。
     そんな奇跡としか言いようのない復活を遂げた人間たちの中に、新たな異変が発見されたのは三年前のこと。
    ──男性の復活者に、妊娠が確認された。
     生命の在り方を根本から覆す驚愕のニュースだったけれど、そもそも全人類石化なんて災厄からして、僕らにとってはSF映画ばりの奇想天外な現象だったものだから、何となく『あの石化装置ならそんなことも起こるだろうな』程度に人々には受け止められている。
     同性間での性交渉の痕跡から内臓を最適化して修復しているのではないか、っていうのが、有力な説なんだとか。何しろ砕かれた頸神経すらも修復してしまうようなとんでもない装置だから、内臓が少しばかり作り変わっても仕方ないのかな、なんて、うろ覚えだけれど僕もそう考えた記憶がある。
    ──ああ、そうだ。その話を聞かせてくれたのがゲンだった。
     石化装置研究の第一人者である千空は、新発見に急遽海外の研究所に招集されて、万理は児童会のキャンプに二泊三日で出かけてしまったのだと……『寂しいから羽京ちゃん遊びに来てよ』とゲンに呼ばれて、久しぶりに二人で遅くまで飲んだんだ。

    『千空ちゃんってば、唆るぜって目キラキラさせて飛んで行っちゃってさ。万理ちゃんがお泊まりしてる間は久しぶりに二人っきりだねって、デートでもしようかって言ってたのに。寂しい。千空ちゃんの研究が進めば喜ぶ人がたくさんいるって、分かってるけど。でも寂しい……』
     千空にとって科学が何よりも先に立つのは当然のことで、ゲンがそういった愚痴をこぼすのは珍しく、僕は少し面食らった。千空が科学に邁進できるよう動いている、その筆頭がゲンなのに。
     唇を尖らせて拗ねた表情を作るゲンは、随分と酔っていたように思う。脳裏に浮かぶ、空になったコーラのペットボトルと、中身が三分の二ほど減ったジャックダニエル・ブラックの瓶。それは僕の方も同じで、ゲンに釣られるようにいつもより早いペースでグラスを空けて、かなり酔いが回っていた。
     だから、かな。普段なら絶対に踏み込まない、立ち入らない領域にまで、足を進めてしまったのは。

    『……ゲンは、欲しいと思わないの?』
    『ええ〜何を〜?』
    『千空との子供』
     ピリ、と、空気が変わったのを肌で感じた。あのときの感覚を素直に言葉で表すなら──地雷を踏んだ、だ。

    『……もういるよぉ、可愛い可愛い万理ちゃん♡』
     蕩けそうな笑みで言ったゲンに、嘘はなかった、と思う。ゲン相手にどこまでこちらの眼が通用するか、自信はまるでないけれど。
    『もぉ、万理ちゃん本当に可愛くてね!? 今日だって行ってらっしゃいのちゅーしたら、もうガキじゃねーんだからやめろって言いながら、ちゃんと俺のほっぺにちゅー返してくれたんだよ〜! バイヤーかわいー!』
    『はは……ほどほどにしてあげなよ』
     一息で霧散した空気に、安堵した。いつもと変わらない、親バカなゲンの、いつものノロケ話だ。
     万理は、本当に千空によく似ている。性格とか、反応とか。そこがまたゲンにとっては可愛くて仕方ないんだろう。リビングのサイドボードに飾られた写真は、千空と万理が並んで写っているものばかりだ。他には、石神村で万理の誕生日を祝ったときの集合写真や、千空がナントカいう科学賞を──ごめん千空、数が多すぎてもうどれだったか覚えてないや──授賞したときのスーツ姿のスナップ、アメリカでドクター・ゼノと会合をした際のスリーショットもある。どれも、ゲンが愛用のデジタルカメラで撮影したもので、年々腕が上がっているのが万里の成長と共に見て取れた。
    『万里ちゃんの結婚式でね、万里ちゃんとお嫁さんと千空ちゃんの三人の写真撮るのが俺の夢♡』
     どうして僕は気付かなかったんだろう。
     ズラリと並ぶ写真のどこにも、ゲンがいない。



     家族ができた男の子はとても幸せでした。
     勉強もお手伝いもたくさんしました。お父さんとお母さんになった人は、男の子をたくさん褒めてくれました。
    『幻くんは本当にいい子だね』
    『幻くんがうちの子になってくれて幸せよ』
     そう言って男の子の頭を撫でてくれる手はとっても優しく温かでした。
     男の子は、この幸せがいつまでもつづくと信じていました。
    『──お母さんね、お腹に赤ちゃんができたのよ』
     信じて、いました。



     翌朝、僕の目が覚めたとき、もうゲンはベッドにいなかった。
     リビングはすっかり片付けられて、ダイニングテーブルの上にはご飯と味噌汁、出汁巻き玉子、焼き鮭、ほうれん草の胡麻和えが、それぞれ丁寧にラップをかけて用意されていた。ゲンが起床した気配どころか、料理の音にすら気付かなかった自分に驚く。
     朝食の隣には、ブルーのメモ用紙。青色の世界一有名なネコ型ロボットが描かれたそれには、やや乱れた筆致で『先に出るね。鍵はポストに入れます』と書かれていた。
    ──出るって、どこに?
     ひどく嫌な予感がして、僕はポケットの携帯を取り出し、ゲンの番号にコールする。
    『おかけになった電話番号は……』
     昔のそれとは変わった声、同じ文言のアナウンスに、僕の背をゾッと冷たいものが滑り落ちた。
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    aoixxxstone

    DOODLE花に嵐(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=20351543)のちょぎくにが、南泉にご迷惑をおかけする話、の始まり。終わらなかった……
    時系列的には、花に嵐本編→本作→花に嵐のr18部分。
    にゃんくにっぽい雰囲気に見えるところがあるかもですが、二振りの間には一切そういう感情はありません。終始ちょぎくにです。
    猫の手を借りる夜 (1)「南泉一文字……その、折り入って頼みたいことがあるんだが」
     そう言って夜半、部屋を訪ねてきたのは、普段あまり話すことのない相手だった。
     山姥切国広。本作長義以下五十八字略こと山姥切長義の写しであるこいつは、誰かさんみたいにひねくれた性格はしていないが、別方向に難儀な性質を抱えていて──まあ、はっきり言って社交的な性格とは程遠い。修行から戻ってからは『写し』という自身の出自に由来する卑屈さはなくなったようだが、口下手なところは相変わらずだ。その上、そこに『自分は主のための傑作である』という自負が重なって、却って面倒を起こしてしまうこともある。
     その最たるもんが、本歌山姥切との確執だろう。どっちが悪いとか、どっちが正しいとかいう話じゃない。山姥切には山姥切の、国広には国広の考えも想いもある。それだけの話──なのだが、したたかに酔った山姥切から聞かされた、二振りの会話の下手くそさときたら、これがとんでもなかった。山姥切のやつは端から喧嘩腰。対する国広は言葉選びを間違いまくり。拗れるのも無理はない、という気持ちと、何でここまで拗れてんだ、の気持ちで、聞いてるこっちの頭が痛くなったくらいだ。
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    aoixxxstone

    DOODLE千→ゲ♀/先天にょた/幼なじみ
    惚れた女と一つ屋根の下で暮らすことになった俺の天国と地獄についての記録と考察「千空ちゃん、お待〜! えへへ、今日からお世話になりまーす! シクヨロ〜♪」
    「……おー、自分ちだと思って好きに使え」
     言いながら、千空は不自然にならない程度に、そっと視線を下げた。淡い藤色のワンピース。トップスの部分はレースで大人っぽく、ウエストラインから膝丈のスカートはシフォンを重ねたデザインで、幻のスタイルの良さが際立つようだった。──少しばかり胸元が窮屈そうに見えることに、言葉にならない気まずさを覚えて、千空はふいと顔を逸らす。
     二人が出会ったのは千空が十歳、幻が十三歳のときだ。紺の襟に白い三本ラインのセーラー服とプリーツスカート。或いは進学した先の、胸ポケットにワンポイントの刺繍が入ったブラウスと山吹色のリボン、ボックスプリーツのスカート。千空の大脳新皮質にあるのは、登下校時に見かけた制服姿の幻ばかりだ。私服姿を目にしたのは、偶然に都内の図書館で行き会った一度きり。普段のコンタクトレンズではなく黒縁の眼鏡をかけた幻は、シンプルな黒のニットセーターに、スキニーのジーンズを履いていた。いつもは見ることのないウエストから腰、細い脚へとつづく綺麗な曲線に、千空は跳ね回る心臓を抑えるのに必死で、ほとんど顔を上げられなかった。
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