オーターさん、とよく知った男の声がする。
ここは、自宅で。今しがたバーから帰ったところで。
いるはずのないヤツが目の前に立っていて脳が混乱する。酒のせいでうまく頭が回らない。
珍しく飲みすぎたようだ。…幻覚を見るほど。
「…私もとうとうヤキが回ったか…」
「うわ、酒くさ!…アンタ、もしかして酔ってんの…?」
おずおずと顔を覗き込むドットは、やけに心配そうな顔をしていて、随分と都合の良い幻覚だなと思った。
本当のコイツなら、ギャンギャンと頭に響く声で騒ぎそうなものだが。
どうでもいいことを考えながら、半開きになった口から覗く鋭い犬歯と舌から目が離せない。
「んむっ!?っ、オーター、さ…!?んん…っ!!」
幻覚でも夢でもなんでもいい。ひどく渇いて仕方がない。
気づいたら、グッと引き寄せて唇を奪っていた。
大きく見開かれた目の、そのオレンジ色の虹彩が揺らめく。
抵抗しそうな気配を感じて、手首をひとまとめにして壁に押さえつけた。
「は……っ、んぅ……っ!ん…っ!」
「……ふ……」
「ん!んっ!?」
唇を無理やりこじ開けて舌をねじ込む。
口内を蹂躙し、逃げる舌に自分のそれを絡めて吸い上げた。
はふはふと苦しそうに喘ぐドットに、呼吸の仕方を忘れたのかと可笑しくなった。
一度呼吸させてやろうと口を離せば銀の糸がきらめいて、ぷつりと途切れた。
「ぷはぁっ!!はぁっ、はぁ、はっ…!あ、あ、アンタなぁっ!!な、なにすんだよっ……!?」
「…うるさい、黙れ…」
「むぐっ!?」
声が響いて、頭がガンガンと痛んだ。
息苦しさから解放された途端ギャンギャンとわめき始めたドットの口を、再び己の口でふさぐ。
戯れはもう終わりだとばかり思っていたのだろう。
驚いて開いたままの口に再び舌をねじ込んで、縮こまる舌を引っ張り出した。そのままじゅっと吸い付いてやればビクッと身体が跳ねる。
「ふ、ぁ……っ、ん……っ!は……んんっ!」
上顎をくすぐったり、舌の裏側をこすってやれば、そのたびに肩が震えた。
角度を変えながら何度も口内を貪れば、ドットの体から次第に力が抜けていく。
代わりに、鼻から抜けるような甘い声が聞こえてくるようになった。
「は、ん……っ!ぁ……っ、は……」
もう抵抗の意思はないと判断して手首を解放すると、そのままずるりと壁を伝ってへたり込んだ。
その顎を掴んで上向かせれば、とろりと溶けた瞳と目が合う。
「……はぁ……っ、は……。オーターさっ……、なん、で……こんな……」
「…お前が、美味そうだったからだ」
「んなっ…!?」
自分でもなぜこんな行動を取ったのか、よくわからなかった。
ただ、あの瞬間。
コイツの舌の赤さに、やけに惹かれて。
同時にひどく心が乾いた。
乾きを満たしたいと、そう思ったのだ。