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    shichika7532

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    shichika7532

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    男審神者×三日月。審神者の妹も審神者とか、年の差やばいねとかそういう話。

     空に浮かんだ三日月が、やたらと大きく見える夜。なんなら光量すら惜しんでいないというか、夜に変わりはないものの随分と明るい。あーもうこれはおじいちゃんウッキウキですわ、なんてよく分からない思考と共に、訪ねた先の彼は予想通り笑顔だった。
    「こんばんはー三日月ー、アンガーマネジメントを貫通しちまう殺意ってどう対処したらいい……?」
    「ふむ……随分と参っているようだなあ主。とりあえずは入るといい、廊下は冷えるだろう」
    「ありがとうおじーちゃん……」
     俺が生まれた時にはもう、この世にいなかった「祖父」の顔を思い浮かべる。写真の中で穏やかに笑うそれと、今目の前にいる彼の姿は似ても似つかないが――きっとどちらにせよ、俺はおじいちゃんっ子だったんだろうなあとふと思った。だって疲労困憊の俺を室内に招き入れて、「よく頑張っているなあ」と頭を撫でてくる手のなんと心地よいことか。
    「あー……おじーちゃん好きだ……ありがとー……」
    「はっはっは、俺も好きだぞ。それでどうした、何かあったんだな?」
    「うん……俺、実は妹いるんだけどさ。そいつも審神者だし仲良いから、ちょくちょく連絡してるわけ。なんならたまにお使いに来るの、あいつのとこの刀なんだよな」
    「なるほど。だがその様子からするに、喧嘩でもしたのか?」
    「んーん。めちゃくちゃ優しくて可愛くていい子なんだよマジで……喧嘩とか全然してこなかったし、もちろん今回もしてない。ただ誰にでも分け隔てなく優しすぎて、父親レベルで歳離れたやつに求婚されてたんだよなー……」
    「なるほど?」
    「もちろんそんなつもりはなかったようだし、困ってたから手ぇ貸してきたんだけどさ。三十以上も歳離れたジジイがみっともなく『俺と彼女は愛し合っているんだ』とか言うからめちゃくちゃ怖くてさあ……あいつの刀たちが過保護なのもすっげー納得いったね……」
     故に兄として、「付喪神に教えてはいけない」とされている諸々を排除しつつ、彼女を守るために必要だろう情報を置いてきたわけなのだが。まあとっても疲れましたよそりゃ、なんなんだよマジで勘違いジジイがよお。若い子が好きなのは結構だが犯罪に手を染めようとすんなボケ……などと、しばし呻いてからふと。
     俺の頭を撫でる手はそのままに、三日月が沈黙してしまったことに気付いて戦慄した。
    「あ、いやいやいやいや念のため言うけど違うからな!? ジジイってのは下心で若い子に近付いて、あわよくば自分のものにってするようなやべえやつって意味だからな! お前のことじゃない!」
     疲れすぎて配慮に回せる頭が残っていなかった、と言えばそこまでだがとてもまずい。怒りはしないにせよ悲しませてしまったかもしれない、と慌てて顔を上げ――ようとして。
    「ひ、違……ごめんなさ、違くて……!」
     無言のまま、引き寄せられて三日月の胸元に顔が埋まる。あっやべ、このまま殺されるかもと背筋が凍った。勉強して辞世の句とか詠めるようになっとくべきだったか、いやでも筆記用具ないしどっちにしろだな……!?
    「……そうだな、人間のそれは生殖の都合もあるからなあ。年若い者が好まれやすいとは聞いていたが、やはり、じじいは嫌か」
     ん?
     あれなんかおかしい。突然緩くなった拘束から逃れ、まっすぐに見つめてみればしょげているようにも見える。つい数秒前まで感じていた、冷たく鋭利な死の香りは今やどこにもなく――むしろ。
    「えっ待っ……なんか口説かれてるように、聞こえるんだけど……?」
    「口説いているつもりだが」
    「えっ?」
    「……気付いていなかったのか?」
     えっかわいい、なんか拗ねてる。普段の超然とした態度はどこへやら――というか全て計算ずくの可能性もあるが、つまるところ好きだと言われて、いる?
    「……下心、あるのか?」
    「ある」
    「例えば」
    「主の言葉を借りるなら、あわよくば俺のものに、と思っている」
    「えぇ……?」
     さすがに実感がない。頭の隅では「ある意味では下心ジジイより厄介な存在じゃねえの?」とか「からかわれてるだけでは……」とか懸念点が次から次と浮かんでくるものの……嫌悪感は、ない。
    「……えっ、と」
     手を伸ばす。俺の頭から離れ、行き場を失っていた三日月の右手を握り込んだ。
    「先に言っておくと……その、今までそのつもりで接してたわけじゃないのは、そう、なんだけど」
     だって妹も言っていた。そんなつもりじゃなかったんだけどね、と眉を下げた彼女に心底同情したつもりだったし、俺の妹に何しやがる勘違いジジイめ、と確かにその時は思ったはずなのだ。
    「けど……いいのかよ、俺で……」
     返事はない。けれど握り返された手のあたたかさが――染まる頬が、細められる目が、ゆるく弧を描く唇が。あまりにも分かりやすく歓喜を語っていて、ああ、俺は。
     ……先ほどまでは快適と思っていたはずの室温が、ぎゅっと上がったような錯覚。同時に年齢差という概念も、三桁を超えるともう色々違う話になってくるんだな、という謎の学びを得る。
     あと素直に、自分のことを好きな美人に迫られると人間は、落ちる!
    「先に乞うたのは俺だ。だが主もまた、同じであるならば……これ以上に嬉しいことはないな。
     ……俺の名を、呼んでくれるか?」
    「み、三日月……? それとも宗近?」
    「はっはっは、好きな方で呼んでくれ。なあ主、できることなら俺にも……その名を呼ばせてはもらえないか」
    「え、あ……俺の、名前は……」
     ……あっ。
    「名は?」
    「……今真名握ろうとしただろ」
     某お利口なうさちゃんもびっくりな勢いで口をつぐむ。浮ついた雰囲気に流されて、うっかり言ってしまうところだった。
    「はっはっは、危機管理能力が高いのはいいことだな。名字くらいならと思ったが叶わないか」
    「やですー! 妹の名前でもあるんだし俺一人の命じゃねえ!」
    「そうか、そうだな。まあそこは追い追い、だな」
     あくまで鷹揚に笑いながら、けれど獲物に狙いを定めた猛禽類のような目を隠そうともしない。やっぱり色々駄目だったんじゃないだろうか、という後悔は確かにある。けれどまた、俺の頭を撫で始めた手を心地いいと思ってしまう時点で。やっぱりどうしようもなかった気がして、窓の向こうに目をやった。
     夜空に浮かぶ輝きは、未だ衰えることを知らない。手の届く方の眩さが、また声を上げて笑っている。
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