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    shichika7532

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    shichika7532

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    男審神者×大慶。なんか湿っぽい。
    少年~青年くらいの時期、癖です

    「主、あーるじー!」
    「うわぁっ!?」
     とたとた、と廊下を駆ける軽い足音に、やって来たのが短刀だと思ったのがいけなかった。なんなら俺に追いついて止まり、落ち着いて話をしてくれるものだと思っていたのもいけない。振り向く間もなく飛びつかれ、なんとか転ばずに受け止めた辺りで──俺はようやく、声の主の正体を悟った。
    「なんだ、大慶かあ……びっくりしたなあ。それでどうしたの、遊んでほしいとか?」
    「むぎゅー! ちがーう!」
    「違うの? なに、俺と話したかった?」
    「せいかーい! とゆーわけでー、主の部屋まで連れてってー!」
     うーん、声が大きい。廊下で話すのは周りの邪魔になるとか、そういう意図があって言っているのだろうが……時と場合によってはあらぬ誤解を招きそうだ。
    「……だめだよ大慶、気軽にそういうこと言うのは。俺は違うって分かってるからいいけど、他の誰かには誤解されちゃうかもよ?」
    「およ? 誤解ってー?」
    「えっと……その、たとえば……これは最悪の場合だけど、えっちなことへのお誘いをされてるかも!? って思うやつもいるかもって話」
    「……Hすいそなこと……!?」
    「うんまあそう言うと思ってたよ! 違います!」
     なんかもうツッコむのつかれた。邪気のない笑顔と小動物のような挙動、加えて自分と同じような年頃、に見える姿。それらのせいで妙に世話を焼きたくなってしまうというか、目を離せないと思っているのは否定できない。けれど多分、今見えている「それ」が全てではないのだろうな、とも思うのだ。
    「……大慶は、さあ」
    「んー?」
     さらさらの髪を撫でて、ブレることのない瞳を見つめ返す。いつか望遠鏡の向こうに見た、天体の輝きがそこにあるような気さえして──「ほんとは全部、分かってるんじゃないの」なんて。
     苦笑と共に落ちたその言葉が、何を示しているのかはあえてぼかしたつもりだったのに。「俺はねえ、手を伸ばしてるだけなんだよ」なんてうれしそうに語られてしまってはどうしようもない。
    「知識とその探求には終わりがないんだ。生きてまだ『知りたい』ってその先を求め続ける誰かがいるなら、『最新』はいつだって更新され続ける。だから俺も、こうして動けて手があって、自分の脚で走れるうちは求め続けるつもりだよ」
     うたうように言いながら、袖に隠れていた手がぎゅう、と俺の手を握る。
    「だってねえ、一度得た知識はアップデートしないとどんどん古くなっちゃうしさー? 主も最近、どんどん背が伸びてくから……もうそろそろ、俺も抜かされちゃうだろうなって思ってるとこだし!」
     その大振りな動作は、無邪気に「にっししー」と笑うさまは、この平凡な主に対する彼なりの信愛表現なのではないか、なんて思うのは自惚れすぎているだろうか。本当は老成した思考すら抱えて、けれどこんな若輩者と並ぶことを楽しいとすら思っていそうなその笑顔が好きだ。
    「主は手と足がおっきいから、きっともっと伸びるだろうねー。いつか俺のこと、肩車とかできるくらいにならないかなー!」
    「あはは、頑張るけど期待しすぎないでね……」
     できればもう、あまり伸びないでいてくれと思っているのは隠しておこう。こうして並んで歩くのに、歩幅がズレてしまうのも──視線の高さが変わってしまうのも、なんだかあんまり嬉しくないや、なんて。
     言うつもりはない。なんならこの感情も、死ぬまで隠し通すことになるだろう。それでいい、それでいいんだ。

     ちょうど日の当たる時間帯だからと、お望み通り部屋に通してやれば「あったかーい!」と畳の上に転がり始める。その隣に寝転んで、「少ししたら起こして」と瞼を閉じれば「おっけー」と少しだけ舌足らずな声が降った。
     ぎゅう、とまた手を握り込まれる。鋼を自称する彼の手があたたかいことが妙に切なかった。こんなにも人と似ているのに、君はいつまでも老いることのないかみさまだ。


     すう、と呼吸が深くなる。主が眠りに落ちたのだろう。
     握っていた手を起こさない程度に、けれど離さないようにまた握り直す。既に俺よりも大きくて、けれど武器を握ることはないいとおしい手だ。
    「……Oさんそなんか糧にするから、じわじわ錆びてっちゃうのになー」
     そうして零れた己の声が、思った以上に湿っぽいのは気付かないふりをした。人も鋼もその点で言えば、あんまり変わらないのかもしれないな、なんて。
     らしくもない感傷と共に目を閉じる。鋼を溶かすどころか湯も沸かせない程度の体温が、今の俺にはどうしようもなく──なんならちょっとさみしいくらい、心地よくて手放しがたいものらしかった。
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