「あー鶴丸、ちょうどよかった。これ実家から届いたんだが、中身の整理手伝ってほしいんだわ」
言われて顔を上げた先、示されたのはいくつかの段ボール箱だった。
「どうしたんだいこれ、どこから?」
「俺の実家から……ってこら、もう宛名シールは剥がしてあるっつの。探るなら中身にしてくれ中身に」
「つまらんなあ……そこはうっかり真名を明かす流れだっただろうに」
「どんな流れだよ。そもそも一度政府の方に届くんだから、そっちで処理されてるに決まってるだろ」
相変わらずだなあお前も、と肩をすくめつつ、主が俺の前に置いたのは「おもちゃ類」と書かれた箱だ。聞けば実家で大掃除をしたらしく、行き場のなくなった主の私物が全て送られてきたらしい。
「取りに行ってもよかったんだが、なんだかんだで行けないままだったから痺れ切らしたんだろ。ただ俺、そもそも片付け得意な方じゃないからさあ……」
「それで手伝ってくれと?」
「そう、他の箱は自分で片付けられるもんばっかだけど……好きで集めてたものとかはさ、うわ懐かしい! になっちまって一人じゃ片付かねえのが目に見えてる」
そういうものだろうか。だが箱を開け、中を覗き込んだ途端主の目の色が変わる。
「うっわ、これ残ってたのかー! そういやあったなあこんなの、うわあ懐かしい……!」
「……どこかで見たな、いつかきみが見せてくれた……覆面セイバーだったか……?」
「違うけどまあ大体そう、主人公が使ってる武器と変身ベルトのおもちゃってわけだ。うわほんっとに懐かしい……まだ動くかなこれ……!?」
新品の雰囲気こそとうにないが、目立つ変色や破損がないそれらは、いつかの主に大切に扱われていた証だろう。いつになく楽しそうな主を見ると、こちらの頬まで緩んでくるようだった。
「あ、電池抜いててくれたんかな? 入ってないし液漏れした様子もない……つまり入れれば動く可能性……!」
元より成人男性の体格を想定して作られているようで、様々な機構があるらしいベルトは主の腹周りにしっくりと馴染んでいる。異国の剣をモチーフにしたらしい武器もまた、俺たちが本体を持った時のように振り回しやすい長さなのだろう。政府から配布されている審神者衣装と組み合わせるにはいささか奇抜だが、わざわざ指摘して水を差すつもりはない。
「はは、まるで幼子のようだなあ」
「少年の純真さを忘れてないと言ってくれ」
「けなしているわけじゃないさ、だがその調子だと片付かんぞ?」
「あっそうじゃん、ありがとう止めてくれて」
照れ隠しなのか咳払いと共に、座り直した主が「けど、よかった」と。その言葉が意味するところは大方予想がつくものの、そ知らぬふりで「何がだ?」と聞き返す白々しさに自分でも笑えてしまう。
「いやまあ、そもそも俺が戦ってるわけじゃないからそうなんだけど……刀としてはさ、主が自分以外の武器、っぽいものを振り回してるのってあんまり気分よくないのかもなって一瞬心配になった」
「まあ、俺たちは自分で自分を振り回しているからなあ。きみを戦場に立たせないために肉の身体を得たわけだし、そこは割り切っているさ」
「よかったー、なら安心だ」
「だが目移りはするなよ、さすがの俺でも泣いてしまうぞ?」
「当たり前だろー。そんじゃあ他にも色々あるから、同じ流れになったら頼むな?」
そうして取り出されるたび、懐かしい、だのかっこいい、だの言われながら撫でられているそれらに、思うところがないわけではない。けれど、と触れた樹脂の刀身に、浮かぶのはむしろほの暗い歓喜だ。
いくら大切にされようと、これらが百年の時を耐えることはない。ならば主を守るどころか、言葉すら口にできぬまま朽ちていくであろうものに妬くなんて、なあ?