「あなたが好きです。好き。今さら、遅いかもしれないけど。ごめんなさい。好きなんです。もう一度だけ、隣にいさせてください。それで俺のこと嫌いなままだったら、諦めます。だから、お願いです。俺に、チャンスをくださいっ……」
ぼろぼろと涙を流して、肩を震わせて。嗚咽混じりに、必死に言葉を絞り出して。ぎゅう、と、普段より小さく見えるその姿を、腕の中に閉じ込めた。
「あなたのことを、教えてくれてありがとう。好きという言葉も、とても嬉しいです。それから、誤解をしているようなので訂正を。僕は、あなたを嫌ってはいません」
「うそ……」
と、弱々しい否定の声。
「だって、怒った……」
「ええ、怒りました。怒っただけです。でも、僕も感情をどう処理すればいいのかわからなくて、結果的にあなたを苦しめてしまいました。喧嘩なんてしたことがなくて、どうやって謝ればいいか悩んでいる間に、無駄にあなたを悲しませてしまった。難しく考えずに、ただ謝って、どうしてそう言ったのか説明すれば、きっとあなたは許してくれたのに」
「違う。俺が、俺が何も話してなくて、ハインライン大尉を不安にさせたから。だから、全部俺が悪いんです」
しゃくり上げて泣く背中をそっと撫でる。
「ねえ、ノイマン大尉。僕とあなたと、どちらが悪かったかを決めたいんじゃないんです。僕もあなたも、どちらも悪かった。二人とも、言葉が足りていなかった。それで終わりにしませんか。悲しい涙は出し切ってしまってください。そしたら二人で謝って、仲直りして、次の話をしましょう」
ぎゅっと、僕の背中が握り返される。小さく震えた、「はい」という声が響いた。
✴✴✴
「痛みますか?」
「少しヒリヒリするけど、平気です」
赤くなったノイマン大尉の目の下に触れようとした手を、慌てて引っ込めた。つい、いつもの癖で触るところだった。
「ハインライン大尉。俺、あなたをいつも不安にさせてしまって、そのうえ、あなた自身も傷つけることを言わせてしまいました。ごめんなさい」
「僕の方こそ、どうしてあなたがそんな行動をするのか知ろうともせず、どうして欲しいのか伝えもせずに、感情のままに怒鳴ってしまいました。ごめんなさい」
「これで、仲直りできましたか?」
「ええ」
少し不安気だった翡翠の瞳に、安堵の色が浮かぶ。
「言葉がなくても、あなたと過ごす時間は心地よかった。でも、言葉がなくても心が通じるのは、言葉を尽くした後なのでしょうね。僕達には、それが足りなかった」
「はい。俺、いつも大事なことを伝えていませんでした。だから、これからはちゃんと言いますね」
そう言うと、ノイマン大尉は僕の手を取って彼の頬に添えた。
「さっき、触ろうとしたでしょう?」
「触れると、痛むのでは」
「大丈夫。俺、あなんたに触られるの好きなんです。だから、触って」
親指の腹で目元に触れて、頬を撫でて。片手では足りずに両手で包みこんで。温かい。この温もりを手放すことなど、僕は、もう。
「ハインライン大尉?どうしたんです?」
「申し訳ありません。ただ、あなたとまたこうして過ごせるのが嬉しくて。チャンドラ中尉に感謝しなくてはいけませんね」
ああ、彼に泣き顔など晒したくなかったのに。視界がぼやけて、美しい翡翠が見えない。触れる輪郭が、これが夢ではないと教えてくれた。
✴✴✴
「で、あんたらの復縁と俺の好みと、なんの関係があるんです?」
「チャンドラ中尉には大変お世話になりましたので。話し合いが上手くいった暁には、女性を紹介してほしいと仰っていたではありませんか」
「そんなん冗談に決まってるでしょ!二人して真面目なボケとかやめてほしいんですけど!?」