まずこの世界線の説明をさせてください🙇♀️🙇♀️🙇♀️
イーヴランドさん、スウェーデン人じゃなくて祖国が消え去った(非公式wikiより)なら、イーヴランドが祖国の国名で、本人めっちゃ地位高いんじゃねえのか説です。
そう考えたら🖋自身が自分の国を滅ぼした可能性があるのでは?もしそうだとしたら🔪の存在とかめちゃくちゃ辻褄合う気が。
🖋って人一倍恐怖を毛嫌いしてそうで、いちばん生きたがりで、いちばん誰も自分の心の内側に入って来させない強固なバリアを張ってると思う。
それが破られそうになった時、🔪が出てきて反撃するよなっていう考察したんだけど、私の幻覚で🖋は国を一個滅ぼしたわけだが、(強火)それは🖋の防衛反応が過剰に働きすぎた結果なんじゃないかと。🖋は良かれと思ってやっていた事が実は国民を傷つけていて、それに気づいた🖋が罪悪感や自分への憎悪に気が狂いそうになった時🔪が生まれて、「ならコイツらを消し去れはお前は楽になる。それでいいじゃないか」っつって国滅ぼした(強火)
んで気づいたら祖国が消えてて(その記憶はない)
自分はトリップしていてパソコンの前に立っていたと...
そこでさらに恐ろしいことを思いついた
🖋は現代に来るまで妄想に囚われていて本の中で生きていた......私の幻覚の世界線だと本の中の国を滅ぼした感じかな、本の中に出てきた国が本物の祖国だけど身体はスウェーデンにずっと居た、みたいな.......(だからスウェーデン語が使える?)
🔪はその幻覚の中で生きていた自分で、祖国のことを忘れたと同時に🔪の事も忘れて現代にトリップした感じ...
だから、誰も🖋の小説を読んだことが無いのはそもそも彼の母国語が消滅していて今は存在しないから。彼はEvelandで小説を書いていたから、彼が書いた小説は国と共に滅びてるはず。
この考察(と言う名の幻覚)を元に小説をメモ代わりに書きました。いつか漫画にしたい🕺
《本文↓↓↓》
これは今は存在しない伝説の国のお話。
アイクは孤児だった。亡くなった両親のことは何も覚えていない。何故なら氷と雪に閉ざされた貧しい国の生まれだったアイクは、国民が満足に食べていけないほどの環境で産まれたため、親はアイクを産んですぐに栄養失調で亡くなったからだ。
彼は孤児院に引き取られた。たくさんの子供がいる中で育ったにもかかわらず、彼はコミュニュケーションが苦手だった。自分の主張を上手くすることが出来ず、かといって特に守りたいものがあるわけでも無かった。
彼は孤児院から得意の影の薄さで度々抜け出しては、マーケットに足を運んだ。彼の信頼している唯一の人は、マーケットで出会った本屋の店員であるおじいさんだった。彼は幼いアイクにたくさんの童話を紹介し、アイクはその本屋に入り浸っては長い間本を読んだ。
彼は本の中に無限の可能性を見いだしていた。本の中でだけ、どんな英雄にもどんな悪役にも、どんな年齢や国籍の人にもなれた。その間だけは過酷な日常生活と孤児院の子供たちからの軽蔑の視線を忘れることが出来た。
彼は自分の世界を築きたかった。それは一種の自己防衛だった。
数百万人を魅了する可能性のある強力な物語。
それらを伝える方法は幾つかあるけれど、物語を語る最も古い形式の1つは紙に字を書いたもの。彼は言葉がはるか昔からずっと伝わっているように、いつか自分の言葉がこれから先の未来に伝わるはずだとそう信じて机に向かった。
彼の日常生活は苦痛にまみれていた。決して十分とは言えない量の食事、古くなってまともに暖も取れない孤児院の建物、度々降りかかる他の孤児たちからの暴力や差別、大人からの軽々しい扱いのそれぞれに、文字を書くことで彼は耐えていた。
彼の好きなファンタジーの物語が綴られた原稿が257枚になったその日、彼はある裕福な家庭に引き取られることになった。その夫婦は孤児院の中で1番頭がよく、大人しい子を、という事でアイクが選ばれたのだが、院長から紹介されその夫婦に初めて会った途端、その夫婦は彼の眼差しの奥に暗い何かを見た。
孤児院からアイクが出ていった時、子供たちはあの協調性のない奴が出ていってくれてせいせいした、と思っていた。
アイクの暮らしは一変した。決して豪邸と言えるような大きな家ではなかったけれど、少なくとも、あたたかい家で、十分な食事と、綺麗なペンと、たくさんのインクと原稿用紙が用意されていた。
アイクの養父と養母は1番裕福な人たちの1人だった。その2人は工場で人々を雇いながら働いていた。子供に恵まれなかったため、お金を貯めて十分に子供を養える時が来たら、孤児を招いて育てようと決めていたようだった。
アイクの国の国王はあまり良い政治家ではなかった。王は自分だけを棚に上げ国民は粗末な扱いをしていた。この国が貧しいのは、いや貧しくなったのは、国王による不当なお金の使い方や政治や国交、厳しい課税によるもので、その不満は国民、更に言うと聖職者達や労働者達の中で年々高まっていた。
国王が新たな課税を公布すると公言したその日、養父は同じ労働階級の裕福な人々のコミュニティの中で、大袈裟に言えば改革を企てていた。
そしてその大袈裟は現実になった。アイクは街が焼けるのを見た。降りかかる吹雪が炎で溶け灰と混ざり合いぐちゃぐちゃになっていた。かつて足を運んだあのマーケットは全部焼けた。国王があっさり捉えられた後、貴族階級を剥奪され労働者に落された者たちがその首を跳ねた。
アイクはその時、養父はかつて貴族で、国王の血縁者だった事を知った。
改革を先導した養父は周りの人々に英雄扱いをされ、次の国王に就くことを強く勧められるようになった。アイクはこの国が、少なくともあの孤児院の子供たちが少しでも幸せになれるなら、と思っていた。
アイクの養父の苗字はイーヴランドだった。名もない小さな国が、イーヴランドという名前になった。
イーヴランドは豊かになった。国民中心の活発な政治が行われるようになった。養父は自らを国王と言いつつその実は国民のために身を粉にして働く犠牲者だった。
養父は養母と共に国を建て直した。強い人だった。
ある日、養母が重い病気に倒れてしまった。
養父は国中の教会で祈祷を行った。養母の体調は何かに取り憑かれたのかと思われるほど日に日に悪くなっていった。
1年がたち、養母は不自然な亡くなり方であの世へ去っていった。ただ死に方なぞ養父にとってはどうでも良く、それよりも妻が亡くなった悲しみにくれ、公務がまともにこなせなくなっていた。その頃にはアイクも政治というものがよく分かっていたから、若年ながら国王代理として公務を捌くことが増えていった。
養父も若くはなかった。養母が亡くなったこともあり、心身共に酷く弱り、狂ってしまっていた。
アイクは成人になろうとしていた。その頃にはファンタジーはもちろん、長編のミステリやサスペンスを書いていた。ただ文明の遅れた国だったため書籍が出版できる程の印刷会社はなかったし、アイク自身も本にして世の中に売り出すつもりはなかった。いや、今の自分は王族で、庶民のように娯楽を楽しむ趣味などレッテルにそぐわなかったからだ。
アイクは幼い頃から変わらず隣国の書籍をたくさん読んでいた。前国王のせいで交流が絶たれていたが、この国にも隣国と同じ神話が伝承されているようだった。
アイクはたちまち神話の本が好きになった。この世の成り立ち、この世界の仕組み、神々の華やかな生活の話に浸った。
やがて養父は自らの身体を破滅させてしまった。アイクは望まずとも国王の地位に押し上げられた。
アイクは暖かい家庭を失い、再び孤独になった。
否、元から孤独だったのかもしれないが。
養父はアイクが養子であることを国民たちには言っていなかった。ただ国民の中にはもちろん怪しむ者もいた。養父の友人たちはその事を知っていたし、何より孤児院を出て成人した子達も知っていた。この事が公になった場合、どうなるか───そう考えると生い立ちは隠し通さなければいけないと本気でそう思っていた。
アイクは王位を継いだ日、本当に嫌なことになったと思った。少なくとも今までのように小説を書いてその世界に逃げ込むことはできなくなってしまった。
アイクの心境に何が起ころうと今も昔も変わらず外はしきりに吹雪いている。長く凍結した街が音もなくひっそりとただ佇んでいる。
アイクが国を継いで5年目。アイクの人生に本当の悲劇が起きた。
隣国の国交が破綻したのだ。その国は財政難に陥っていたが、利益のため変更を行わずに国益を行った結果、隣国はどの国とも貿易をできなくなってしまった。アイクの国は赤字になった。アイクはこういう時どうしたらいいか知らなかった。でもこのままでは収益が極端に減少した国民の中で暴動が起きるだろうというのは想像に難くなかった。ましてや今政策を変える様なことをすれば、前のように国王が───今度はアイクが殺される。この国は父と母が建て直したとはいえ、まだ立ち直って間もない脆い国なのだ。
ある時からアイクが本当は王族ではないらしい事が国内で噂になった。
かつて貴族だった養父が国王に即位した時も少なからず不満を抱く者はいたけれど、何より極悪非道な元国王に妻子が居なかったことと、この国を平和に導いた事で目を瞑っていただけだった。ただアイクは違う。肉親のいない孤児が元貴族に拾われて挙句の果て国王になった…そんな冗談があるものか。今までアイクを実の子だと、本当の事を隠していた養父を嫌悪する声も上がった。その声は次第に大きくなり事実とは違う噂も絶えなかった。例えば、本当はあの革命はアイクが国王になるために養父を誑かした…とか。
アイクは血縁を重視する人たちから嫌がらせをされるようになった。その噂を信じていない人もいたけれど、流れは変わる事がなかった。
アイクが悩んでいる間、やはりこの国は同じ事を繰り返した。
城でアイクに仕える者たちの中に、養父を酷く慕っていた貴族の末裔がいた。ついに彼からの裏切りを受けることとなった。
アイクはもうどうしようもないと思った。アイクは優しすぎた。そういう者たちを裏切り者と呼び断頭台に持っていく事はできなかった。その日、元貴族たちがアイクを国王の座から引き摺り落とそう、あわよくば首を落とし我自身が国王に代わってやろうと城になだれ込んだ。
気づいた時には国中がその渦に飲み込まれていた。
アイクに逃げ場はなかった。
アイクはついに抵抗できず襲われた。頭から血が流れ、視界が真っ赤に染まり、耳鳴りが聴覚を支配する。
城のポーチに飛び出すと、怒りに湧き上がった国民たちが城の前を埋め尽くしていた______
「死ね!」
「誰のせいでこんな不幸を味わっていると思ってんだ!」
「お前なんか王族じゃない!ここから出ていけ!」
「ちがう……ちがう………………僕は…僕はただ……………みんなに、幸せになって欲しいだけなんだ…………」
「殺しちまえ!」
「お前の父の方がまだマシだったぞ!」
「ちがう…ちがう…!」
ぼくは…僕は、どこで間違えたの…!
いや。そうじゃないだろ。僕が、僕が全部悪いんだ…………!僕のせいで………!僕が、僕が無能だから………!
「滑稽だな、イーヴランド」
意識空間の中……どこまでも白い地平が広がっている。周りには何もない。ここは、どこだ………声の主を探すと、まるで僕と瓜二つの、赤い服を着た青年が立っていた。
「だれ…同じ顔…僕…?」
「お前が命をかけて守りたかった国の末路がこれ
か」
彼は僕の事を見下ろした。同じ姿形の筈なのに、彼の方が大きく見えた。
「もうお前の国は終わろうとしている」
僕は血を拭って、掠れた声を絞り出した。
「いいんだ…もし僕が死んだあと、誰かが継いで、みんなが納得できて、またこの国が平和になれば、それでいいんだ…………」
彼は高いヒールを鳴らしながら近づいてきた。
「そう?でもそれは困るなあ…それを意味するのは、つまり君が処刑されるって事だろ?」
僕は目を剥いた。
「なんで…!もう、これ以上僕に何を求めるの…!」
「ふふ、言い忘れたね。君は俺で俺は君なんだ………つまりね、君に死なれたら………困るんだよね」
「………!」
「いい顔だ………君の人生、ずぅっとそばで見てきたんだよ………。君はこの国の国民を愛しているけど、国民は君の事を愛していない…そうだね?……」
彼はゆっくりと低い声で言った。
「ならコイツらを消し去れはお前は楽になる。それでいいじゃないか」
「何を…!」
「しー。まだ終わってない。君は生まれた時から孤独だった。誰にも愛されていなかった。親はすぐに死んだね。いやでも待って。本当に死んだのかなあ?死んだと見せかけて、幼い君を、孤児院の前に捨てたのかもしれないよ」
僕は手が震えるのがわかった。目の前の男は、僕の影か何かかと思ったけど、違う。彼は悪魔だ。死神だ。神の使いの類だ。
「…………黙れ」
「ふふ、不機嫌だね、アイク…まだ続きがあるんだ。聞いてくれよ…アイク、君の養母は、本当に病気だったのかな?」
「は?」
僕は呆気にとられた。
彼は両手を天に向かって広げた。
「君の父は、本当に自殺だったのかな…?そう、俺はぜぇんぶ知ってる。なんでかって?君の育ての父と母は、殺されたんだ…!他でもない、君自身に…!」
「………っうそだ!何を出鱈目な事を言うんだ!お母さんは…確かに病気だった!僕じゃない!なんで僕が殺した事になるんだ!それにお父さんだって…僕は見た!お父さんが僕に別れを告げて…部屋に入った後…!」
「動揺してるね。まあ落ち着けよ。アイク…正確に言えば、殺したのは君じゃあない。俺だ…義母は一年かけて毒漬けにして最後は刺し殺した。義父は物分りがいいから…何かを察したんだろうな。お前を殺す計画を立てていたんだ。だから代わりに俺が刺殺をお見舞いしてやった。」
彼は小さくため息をついて俯いた。だがその口元は笑っていた。
「お前の養父と養母は善人じゃなかった。最初から、君を孤児院から貰った時から、国を焼いて国王を殺して……全部彼らの計画だった。もっとも、これはお前じゃないといけなかった理由があったからだ。それは、お前が…あの改革で殺された先代国王の隠し子だということ」
「あああああ!黙って………!あたまが、おかしい……狂ってる………!なんだ………?じゃあ、僕は今まで、ぜんぶ、全部、全部!騙されていたってことなの!?」
「………そうだね。ふふ……彼らは貴族だった時、先代国王の反対勢力だったんだ…幼い君は何も知らなかった。それが大人達にとっては都合が良かったんだな。そして彼らは血縁である君を国王に押し上げて、国民をなぶった罪を着せて、魔女狩りのように大勢の人々の前で処刑する………その前に、国王の遺したありったけの財産を抱えて裕福な暮らしを謳歌する事まで視野に入れて……ただまさか、君の内側に俺みたいな人間が住んでいる事を知らなかったらしい…。まったく、脳がないよね。俺がナイフを翻して彼らを刺した時、ああ…どんなに強張った表情だったか…!君に見せてやりたいものだったね…!」
身体中が強ばっている。強く握りしめた掌から血が流れている。呼吸は荒く、喉が焼けるように痛い。
「おまえは…………!僕の大事なものを何から何まで………!」
彼は細めていた目を見開いた。
「ふふ、そうだ……だって周りの人間達はお前を利用しようとしたんだ。この命までも駒にしてね!俺がそんな事を許すとでも?許すわけがない!この体はお前と俺のものであって他の誰のものでもないからだ!………俺は優しい。俺は優しいから、目が覚めた時血だらけの服だといけないだろう?全部俺が綺麗に片付けていたんだ………感謝してね」
「…………死んでよ」
「ふ、それは無理な要求だね。だってそのためには君が死なないとなんだよ。死にたくないでしょ?アイク・イーヴランド。君はずっと死と孤独を恐れて生きてきた!」
「うるさいなあ……!もう何だっていい!消えろ……!」
「………言ったね。その顔に免じて、国ごと焼いてあげるよ。」
僕はその声を最後まで聞く事なく意識を失った。
「お前の言葉も民も故郷も小説も全部!」
やめて。もう、僕から何も奪わないで。僕はただ、紙の上に綺麗な万年筆でインクを滑らせて、真っ白いキャンバスの中に作った自分の世界で生きていければそれでよかったんだ。
それ以上は何も望んでなんかいなかった。本当に、いらなかったんだ。僕にはあのおじいさんがくれた外国の古い童話と、何百枚も積み上げた小説の原稿しかなかったんだ。
「………アイクはもういないよ」
俺は自身の変わり果てた姿に唖然とする国民…じゃない。暴徒達に向けて言い放った。
「俺はエキ・イーヴランド。以後お見知りおきを。まあ、もう会うことはないと思うけどね。」
小さな小さな国ひとつ、俺の力で潰すくらいなんて事なかった。
まあ、みんな忘れてるみたいだけど古くから神話を信仰する国の王族の末裔で。そりゃ元を辿れば神の子っていう伝承はあるし、その証拠に嘘みたいだけどヨルムンガンドとか、クラーケンみたいな力は持っていたから。この内包された力がなんなのかは知らない。俺みたいな存在は、その概念や形式に型をはめ込めない。言わばこの世界のバグだから。
町は赤い雪と氷の海に飲み込まれた。人々に逃げ場はない。悲鳴、罵声、号哭……
「あはははは!そう……!これで、これでいいんだ!そうすればアイクは楽になれるよ……!」
つまりは保身のためだ。アイクに死なれたら困る。彼にはずうっとずうっと、生きて貰わなくてはならない。その心臓を必死に拍動させながら、孤独な氷の檻に閉じ込められていなくてはならない。そうでなければ、彼は自ら最後の1歩を踏み出してしまうから。
真っ赤な血に塗れた顔が凍結した湖にうつった。
その顔は笑っている。口元が歪んで、震えている。左目は傷口のせいで開かない。ああ、終わったんだ。良かった。よかった……
もう入れ替わってもいいかな。そろそろアイクを起こそうかな。
いや、辞めておこう。先に城に戻ろう。話はそれからだ。
俺は、彼の書いた、小説を、まだ……燃やしていない……
彼の書斎は一連の事件でぐちゃぐちゃに荒らされていた。あらゆる所に死体が転がっている。彼が大切に綺麗に並べていた大量のビンテージ物の書籍がズタズタに裂かれて地面に落ちていた。机の上はインクの小瓶が倒れて中身がぶちまけられていた。かつて机の上にまるで山のように聳えていた凄まじい量の原稿用紙はそこら中に散乱していて、もはやどれとどれが物語として繋がっているのか分からなくなっている。
「あれ……なんで……僕はここに」
目が覚めると書斎の椅子に座っていた。手のひらには真っ赤な鮮血が乾いて残っていたが、アイクにはそれをなんとも思わなかった。かつてのアイクだったら自分の手に鮮血が付くこと自体を酷く怖がるだろうが。
ああ、僕の小説を燃やすって言ってたけどすんでのところで入れ替わったから原稿用紙だけは残ったんだ。良かった……
続きを書こう、たとえ僕しか残っていなくてもいい、僕だけがこの場所で小説を書きながらひっそり生きて行ければいい。
本当に、本当にそれ以外は何もいらないんだ……
机に向かって震える手でペンを握る。
転がった瓶の中に残っていたなけなしのインクをつけて、適当な紙に試し書きをしたあと、辛うじて汚れずに済んだ紙に向かって文字を書き始めた。
この言語を使えるのはこの世でもう僕しかいない。この言葉を読み返せるのはもう僕しかいない。
もし僕がこの世界で生き続けられたら、ふと思い出した日にこの小説を読み返すんだ。
その日まで、この愛すべき言葉たちの意味を忘れないように……
その時、手が痙攣した。僕は気絶した。もう自分自身の体の中にも体力は残ってなかったんだ。なんなら頭から出血だってしている。いつ死んでもおかしくない状況だった。
足音。
「誰……」
「俺だよ」
「また君?今度はなんの用なの」
「こちらのセリフだな。なんでここに来れたんだ?ここは俺しか入れない場所の筈だけど?」
辺りを見渡した。おかしい。さっきまで書斎にいたのに───今は知らない駅のホームにいる。所々落書きが施されていて、白い紙がヒラヒラと宙を舞っている。何が書いてあるのかは分からないけれど、見覚えのある字だったのは確かだ。
この駅はなんだかこの世では無いもののような雰囲気がある。そう、荒野と化したあの故郷のような───
「お前には今まであったことの全てを忘れてもらう」
「えっ?」
「ここに来たからにはその覚悟があるんだろ?お前自身が何故ここに来たのか思い出せないなら、それはお前の本能がここまでお前の足を動かしたんだと思え」
「やだ……忘れたくない……」
僕と同じ顔をした青年は眉を寄せて盛大なため息を吐いた。
「お前はどこまでわがままなんだ」
「わがままなんかじゃない!今迄の記憶は全部忘れてはいけないんだ……僕の文字も、言葉も、小説も……!」
「うるさいなあ。俺に殺されたくないならとにかくここから出てってくれる?……ほら……出口はあっちだよ。」
「やめて……!」
───雨だ。 雨が僕の頬を濡らしてる。
僕は起き上がってまず自分の目を疑った。多分ここは死後だ。そうじゃなかったらおかしい。土ではなく、灰色の硬いものが地面を覆っている。3色のランプが並んでその下を鉄の塊が勢いよくすり抜けていく。周りにはたくさんの高いガラスの建物が聳えていて、雨を反射して輝いている。そして何より行き交う人々が不思議な顔をして僕の事を見ている。
なんだ?何が起きてる?ここはどこ?僕は……死んだの?
彼の頭からは血が出ていない。手に血糊が付いていない。何より服が汚れていない。悲劇が始まる前のままの姿だ。
彼は路地裏の暗い場所を目掛けて走り始めた。
「わからない……僕が誰で、どこから来て、なんでこうなってるのか、ひとつも思い出せない……」
路地裏を進むと、突き当たりにゴミ箱を漁る真っ黒な猫がいた。
「……君も、僕みたいだね」
猫はこちらを振り返ると足早に駆けて行ってしまった。
僕はその場に座り込んで考え始めた。
「これからどうしよう……状況が呑み込めないな……」
記憶を呼び起こそうとする。たとえば、僕の出自は?僕の生まれた場所は?僕の両親の顔は?自分に問いかける度、白いモヤがかかったかのように思考が遮断される。
「……今は諦めた方がいいみたいだね」
その場に座り込む。
雨水がシャツを貫通して肌を濡らし、身体の熱を徐々に奪っていった。
青年がゆっくりと本を閉じた。
「……さて、ご清聴ありがとう。ここまで如何だったかな?楽しんでくれた?」
沈黙。
「……ああ、この本が何か気になる?君はさっきから聞くことに夢中で、目を瞑って、頭の中で情景を思い浮かべることに必死だったからね。これは俺が語った物語じゃあない……この本、いや小説を朗読しただけだよ。俺が君に本を開いて読んで聞かせる迄の描写が無かったじゃないかって?叙述トリックだよ。」
彼は口元を歪めた。本の背を指先でなぞる。
「この本は完成していないんだ……作者が執筆中に行方不明になったからね。その後誰かが残された断片的なテクストを本にして、こうして俺の手に渡ってきたってわけ」
彼はその場に座り直して足を組んだ。彼の真っ赤な服に縫い付けられた金の装飾が蛍光灯を反射して怪しげに光っている。ヒールを揺らしながら彼は続けた。
「この本に書かれている文章は俺以外誰にも読めない。何故なら筆者自身もこの言語を忘れてしまったからだ。いや、死んだわけではないよ。ただ、存在しなかったことになってしまっただけだ。でも面白い事に、筆者はこの本のことを忘れてしまったのに、本能的にこの本を探し回っているんだ。筆者はこの世界に閉じ込められていたから、産まれた故郷に帰りたい……みたいな事なのかな。よくあるよね、執筆中の文豪が自分の世界を精密に構築するあまり、自分自身が自らの言葉に食い尽くされてしまう事……。」
彼は綺麗に装丁された本をパラパラと捲った。
「何故筆者はこの小説を書いたか知りたい?」誰も見た事の無い文字がそこには確かに刻まれているが、インクが白い光に当てられて光り、白飛びしているからか、真っ白い紙に見えるのだ。それは些か奇妙な現象であった。
「興味がある、みたいだね。……自分自身を救う為さ。今回俺が話せるのはここまでかなあ。楽しかったよ。普段は退屈しているから。もうここには来るなとあれほど言ったのに、君は……危険を犯してまでも未だここに来るんだからね。俺は君のその度胸を買っているんだ。俺はいつでも君を殺せると言ったけれど、今殺してしまうより、君がいつまでここの殺気に耐えられるかを見てみたい……観察してみたい、今はその好奇心の方が強いよ。」
彼はゆっくり立ち上がった。
「……君はいつまでこの殺意に呑まれないでいられるのかな。君はもう気づいている?」
彼は目を細め、とても楽しそうに見えた。見える筈なのに、何故彼は泣きそうな顔をしているのだろう。
「ここは小説の中だって事を」
私は頭を殴られたような気がした。首の根を掴まれた気がした。締めあげられるような舐め上げるような恐怖が私を指先から冷たくしていく。ジワジワと迫り上がる圧迫感。頭の中で警告が鳴り響く。ここにいてはダメだと本能的に足が動こうとする。
「早く目覚めな。送ってあげる。」