オクバデ/金冠月食それは金色(こんじき)の指輪の様
それは黄金の日ノ国ジパングの様
それは黄金色の輝くドーナツの様
産まれて初めて見た金環月食は例えようの無い衝撃だった。この光景は生涯忘れる事はないだろう。貴方と共に見たこの世のものとは思えない程に美しくおぞましい自然現象を。古の人はこの現象を不吉の予兆だと思うだう。或いは、吉兆と見るかもしれない。どちらにせよ、天文学者がこれの周期を調べ、何故そうなるかを定かにしてくれたお陰で神秘的な光景として今に受け継がれている。僕も見とれちゃうよ。
「綺麗だな」
嗚呼、バデー二さん。貴方の方がもっともっと綺麗ですよ、と伝えたら怒るだろうか?この金環の中に閉じ込めてしまいたい。綺麗✕綺麗=耽美になる。
「はい!とても!」
「まさか本当に晴れるとはな。天気予報も百パーセント命中ではないから、内心どうなるかと思ったが…」
ある周期で訪れる世紀の現象を目の当たりにしようと街の近隣のグラウンドで待機していた。周囲には二人と同じく金環月食を観測しようと集まってきている。大賑わいだ。
「この世に産まれてきて良かったって思える瞬間かもしれません」
「はっ、ロマンチストめ。まだ観測前だぞ?」
彼は男のその言葉に呆れてしまう。彼曰く、ロマンチストとは夢見がちな人間が幻想に浸りたいが為に無意識的に自演しているのだとか。
「まさか、心待ちにした瞬間には泣いたりしないだろうな?」と彼が揶揄うと「泣いたらごめんなさい」なんて素直に謝るものだから今度は笑いが止まらなくなった。愛しい恋人は純新無垢だ。何色にでも染まってしまう。天体に興味を持たなかった男が彼と出会い次第に惹かれていく様は、ますでグラデーションと例えて良いだろう。黒から白へ変わるのは二色だけではなく、その過程に薄い黒、濃い灰色、灰色、薄い灰色、濃い白色、白色といった調べればそれは何色かの名前が付けられているが、この場では省く事にしよう。いつか説明出来る機会があれば彼は男に説くだろうから。
「泣いた顔を撮影してやろうか?きっと男前に…」
「や、やめて下さいっ」
と勢い余って芝生の上に彼を押し倒してしまった。幸い、ビニールシートと身体が痛まない様に低反発クッションを持参していた為、芝生と土の汚れと背中と頭の地への衝撃的は免れた。
「なんて奴だ。押し倒すとは…」
「わ、す、すみませんっ!ついっ」
「つい、ね…こんな大勢の中で。全く……」
「………怒りました?」
押し倒された状態で文句を言えば、すぐ様退いて右手を掴まれて上半身を起こされる。周囲から見れば悪ふざけの一貫にしか見えないだろう。
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裸眼を守る為にサングラスを着用し、月と太陽が接近し重なる瞬間を目の当たりにした。本当にそんな現象があるなんて。半信半疑だったオクジーは双瞳に焼き付けんとばかりに瞬きを忘れて凝視している。
「綺麗ですね、バデー二さ…ん」
語彙力など関係無しに、その言葉しか浮かばない。金環月食もさる事ながら、隣のバデー二の姿もそれに匹敵する程に美しい。思わず見とれてしまう。月色した髪が何とも言えない。オッドアイの瞳も惑星の星の一つの様だ。この人は宇宙の申し子なのかもしれない。前世も現世も、こうして巡り会えたのは神が与えて下さった恵みなのだろうか。やばい、涙が出そう。
「オクジー君」
男は目線を空に戻す。そして無意識に彼の左薬指に触れていた。自らの右薬指の先で眺めている光景と同じ円を描く。すると擽ったいのか、ムスッとした目線が訴えてくる。「邪魔するな」と。まだ指先を動かそうとしているオクジーの五指を絡め取られた。彼のの温もりを感じて生きている喜びを噛み締める。
これは禁断の"愛"であり
これは禁断の"恋"であり
これは禁断の"薔薇庭園"
この金環月食にバデー二を重ね見る。そっと彼の唇を奪うと、すぐに押し返されてしまった。場所を弁えろと。月の様な貴方を守る盾となりたい。この想いは生涯、変わる事はないだろう。愛は雪の様に降り積もりて周囲を覆ってしまう。誰にも邪魔をさせない愛はこの地球(ほし)さえも飲み込むだろう。新雪の様に柔らかい貴方の心の奥を奪って美しく俺を虜にさせる赤い薔薇と混じり合ってしまえば、そこは楽園となる。
願わくば、この金環月食が終わらないでほしい。このまま永久(とわ)に。
触れた唇の温もり
雪の様に振る薔薇
愛に満ち溢れた愛
月の調べに酔わん
2024/12/29
金環月食を鑑賞するオクバデ
別作品のリメイク
加筆修正しました
当時、金環月食の現象を調べて書いていたのですが、加筆修正中に不安になってきましたが敢えて現状維持となります。