ラファアル/星空の下でワルツを「こんな絶美な夜には手を取って踊りたい気分になる」
「踊るって?」
僕は踊るという意味を知らない。手を取る?何で?綺麗な夜だと、そう思えるの?
「あ、君はまだ子どもだから踊りがどんなものか知らないのか。もう少し大きくなったら、社交界で触れる機会があるかもしれないね」
「大人?しゃ…こうかい?」
「う~ん…言葉では難しいか。では一緒に実践しよう。これは大人と大人の、ある意味お遊びであり駆け引き、もしかしたら時代がひっくり返ってしまうかもしれないんだ。だからお父様には内緒に」
「はい」
理解不足な僕の両手を取って天へ上げられた。
「うわ」
上に重心が伸びて足元が揺らいだ。
「あ、ごめん、身長差があったね」
「大丈夫です」
「なら、こうしよう。せーの!」
「え?あっ」
先生に片手で抱き上げられ目線を近くに感じた。そして同じ位置になっている。先生から見た景色はこんなにも高い世界なのかと感動した。
「落ちない様に右手で僕の肩か腕を握ってて。左手を前に出して?そう。指と指の間に入れて軽く握る。上手」
「これは?」
「踊りだよ。こうして互いの掌を重ねて指を絡め、肩に反対の手を置いてバランスを支える。ワン、ツー、スリーという風に二人で同じ方向に足を出し退いたりする。男女で行うのが一般的かな。今は男女の立ち位置は気にせずに動きだけを感じよう」
「こんな綺麗な夜に踊れたら楽しいんでしょうね!」
「今はどんな気持ち?楽しい?楽しくない?」
先生の動きに合わせて動く世界は面白かった。まるで沢山の星が一緒に踊っているかの様に。
「た、楽しいです!」
「それは良かった」
微笑んだ先生は本当に嬉しそうだった。だから僕も嬉しい。知らない世界を教えてくれる先生が好き。星が好きと同じように。
「好きなんだ。踊るのが。またこうして内緒で踊ろうか?」
なんて悪魔の囁きを告げれば少年は頷くに決まっている。純粋な心を利用して僕の方へ仕向ける。知らぬ内に惹き込んでやるのだ。
「はい」
「僕と同じ視線から見る星も普段と異なり近く見えないか?」
「手を伸ばしたら届きそう」
「そうだね。どの星を食べてみたい?」
無数の星から一つなんて選べない。この掌で掴める粒を口の中に頬張ってしまいたい。一体どんな味がするのだろう?
2025/03/08 ⚰️