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    カタバミ

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    カタバミ

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    草笛を吹く隊長と、聴いてるちび左之。

    草笛ボッッッブボボッ!!ヴヴヴヴヴッッ!!ズボボボボボボボボ!!ポンッ!!ボン!!

    晴天の空の下、相楽総三の奏でる草笛のメロディが広大な信濃の大地を駆け抜けた。
    幼い左之助は彼の傍らで草笛の音色をうっとりと耳を傾けている。長くて辛い行軍の休憩中、総三の奏でる草笛の音色が左之助の近頃の楽しみであった。
    振動するバイブレーターの如き振動音、大型の鉄馬から鳴り響く排気音のような重低音、軽やかな破裂音──どれもこれも左之助の疲れた心を癒す、オアシスのような音色だ。「隊長の草笛、最高ッス…。」
    「ふふ、ありがとう。曲名は『ニラの葉と奥歯と指~下諏訪から愛を込めて~』だよ。」 
    「はわわ、隊長マジかっけぇッス!!」
    左之助は顔を紅潮しながらはしゃいだ。
    気づくと、二人の周囲は野の獣に囲まれていた。ウサギ、シカ、キツネ、タヌキ、ネズミ、カピバラ、ネコ、イヌ、ヌートリア──あらゆる動物が二人の周囲を囲んでいた。
    「あは、きっと相楽隊長の奏でる草笛の音につられて来たんスよ。あ、見てください。野生の新撰組三番隊組長もいますよ。眼光鋭~い。」
    「本当だ。殺気が凄まじいな。」
    「あはは、おいでおいで。」
    「コラ、左之助。野生の新撰組三番隊組長にあまり近づいてはいけないよ。」
    総三が制止するよりも早く、野生の新撰組三番隊組長の牙突が左之助を威嚇した。
    「ひゃあ!怖いよ!」
    「こっちへおいで左之助。しっし、早く京に帰れ!」
    野生の斎藤は舌打ち一つ、踵を返すと草むらの中に戻って行った。
    左之助はホッと安堵したが、自分が総三の胸に抱きついていることに気づき慌てふためいた。
    「わあ!隊長すんません!」
    左之助は総三から離れようとしたが、総三の腕に固く抱きしめられて逃れられなくなった。
    「た、隊長…。」
    「離れないでくれ、左之助。まだまだお前に聞かせたい曲はたんとあるんだ。」
    「隊長…。」
    相楽総三の草笛リサイタルは終わらない。
    響き渡る音色を聴きながら、左之助は幸せだった。

    【終わり】
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