「南北」
「起きてる?」
「うん」
「行っていい?」
「うん」
眠れない夜、東西は僕のベッドにやってくる。
自分の時間を邪魔されるのが嫌いな僕が、夜、チャットアプリの通知を切らないのは、このためだ。
断らないのは分かっているだろうに、それでもあえてか、または申し訳程度の礼儀か。毎度伺いを立てられては、それを受け入れている身として、文句は言えなかった。
東西は僕の部屋の鍵を開けて入ってきて、鍵を閉めて、靴を脱いで、寝室の床を鳴らす。
そうやって耳だけで彼の行動を追っていると、ひやりと冷気が肌を撫でて、同じ冷たさをした体が滑り込んでくる。
「すぅ……」
背を向けているので僕から東西のほうは見えない。
けど、
僕の首筋に顔を埋めて、きっと、胸いっぱいに僕のにおいを吸い込んでいるんだろう。
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