SS①「いッた、はぁ?」
足元を掠めていった鉄の塊に舌を打つ。ぐぅ、と目を凝らしても打った張本人は見当たらず、一先ず推測の射線から逃れることを優先し体制を変えた。
チラリと僅かに離れた場所に居座るせんせいがこちらを見やった。やや嫌な顔をしている。あ〜ぁ、やっちまった。
どうにもせんせいは俺か舌打ちするのが嫌らしい。あの顔は心配七割不満三割、といった所か。
怪我は動けないほどではない。この現場が落ち着く頃には血も止まっているはず。ひらりと手を振って無事を知らせる。
せんせいは弾丸を放った張本人を見つけたようで、数度銃声の後視線を戻した。
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「…こういった環境にいれば仕方がないかもしれないが、」
「はいはい、もうしないって。多分。」
せんせいは良かったはずの素行が悪化していくのが不満のようだった。全て両親から貰ったもので、自分自身も大切にしたい気持ちも無くはない。だが、
人殺しになった時点で無理だろ、
口には、しなかった。出来なかった。
この暮らしは随分気に入っている。各地を回ることも、銃を握るのも、生死のやり取りをするのもむしろ心地良ささえある。
こういう気質だった。自分は。
もう何も無く平和な世界を空想できないほどにこの世界に浸っている。
“異邦人“
せんせいから貰った本のタイトル。
いつしか、自分の夢になっていた。
死ぬまで世界を回っていたい。血生臭くても、路地裏で朝を迎える生活も構わない。
知らぬ世界を全て知りたかった。
「なぁ、せんせい。」
「なんだ、」
「やっぱ俺さ、」
_せんせいに着いてきて良かったよ。