SS②__どこだ、ここ。
身体を動かそうとまず瞼を押しあげればただ視界が赤く塗られていた。どろ、と赤い粘液が瞳を這い、思考そのものを阻害していく。
ぴくりとも動かない指先に心当たりがない。…いや、違う。
ターゲットを殺して、殺して?殺して、どうした、
動いた地面に瞬間的に理解していたはずだ、“爆発する“と。身を隠す場所もない。通信機に助けを求めようにも、そんな時間すらない。
どうにか身を丸めて受け身だけは取ろうと努め…その後は?
ぬるく肌を這う液体を血液だと理解する。
どこからかも分からない。泥に溺れたように沈殿する思考をとろく働かせ、現状を把握しようと赤の隙間から見える視界を追う。
ガタガタの地面と、潰れた血肉。
上がらない視線の範囲にはろくなものが映らない。崩れた地面と、埋もれる下半身、?いや、無い。片足がない。みぎひだりどっちだこれ。
指先がない。なんだ、動かないんじゃなかったか、
「なぁ〜んだ、…、?」
ならいいか、なにが?分からない。
どろりと重く鬱陶しかった思考が泳ぎ始め、生暖かい液体に身体が浸されていく。いっそ心地良ささえ感じるほどに冷えたからだに液体が染みた。
つかれた、ねむい、もういい。
赤く染った視界が白く上塗りされていく。痛みも一瞬浮かびかけた思考も遠くへ追いやられ、ただぬくもりに体を任せる。
起きたら、どこいんだろ。
地獄か、それとも。、?それとも、…、
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ドッ、ガンガラどちゃ、
目が覚めた。反射で起きた。布団に戻りかけた体を支えようとして失敗し右から床に落ちた。過程でそばに置いてあった椅子を巻き込み共に数回転した。上記はその音である。
「いっってぇ……」
ぁ?痛覚。生きてる。
手を見る。ある。
足を見下ろす。ある。
どうやら仲間が間に合わせてくれたようだ。あそこから入れる保険あるのか、すごいな。
現実から逃げただけの思考がゴロゴロと回っていく。うーん。仕方がない、向き合おう。
先ずここはおそらく自室である。ベットサイドに椅子を置いた覚えは無いが、おそらく仲間の誰かが置いていったのだろう。
ドン、ガチャッ、!!!
勢いよくドアにぶつかり、そのままの勢いでドアを開けた音である。上記は。
つぅ、と床に椅子と絡み寝転んだまま、視線を音の方へズラす。
「…………」
ドアノブを掴んだまま押戸を開けた彼が、開けた姿勢のまま目を見開いて立っている。
すっと細められた目に寒気がした。なにか、何か嫌な予感がする。いやこんな奴にそんな予感がしてたまるか、知らない。こいつの感情など配慮しないと決めている。
黒髪ロング、紫の薄い瞳をもつ男を直視できない自分を心底恨む。くそが、もう既に負けている。
そっとベットに戻ろうとして近づいてきた奴に腕を掴まれ、
「おはよう、鬼。元気そうで嬉しいよ」
「…ッス。」
せめて、せめてベットから落ちていなければ幾分かマシだった。もうどうしようも無い無意識の行動を後悔し、視線を合わせないように瞼を閉じた。