沸騰している鍋の中を覗き込むとそばがお湯の中で踊っていた。まな板の上に並ぶ海老は奮発したんだろう、大ぶりの車エビが二尾。
「ねえ、もう茹だってるよ、大丈夫?」
「まだ、もう少しだよ」
「エビって剥くだけじゃないよ? 背わた取ってくれないとやだからね」
「あ~~、分かった分かった、いいから、座ってろって、お姫様」
キッチンをウロチョロしながらあれこれ口を出していると、突然振り返った半分が口の中に伊達巻きを詰め込んできた。
「んぐ………だってえ、半分が料理できるとか初耳すぎて……心配なんだもん」
「お前と住む前は一人で暮らしてたんだから、出来るに決まってんだろうが」
「それもそっかぁ……じゃぁ、よろしく」
急に年末年始の料理は任せろなんて言われたときはびっくりしたけど、詰め込まれて飲み込んだ伊達巻は私が作ったのより美味しいんじゃないだろうか? 余計なお節介をしていたと分かって大人しくリビングに戻ってソファーに座る。
「クッキーのおせちも買ってきたからねぇ、明日一緒に食べよーねぇ」
すかさず膝に乗ってきたクッキーの顔を撫で回すとくんくんと鼻をならして甘えてくるので、そのまま二人でじゃれ合っていることにする。
「できたぞぉ」
お盆を持った半分が来るとクッキーは忙しな足元にまとわりついて尻尾を振ってる。それを慣れたようにかわして机の上に置かれた丼を覗き込む。湯気といい匂いの香りたつベーシックな年越しそばだった。
「おいしそー、いただきまぁす」
「時間も丁度いいだろ、がっついて火傷すんなよ」
いそいそと箸を手に取りながら両手を合わせる。
「私の方が海老天おっきい」
「好きだろ」
「好きだけどさぁ……半分が作ったし、いっぱい食べるし、こっち食べなよ」
目の前のご馳走に手をつけようとしたところで、半分のより私のそばに乗ってる海老天の方が一回りほど大きいことに気がつく。海老天なんか滅多に食べないし好きだけど、それは半分も同じだし、だからこそ半分に食べて欲しいと思う。
「いいから、食えって」
丼を持ち上げて入れ替えようとするががっちりと手を握られて微塵も動かすことが出来なくなる。よく見たらこっちの方がかまぼこも多く乗ってるし。
「半分は私のこと甘やかしすぎだと思う」
「そりゃあな」
「そりゃなって……いや、まあ、いいけど……改めて、いただきまぁす」
諦めて箸を手に取ると半分は自分は食べる様子も見せず、こっちをジッと見つめてる。食べずらい。
「………うまいか?」
「うん」
「そりゃ良かった」
おっきい海老天を持ち上げて食べてみる。薄い衣はサクサクで、中の海老はぷりぷりで、凄くおいしい。咀嚼し終わるのに合わせて感想を聞かれてるので素直に頷く。なんか、それが恥ずかしくて俯いてしまう。垂れてきた横髪を優しい手つきで私の耳に掛けながら微笑み掛けてくる半分に、心底この人を好きになってよかったと、改めて思った。