その町はずれにある小さな教会に立ち入った時、男は思わず視線を上げた。入ってすぐ、床にちらちらと光る七色の陽光は、壁の上部に作られたステンドグラスを通して映し出されたものだった。前時代の様相ながら、精巧に作り込まれている。思わず感嘆の吐息が漏れる。昼間なのに人の気配はない。中の空気は少し埃臭いが、男の心を落ち着かせるには十分な場所だった。旅の合間を縫ってまでここに来た甲斐があったと思った。
彼は一介の楽士であった。客に雇われてそのハープを弾きならしては、賞賛の声を与えられた。彼はまだ年若く、はじめは名もない楽士ではあったが、その音楽の才と類まれなる美しい容姿から、彼の名が知れ渡るまでに時間はかからなかった。彼はいずれ正式にとある楽団の一員となり、様々な星の間を旅して演奏をするのが彼の生業となった。客は彼の音楽にみな心を動かされ、瞬く間に楽団は人気を博したが、仲間のうちには彼をよく思わない者もあった。彼を何とかして貶めたいと願う者、そのような行為を許すまいと正義を振りかざす者、2派の抗争に巻き込まれたことに耐えられず楽団を抜ける者など、彼をめぐって起こった問題は数多くあった。その中で流されたあらぬ噂から客もいつしか彼を見る目が変わっていった。……ある日、雇い主に呼び出された彼は、鞄に詰め込まれた多額の手切れ金と手持ちのハープを抱えて楽団を去ることとなった。
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