紫苑 ─one year and after─余命1年と聞かされた時、真っ先に頭に浮かんだのは、残された妻はどうなるだろうかという不安だった。
ずっと体調が悪い日々が続いていた。いつものことだからと特に気にも留めていなかった。妻と一緒に夜ご飯を食べていたある日、突然吐き気を催して、トイレで胃の中のものを全て戻してしまった。吐瀉物には僅かに血が混ざっていて、血相を変えた妻にすぐに病院へ連れて行かれた。
自分の身が病に侵されていることを知ったのは、検査を受けた翌日だった。
その病気自体は、特に高齢な人間が患いやすいもので決して治らない病じゃない。治療薬もちゃんとある。しかしそれは早期に発見できればの話で、僕のように末期に近い人間には手遅れだった。
去年の健康診断では異常なしだった。おそらく、元々体が弱いために一気に病気のレベルが進んでしまったのだろうというのがお医者さんの見立てだ。普通の人なら、今からでも治療を開始すればそれなりに進行を遅らせることができるらしいけれど、虚弱な自分の場合は、多少進行を遅らせたとしても体のほうがもたないだろうとも言われた。
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